9.煉獄家
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今朝方、煉獄杏寿郎からの使いの鎹鴉が到着し、後2時間程で家に到着するとの知らせを受けた。
今日、杏寿郎が許嫁を家に連れて来るのは事前に知っていたが、簡単に身なりを整え、家の掃除をした。
将来の嫁を迎える以上、家の格や身なりを整えておかなければ。
第一印象は大事だ。
簡単に部屋や門の前を掃除し、2人は門の前で待っていた。
家の中で待っていても良かったが、特に父親の槇寿郎の方が待ちきれなくなって外に飛び出したのだった。
「あああああっ!まだか!まだなのかっ!」
「父上、落ち着いて下さい。じきに来ますよっ……」
元々少し下がり気味の眉毛を、さらに下げて千寿郎はおろおろと立ちすくんでいた。
「まだかっ!もうとっくに時間は過ぎているぞ!まさか!事故にでもあったんじゃ……」
「兄上も一緒ですし、それはないと思います……」
槇寿郎は2日前より大好きな酒を絶っていた。
そして槇寿郎には息子が2人いるが、元々娘も欲しいと思っていたので、葉子が来るのを心待ちにしていた。杏寿郎と結婚をすれば「義理の娘」にあたるわけだ。
腕組みをしながら、門の前を行ったり来たりじりじりとしていた槇寿郎の横で
「あ……いらっしゃいましたよ!父上!兄上ともうお一人いらっしゃいます!」
・・・
千寿郎は良い香りの立つ煎茶を前に置いた。
「ありがとうございます」
にこりと微笑んでくれる様は、とても朗らかで千寿郎の中に温かな気持ちが湧き上がった。
(この方が……姉上……)
山吹色の着物に緋色の帯を締め、髪の色や目、顔立ちは自分達とは全く違うが、まさに煉獄家の人間のようだと思った。
尊敬する兄にこんなに素敵な女性が嫁ぎに来るなんて、何と誇らしいのだろう。
千寿郎は、嬉しさのあまり、涙が出そうになった。
物心がつく前に母が逝去し、千寿郎は母の温もりを知らない。
学校に持って行く弁当は自分で作り、学校行事には毎回父である槇寿郎が参加をしていた。両親が揃って来ている級友を何と羨ましいと思ったことか。
こんなに若くて美しい人が学校に来たのなら、周りの級友は驚いて羨ましがるに違いない。今日から先の未来の事を考えるのが楽しくて仕方がない。
「兼季葉子と申します。不束者ではございますが、どうぞよろしくお願い致します」
恭しくお辞儀をした頬はほんのり紅色に染まり、緊張しているようだった。それがまたいじらしく、畳についた手は父や兄とは違い線が細く、踏みつけてしまえば簡単に折れてしまいそうだと思った。
兄がこの人を一生守って行くのだなと、千寿郎は納得をした。こんなに脆く儚そうなものは誰かが守ってやらないと……
「杏寿郎の父の槇寿郎だ。こちらは弟の千寿郎だ。あの頃の幼子がこんなに立派な女子になったのだな。月日が経つのは実に早いな!」
槇寿郎はこの日をずっと待っていたので、先ほどからにこにこと機嫌が良い。声もいつもより大きい。
「何かと不都合なことがあるやもしれんが、そこは俺や杏寿郎や千寿郎に遠慮なく言ってくれ!先は長い。ゆっくり時間をかければじきに慣れるだろう!」
「はい。よろしくお願い致します」
じっと見つめていた視線に気が付いたのか、葉子は千寿郎をちらりと見た。
またしてもにこりと微笑みを返されて、千寿郎はどきりとした。
鬼殺隊士や隠の者以外で、この家に上がったことのある女性は今までいただろうかと考えた。
「よし!堅苦しい挨拶はこの辺にして、屋敷を案内しよう!」
槇寿郎は張り切って立ち上がった。
他の者も続けて立ち上がるが、葉子は緊張からか足が痺れたらしく、立ち上がると同時にふらついた。
「大丈夫か!?」
そこを咄嗟に杏寿郎が、手を伸ばし葉子を支えた。
「ありがとうございます。足が痺れてしまって……」
「手を貸そう。立てるか?ゆっくりで良い」
その2人の姿が、昔に見た姫君を助ける剣士の錦絵のようで千寿郎は胸が高鳴った。声を出して良いのなら叫びたかった。
(兄上!尊いですっ……!)