4.藤の花の家紋の家
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煉獄杏寿郎は、何日も迎えに来なかった。
待たされている方はとても長く時間を感じるもので、いつかいつなのかと待ち続ける日々はそわそわと落ち着きのないものだった。
任務が忙しいであろう柱にこちらから連絡をとるのも気が引けるという理由から、結局のところ兼季家は待ち続けるしかなかった。
そんなある日
『隊士!負傷!治療願う!』
明け方近く、寝ていた葉子達はけたたましく鳴く鎹鴉によって起こされた。
・・・
鬼殺隊士の怪我は、両手の中手骨の骨折と全身打撲。医者に見せたところ、幸いなことに怪我の程は重症ではなく、だいたい2週間ほどで完治するとのことだった。
「思ったより早く治りそうですね。それまでゆっくりして下さいね」
「はい、お世話になります」
その隊士の年の頃は、葉子と同じくらいと思われた。凛々しい下がり眉が特徴の男子で名は米田朝吉という。
彼は両手の手のひら辺りを骨折しているので箸を持つことはおろか、食事、着替えは手伝ってあげなければ自分1人でできなかった。
いつものように葉子は身の回りの世話をし、食事も葉子が食べさせてあげていた。米田は最初の頃は恥ずかしがっていたが、そんな生活にすっかり慣れたのか、最近では世間話もよくするような間柄になった。
「葉子さんは海を見たことありますか?元々は漁師の家だったので、小さい時から船で沖に出てたんですよ」
「船には乗ったことはないですねぇ……海は見たことはありますけど。波が行ったり来たりしてて不思議でした」
葉子は数年前に親に連れられて行った海を思い出していた。あの時は何かの用事であの辺りまで行ったのだったか。懐かしい思い出に、自然と顔も穏やかになる。
「波のところに足をつけるとくすぐったくて何とも言えない気持ちになった気がします」
「あ、それわかります。俺も海に行った時は足袋を脱いで走り回りますよ!ははっ」
お互いに年齢も近いこともあり、話は盛り上がった。あまり知らない土地のことや、土産話、人の話を聞くのは楽しい。
「葉子さん……」
急に米田は神妙な面持ちになり、襟を正した。
「もし、良かったら俺とーー」
そこでばんっと大きく襖が開かれた。
「米田様、手の様子はいかがですか?刀をお持ちしましたので、そろそろ握ってみてはいかがでしょう。庭で素振りをしても良いかもしれませんね」
「え?は、はい……そうですね……」
母親が静かに、そして有無を言わさない気迫の笑顔で部屋に入って来た。
日輪刀を米田に渡すと、庭へ行くように促した。
「部屋にこもっていては、雑念が入りますからね……」
母の声はひどく冷ややかだった。
それ以降、米田の身の回りの世話は母親がするようになり、食事や洗濯、買い出しなどの諸々の家事全般をするのは主に葉子の役割となった。