8.灯る
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家までの道のりはこうだ。
兼季宅から馬車の乗れるところまで徒歩で行き、馬車で町に出る。町では鉄道に乗り目的地で降りる。そこからさらに馬車に乗り町に出て、煉獄家へと到着する。
長い道のりだ。上手く鉄道に乗れれば、今日中に家に着くかもしれない。馬車の停留所まで葉子を抱えて走れば間に合う。
(しかし、それは彼女が嫌がるだろう)
なので、こうして停留所までは2人で歩いている。
(鉄道には間に合わない。今日は町で宿を見つける必要があるな)
「…………」
振り向いて葉子を見れば、泣き腫らした目を伏し目がちにしており、ずっと黙ったままだった。
このままずっと会話もなく2人で歩くのは息が詰まるのではないか。しかし、杏寿郎はどんな言葉をかけて良いかわからなかった。
鬼殺隊の者であれば、最近討伐した鬼についての話題や呼吸、剣のことなどを話せた。しかし葉子は呼吸も使えないし、剣士でもない。
年頃の娘とどんな会話をしたら良いのだろう。甘露寺や胡蝶にもっと最近の事柄について聞いておけば良かった。甘露寺なら流行りの甘味処の話題も知っていたかもしれない。準備が甘かった。
杏寿郎は自分の詰めの甘さに反省した。
(そういえばこの辺りは……)
・・・
葉子は杏寿郎の数歩後ろを歩いていた。
(あんなに泣いているところを見られて恥ずかしい……)
いつも厳しいことを言っていた母に、優しい言葉をかけられたものだからつい泣いてしまった。今生の別れでもあるまいし。恥ずかしい。
目も腫れているだろうに。顔を見られるのも抵抗がある。こんな顔は見せたくない。
今頃、家にいる両親はどんな会話をしているだろうか。鬼殺隊士の受け入れは両親だけでできるだろうか。隊士を看病している間、食事の支度は誰がやるのだろう。忘れ物はないだろうか。家に行くまでの道のりをきちんと覚えておかないと……
(あぁ……私の荷物持ってもらってるんだった。重くないかな?何だか申し訳ないな)
あれやこれやと1人で考えていたところ、前を歩いていた杏寿郎とぶつかった。杏寿郎が急に立ち止まったからだった。
「あっ……ごめんなさい」
「この辺りは山賊が出ることもあるらしい!」
振り返った杏寿郎は、葉子に言った。
「君を守る為に、もう少し側を歩いても構わないだろうか!?」
「は、はい」
杏寿郎はそれから葉子のすぐ隣りを歩き出した。それこそ、腕が触れそうなくらいに。
(ち……近い)
見上げるとそこには杏寿郎の顔が先程よりもずっと近くにあって、真っ直ぐと前を向いていた。
(山賊が出てたのは明治の時って聞いたことあるけど……優しい人だな)
視線に気が付いたのか、杏寿郎はふと葉子の方に顔を向けた。
にこりと笑ったその顔は陽だまりのように温かかった。