裸の付き合い
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甲高い女の叫び声が家中に響く。
「どうしましたか! 葉子さん!」
千寿郎が慌てて廊下に出ると、風呂から出てきたばかりの杏寿郎と、顔を真っ赤にしてそっぽを向いている葉子がいた。杏寿郎は裸であり、下半身に一枚の手拭いを巻いただけのあられもない姿であった。
「す、すまん葉子。浴衣を着て来る」
そう言って杏寿郎は出てきたばかりの風呂場にまた戻って行った。
「もう……心臓に悪過ぎます」
葉子は胸に手を当て、一つため息をついた。
「すみません…… 葉子さん。長いこと男所帯だったものですから、その癖がまだ抜け切れていないみたいです」
千寿郎が眉をすまなさそうに下げて謝った。
・・・
「きゃあ!」
甲高い女の叫び声が家に響く。何事かと千寿郎が廊下に飛び出すと、顔を真っ赤にしてそっぽを向いている葉子と、風呂上がりに裸に下半身を一枚の手拭いで巻いているあられもない姿の槇寿郎がいた。
「おい、葉子。何事だ? 大丈夫か?」
槇寿郎は顔を真っ赤にして後退りする葉子を心配して近付くが、葉子は声にならない声を出しては口をぱくぱくとしているだけでそのまま小走りにどこかに行ってしまった。
「どうしたのだ…… 葉子は?」
そこへ一部始終を見ていた千寿郎が声を掛ける。
「父上が裸で風呂から出て来たので驚かれたのです。葉子さんもいることですし、風呂上がりは浴衣を着なければいけませんね。兄上にもこの前同じことを言いました」
「……そうだな。男所帯では無くなったのだから当然だな。俺も今後は気を付けることにしよう」
そう言うと槇寿郎はそのままの姿で自室へと向かって行った。
翌日。台所で炊事をしていた葉子に風呂に入っている槇寿郎より大声で「浴衣を忘れた」と声が掛かかる。「今、お待ちしますね」と、部屋から浴衣を持って来ては脱衣所に既に槇寿郎がいては困るので、扉の外より人の気配がしないのを確認すると、恐る恐る風呂の脱衣所に入った。
「浴衣をお持ちしました。置いておきますね」
と声を掛けると、直ぐに。本当に直ぐに風呂場の扉が開かれて、裸の槇寿郎が出て来た。
風呂上がりの為に体からはほかほかと湯気が立ち上り、鍛え上げられた男盛りの肉体が惜しげもなく開放されていた。
「で、出るのが早過ぎますっ!」
葉子は見てしまったが、慌てふためいて脱衣所から逃げるようにしてその場を後にした。
しばらく葉子は槇寿郎と顔を合わせれば赤面していたが、それも時間と共に薄れて来たある日の夕刻。葉子は夕飯の支度に取り掛かろうと、割烹着を着ながら廊下を通り、台所へと向かっていた。
するとなぜか全裸の槇寿郎が台所前にいた。
「ちょ! 槇、槇寿郎さん! 何してるんですか!?」
「風呂に入ろうと思ってな」
「ふ、服は脱衣所で脱いで下さいっ! お願いですから!」
葉子は槇寿郎が裸で脱衣所に入って行くのを部屋の柱の影から見届けて、台所へそろそろと向かって行った。ドキドキとする気持ちを落ち着かせ、炊事に取り掛かろうとした時、
「葉子、浴衣を忘れた。後で置いておいてくれないか」
ふらりと台所まで出てきた槇寿郎が声を掛ける。もちろん全裸だ。思わず手から皿が滑りそうになった。
「わ、わかりましたから早くお風呂に行って下さい!」
「うむ、頼んだぞ」
それ以来、槇寿郎は風呂に向かう時も既に全裸で、風呂から上がっても全裸。とにかく全裸で家をうろつくことが多くなった。主に杏寿郎のいない日に。
「父上……なぜこんな冬の日に裸でうろつくのです?」
ある日のこと、千寿郎が父に問うた。さすがに裸の槇寿郎を見る度に、顔を真っ赤にして動揺する葉子を不憫に思ったのだ。
「風呂に入るからだ。それと風呂上がりだからだ」
「本当にそうでしょうか? 前に葉子さんが家に来たので、そういうことには気をつけましょうと、そう言いましたが……」
槇寿郎は虚をつかれた。大人しい千寿郎が自分に物を申すことなどなかったのに。これは厄介だぞ、そう思った時だった。
「父上、あまりに不自然過ぎます。まさかとは思いますが、葉子さんを性の捌け口にしていませんよね? 葉子さんの反応を見て楽しんでいませんよね? 元炎柱ともあろう父上が」
「そんなわけ……があるわけないだろう」
千寿郎は父親のその言葉にほっとしたのか、笑顔になった。
「そうですよね。まさか立派な父上がそんな変態じみた気色の悪い薄汚い真似を葉子さんにするはずがないですよね。余計な心配でした」
そう言って千寿郎はにこにこと振り返り様にさらに付け加えた。
「……そうそう、留守を任されておりますのでこの件は兄上にもお知らせしておきます」
「何だと……?」
それ以降、槇寿郎は全裸でうろつくことはぱったりと無くなったという。