7.別れ
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兼季家に着くと、両親は玄関で床に手をつき、「お待ちしておりました」と、深々と頭を下げた。
通された客間には座卓を前にして正座をする葉子がいて、どこか伏し目がちで、しかし杏寿郎の姿を認めると深々とお辞儀をした。
今日も山吹色の着物を着ており、これが噂の"山吹"と呼ばれる所以になってしまっていたかと、心にちくりと針が刺さった。
葉子の隣りに杏寿郎が座る形となり、茶を運んで来た母親が、父親の隣にそっと座った。
「こんな日が来るとは。昔から決まっていたこととはいえ、いざ娘が家を出るとなると寂しいものですね」
葉子と似た輪郭をした男の顔は、どこか寂しげでしかし嬉しそうでもあった。
「娘は。葉子は、のんびりとしたところがあるというか、ぼーっとしているというか……何かしでかしましたら叱ってやって下さいね。槇寿郎さんにもよろしくお伝え下さい」
「はい」
「葉子。わからないことや困ったことがあったら杏寿郎さんにちゃんと相談するのよ。1人で抱え込んじゃダメよ。家族になるんだから……」
「……はい」
葉子は伏し目がちだった瞳を母親に向けた。
目にはほんの少し涙をためていた。これ以上、両親から言葉をかけられたら泣いてしまうかもしれない。
彼女の涙を見て、それでも家に連れて帰ることができるだろうか。
(彼女は……今は何を思っているのだろうか)
葉子は望まない結婚かもしれない。
元々は親が決めた許嫁だ。自分達の意思は関係ない。
(だが、自分はあの時確かに……)
よく知りもしない男の家に嫁ぎ、しかも相手は鬼殺を稼業としているのだ。彼女なら普通の幸せがあったかもしれない。子を産み育てる。愛する夫と死ぬまで暮らす……自分とはそんな人生は歩めないかもしれない。これで良かったのか……
「さあ、そろそろ行って下さい。家までは遠いでしょうから。荷物は必要な物だけ持たせています。何か足りない物があったら連絡を下さい」
・・・
外へと出た4人は、開かれた門の前に立っていた。今日は風が少し冷たい。
着物くらいしか持って行くものがないのか、葉子の荷物は行李が1つだけで、それは杏寿郎が背負うことにした。
「葉子。こちらへ」
母親が葉子を呼んだ。
肩をそっとつかみ、そして抱きしめた。
「幸せになりなさい。杏寿郎さんを信じるのよ。大丈夫。何かあったらすぐに飛んで行くからね」
母親の優しい言葉についぞ葉子の目から涙が流れた。
「はい。行って参ります。手紙を……手紙を出すからっ……」
抱き合う母と娘に父親の手が添えられ、葉子はとうとうむせび泣いた。
親子が3人、抱き合う姿は絵のように美しかった。美しいと思うと同時に、杏寿郎には罪悪感も芽生えた。
これで良かったのか……
風は冷たく、いたずらに頬を撫でて行った。