1.夢
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藤の花の家紋の家は、その昔、鬼殺隊に命を救われた過去を持ち、鬼殺隊に無償で尽くす事を約束している者達である。
鬼殺隊に対して理解があるので、隊の中には、藤の家紋の者と
葉子もそんな藤の花の家に生まれた娘だった。
・・・
葉子は夢を見た。
自分はとても小さい子どもだった。もう一人、子どもが側にいる。自分よりかは2つ3つ年上の少年に見える。
親はどこにいるのだろう。ここはどこだろう。
初めて見る景色に戸惑っていると、もう一人の子どもは葉子の手をとり、歩き出した。
「父上達は大事な話があるんだって。屋敷の中を案内してあげる。あっちで遊ぼう」
葉子は言われるがまま、少年に手を引かれついて行った。
ここは大きく立派な家で、庭は手入れが行き届き、緑色の垣根もきっちりと剪定されている。綺麗な庭だと思った。
庭ではひときわ大きな桜の木が目についた。ちょうど満開に咲いた花はひらりひらりと、桃色の花びらを散らしている。こんなに立派な桜の木は見た事がない。
「うわあ……きれいねえ」
「この桜はご先祖様の代からずっとずっとここにあるんだ。これからもこれから先もずっと毎年春になれば花が咲いて、満開の桜を咲かせるんだ」
桜の木を見上げながら、少年は誇らしげに言った。
葉子は幼いながらに、この人は立派な人なのだと思った。清く、真っ直ぐで力強い。
桜の花びらがひらひらと顔の前に落ちて来たものだから、葉子は夢中になって花びらを捕まえようとした。捕まえたと思ったら、花びらはするりと手から逃げて落ちて行く。その様が生き物のようで、夢中で花びらを追いかけた。
追いかけるのにやっきになり、周りが見えなくなったので、葉子は側にいた少年にとんとぶつかってしまった。
「あ……ごめんなさい」
少年はにこりと微笑むと、葉子の髪についた花びらを一つ摘んだ。
「ここにもまだついてるよ」
髪を触られているのがくすぐったくて、恥ずかしくて葉子はくすくすと笑った。
ふと、親がどこにいるか気になったので、きょろきょろと親の姿を探すと、親は縁側の向こうからこちらを眺めているようだった。
「葉子、待って来たものを渡すのではなかったの?」
まだ若かった母が優しく言った。そうだった。この日の為に、待って来たものがあったのだ。
葉子は着物の袖に入れていた折り鶴を取り出した。赤い花菱の亀甲模様の千代紙で作った折り鶴。
「作ったの。どうぞ」
「…………!」
少年は突然の贈り物に驚いた顔をしていたが、すぐに目を弓なりに細めて笑顔になり、葉子の手からそっと大事そうに折り鶴を受け取った。
「ありがとう」
その笑顔が本当に嬉しそうで、葉子も嬉しく何だかこそばゆくなった。鶴を折るのはまだ小さな自分では難しく、折り目もひどく不恰好だったけれど、喜んでくれている。あげて良かった。
葉子は再びひらひらと落ちてくる桜の花びらをつかみとろうと、ぱしりぱしりと手をたたき、桜の木の下をくるくると動き回っていた。
「……これからたくさん剣の修行をする」
「うん」
「それで、うんと強くなったら僕のお嫁さんになってくれる?」
「うん。良いよお。うんと強くなってね」
「頑張る。頑張って柱になる!」
「うん!」
夢はそこで途切れた。
少年はとても印象的な髪の色をしていた気もするけれど、記憶には霞がかかっていて、相手の子どもが誰で、どんな顔をしていたのかは思い出せない。
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