21.羽衣
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婚礼の日取りが決まった。梅の咲く月の吉日に。
分家とはいえ、火産霊命を代々祀る兼季家に連なる葉子の為に、婚礼は儀式めいた昔ながらの慣習に乗っ取ったものにすると、これは2人が許嫁となったその時に両家で既に決められていた。
本来は三日三晩をかけて盛大に祝福するのだが、杏寿郎の鬼殺隊の任務の為に日程を短縮し、一日で済ますこととした。そこは致し方なしと、元々鬼殺隊に理解のある藤の家である兼季家も納得している。
「葉子、兼季の本家より宮司が来て下さるそうだ」
槇寿郎は手にした手紙を読み、そう告げた。この頃、槇寿郎は婚礼の為に葉子の実家と手紙のやり取りを頻繁にしている。鎹鴉が大いに役立っているのは言うまでもない。
「宮司ですか?まぁ……すごい」
宮司はその神社の神職や巫女をまとめる長のことである。
わざわざ神社の長が葉子の婚礼の為に足を運んでくれるそうだ。
「神様の祝福をより身近に一身に浴びるんですね!すごい!身が引き締まりますね」
千寿郎は槇寿郎より婚礼の具体的な話しを聞く度に、きらきらと目を輝かせ喜んだ。
(本家の人が来てくれるんだ……)
最近は会うこともほとんど無くなったが、葉子の記憶を辿れば本家の人々は神職を担っている為に、誰もが清く凛としており、己に厳しく崇高だった。
葉子にとっては近寄り難いくらいの遠い存在だったが、通常の業務も忙しいだろうに婚礼の時は出向いてくれるのだという。
煉獄家に嫁ぐというのは兼季家にとっても大きな意味のある出来事らしい。
「それと、花嫁は道具を持って花嫁行列を成して新郎の家にやって来るが。何せ葉子の生家は遠くてとてもじゃないがその日に着かないので、菩提寺の部屋をいくつか借りる事になっている。そこからなら三十分程で来れるからな」
菩提寺とは煉獄家の墓がある最寄りの寺のことだ。母親の瑠火もそこに眠っている。
葉子も何度か墓参りに行ったことがある。
「明日、杏寿郎と共に住職に挨拶に行って来てほしい。瑠火の月命日でもあるし、ちょうど良いだろう」
「わかりました」
何から何まで細かな段取りをしてくれている槇寿郎に葉子は頭の下がる思いがした。
・・・
「葉子と寺に行くのは初めてだな!」
「そうですね。何だか新鮮です」
手には墓に添える花を携え、吐く息は白く、杏寿郎の横顔は真っ直ぐと前を向き、嬉しそうであった。
瑠火の月命日には槇寿郎や千寿郎とは度々墓参りに来ていたが、杏寿郎と来るのは初めてだ。
「おお!杏寿郎さん!この度はおめでとうございます!」
寺の寺務所へ挨拶に行くとちょうどその場に居合わせた住職が杏寿郎の手を握り、心から喜んだ。
葉子は住職とは何度か顔を合わせているが、本当に慈愛の塊のような人物で穏和な人柄が内面から滲み出ている老人だった。
「槇寿郎さんから聞きましたよ。若い2人の門出を間近で祝えるとは。幸せの裾分けですな!実にめでたい」
「その節はよろしくお願い致します。後日、父より詳細な連絡が行くかと思います」
杏寿郎は深々と頭を下げた。
「ええ、分かりましたとも。部屋は自由にお使い下さい。火産霊命の兼季家の方々に寺を使って頂く日がくるとは……感慨深いですよ」
そう言うと住職は葉子に微笑んだ。
「まさに神仏の加護の下での婚礼ですな。葉子さん。私は杏寿郎さんが産まれた時より知っていますが、見た目も男前ながら人格も素晴らしい男だ。私が保証しますよ。幸せになりなさい」
「はい……」
改めて人より言われると煉獄家に嫁ぐのだという実感がわく。身の引き締まる思いがする。いよいよ兼季姓から煉獄姓へと変わるのだ。
この婚礼は皆の祝福を受けている。決して2人だけのものではない。
「さ、こんな老ぼれの話しなんてもう良いでしょう。瑠火さんに挨拶をして来て下さい。誰よりもこの日を待っていたでしょうからね」
住職よりそう見送られ、2人は寺の奥に隣接している墓地へと向かった。