みかん
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杏寿郎が任務より帰宅をすると、まず玄関に箱が複数置いてあった。
(みかんか。時期だからな。貰ったのだろう)
そのまま廊下を進むと今度は縁側にみかんの皮が竹製のひご皿の上に広げて置かれていた。どうやら乾かしているようだ。
しかしそれが3つも並べられていて、一体何に使うのか杏寿郎は首をかしげた。
「……ということがあったんです」
「……そうなんだ。それって……」
家人の声が居間から聞こえてきて杏寿郎は温かな気持ちになった。家に無事に帰って来たのだと、声を聞いて実感が持てた。
「帰ったぞ!」
居間の障子を開けると思った通り、葉子と千寿郎がいて2人はこたつに入りながらみかんを食べていた。
2人の前には山積みになったみかんが置かれ、部屋の隅にもみかんの箱が2箱置いてあった。
「おかえりなさい。兄上!」
「おかえりなさい」
「うむ!みかんだな!みかんがやたらと家にあるな!」
杏寿郎はさっとこたつの中に足を入れた。
「温い!!」
・・・
「ご近所の方々が、お歳暮にみかんを下さったのです。来る方がだいたいみかんを持っていらっしゃったので、すごい量になってます」
「今年のお歳暮は皆さんみかんを持って来るのです。みかんが豊作なのですかね?」
葉子と千寿郎はみかんの皮を剥きながら言った。
聞けば、みかんはそこまで日持ちしないので朝昼晩、それにおやつと夕飯の果物にと朝から晩までみかんずくめ。そして、みかんの皮を乾燥させ風呂に入れ、入浴剤として使っているのだという。
「甘露寺にもわけてやろう!」
「そうですね。これだけあると、食べきれないうちに腐ってしまいそうです。蝶屋敷の皆さんにも持って行きましょうか」
「うむ。それが良い!」
とりあえず有り余るみかんの放出先が決まったので葉子はほっとした。みかんは嫌いではないが、これだけあるとなかなかに食の手が進まないのも事実だった。
「でも……これだけ毎日みかんを食べていたら、私もいつか杏寿郎さんや千寿郎君みたいな髪色になったりして……」
そう言って、1つみかんを口に入れた。甘酸っぱい水々しさが口に広がる。
杏寿郎と千寿郎はぽかんとした顔になった。
「それは有り得ないです」
「ないな」
「じょ、冗談ですよ!」
2人に真顔で言われ、葉子は顔を赤くした。冗談で言ったつもりなのに。真剣に受け止められてしまったらしい。
ともすると、あなた方の髪色は一体何がどうしてそうなったのかと思ったが、葉子は口にしないでおいた。
「葉子、みかんでは無理だ」
「…………」
千寿郎は黙ってみかんを食べている。
(あれ、何か……何か知ってる感じ?)
2人の様子がどこかおかしい。
知ってはいるけれど、言わない……ということのようだ。この髪色になるには何か方法があるらしい。そういえば父親の槇寿郎も同じ髪色をしている。
葉子は煉獄家の髪色がどうも何かしらの手が加わるような産物だというのに驚愕した。
「まぁ……おいおいわかるだろう!」
「葉子さん。頑張って下さいね」
なぜか千寿郎からは応援をされ、意味が全くわからなかった。
(母親の瑠火さんも同じような髪色してたのかな……でも、きっとお嫁に来てるはずだから途中からそうしたのかな……)
途端に自分にあの奇抜な髪色は似合うのだろうかと心配になった。
(目立つよね……私にそんな覚悟があるのかな……うーん。そんなことなら煉獄家に来る前に早めに言ってくれないと。けっこう重要な問題だと思うんだけど)
目の前のみかんと杏寿郎の顔を見比べて、1人悶々とする葉子であった。