5.今度こそ
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音柱の宇髄天元が立ち寄ったあの日から、葉子の家は静かになった。
鬼殺隊士が来なくなったからだ。
父はいつものように日中は村役場に行き、母と葉子は家事に専念していた。
葉子はその合間に自分の荷物をまとめていた。いつ迎えが来ても良いようにと。
(荷物って言っても着る物しかないけど……)
母いわく、祝言をあげる日取りなどは全く決まっていないので、煉獄邸へ道具を運び入れるのはまだ先で良いとのことだった。よって、荷物は着物くらいしかない。その辺りも全て煉獄家側の指示を仰ぎなさいとのことだった。
(来るって言って、迎えに来ないのもそれはそれで寂しいかも)
煉獄杏寿郎はそれでも来なかった。
鬼殺隊を支える柱となれば、北に南にと走り回り、忙しく任務をこなしているに違いない。
「相手は忙しい」と思っていないと、自分が忘れられたようで切ないので、無理やりにでも理由をつけて自分を納得させていた。両親にしてもそうだ。
(でも、私がこの家からいなくなったら父さんと母さんの2人きりになっちゃう)
しかし、それは葉子が誰かと結婚をし、所帯をもつと決まった時から必然とそうなることだ。遅かれ早かれいつかは来る未来。
(……死別するわけじゃないし、いつでも会おうと思えば会えるもんね)
両親と離れて暮らすのは寂しいという気持ちをほんの少し押し殺す。
葉子は、小箱に櫛などの小物を入れ、螺鈿が散りばめられた蓋をそっと閉めた。13歳の髪上祝の時に両親より贈られた大切なもの。これはあちらに行く時に持って行くと決めていた。
「葉子、ちょっと良いかしら」
すると、部屋の襖は開かれずに、奥から母の声のみがきこえてきた。
「葉子。鴉が来ました。隊士様がいらっしゃるようです。葉子は湯を沸かしてもらえるかしら」
・・・
その隊士は、ところどころに頭から血とも泥ともとれるようなものを浴びていたが、怪我はさほどしておらず、あらかじめ用意をしていた湯で湯浴みをし、こちらで用意をした着物に着替え、小綺麗にさっぱりとしていた。
「霧島穂高と申します。隊服を直しに出しておりますので、不躾ながら隊服が手元に戻るまで2、3日お世話になります。そのまま次の任務に向かうようにとのことですので」
母と葉子に向かい、畳に手をつけ恭しく頭を垂れた。ただそれだけのことなのに、その所作がまるで茶道を思わせるように流麗で、これが本当に鬼狩りをしている人なのかと2人を酷く驚かせた。
長身で鼻筋の通った顔立ち。眉毛も目も口も全てが調和のとれた形で整い、まるで昔に読んだ絵巻に出てきそうな人だと思った。
母親は非常に警戒していた。
穂高の人となりに葉子が惚れ込むのではないか。その逆も然りで、葉子のことを穂高が気に入るかもしれない。お互いに好き合ってしまうのではないかと心配をし、初めは葉子を側に寄せないようにと、身の回りの全ての用意は全て母がしていた。
しかし、お互いにその気が全く無いのを察した母親は、次第に身の回りの世話を葉子にもさせるようになった。