15.おつかい
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「ありがとう杏寿郎。よく頑張ったね。今日はもう良いよ。早く帰って顔を見せてあげなさい」
杏寿郎は任務の報告の為に鬼殺隊の本部に来ていた。
当主の産屋敷耀哉には、まだ祝言を挙げていない為に葉子のことについては特に知らせてはいなかったが、耀哉は既に承知していた。
(産屋敷家の情報掌握術には感服の至りだな!)
杏寿郎は感心しながら屋敷の元来た道を歩いていると胡蝶しのぶがそこにいた。
「こんにちは。煉獄さん、報告ですか?」
「胡蝶か!変わらず元気そうだな!」
「煉獄さん程じゃないですよー」
蝶の髪飾りに、ほんわかと微笑む姿が可憐であるが、胡蝶しのぶは杏寿郎よりも前に柱になっている実力者である。
「煉獄さん。今度うちに薬を取りに来て下さいね」
「うむ!わかった!近いうちに立ち寄ろう」
「なるべく、許嫁さん。葉子さんが来て頂けると嬉しいのですが」
「そうか?わかった、伝えておくが。なぜだ?」
杏寿郎は不思議そうにしのぶを見つめ返した。
「煉獄さんは治りが早いですし、体も丈夫ですし、ある程度の怪我までなら私の屋敷ではなく自宅で治療をするのが良いと思います。葉子さんも煉獄さんと会えないと寂しいでしょうし。葉子さんが来た時に、少しずつ治療方法をお教えします。まぁ元々藤の家の方ですから、教えることもあまり無いとは思いますが……」
「それもそうだな!蝶屋敷でなくても治療はできるからな!」
しのぶの言葉に気を良くした杏寿郎は、高らかに笑いながらしのぶの前から去って行った。
(……なるべく蝶屋敷の収容人数を増やしたいのです。煉獄さんには家族がいますから、そちらで治療して下さいね)
・・・
杏寿郎より蝶屋敷へ行ってくれないかと頼まれた葉子は、隠の山下に行き方を教わろうとしたが、それならば自分が道案内をしますよと、お供を快く承諾してくれた。
「あの建物が胡蝶様の邸宅ですよ」
山下が指をさしたのは、二階建ての庭の広い立派な邸宅だった。
煉獄家の邸宅とはまた違った趣きだが、少し西洋の雰囲気も加わったモダンで立派な建物である。
柱になると、このように邸宅を充てがわれることになるのだそうだ。
(こんなに立派な家を与えることができるなんて、鬼殺隊の組織って実はとても大きくてすごいのかな……)
「胡蝶様の屋敷は蝶屋敷って呼んでるんですけど、他の鬼殺隊士の治療もやってたりしてるんで。まぁいろいろ変なのがいるとは思いますが、驚かないで下さいよ」
蝶屋敷と言われるだけあって、虫が飛び回る時期でもないのに、蝶がひらりひらりと飛んでいて不思議な空間だった。そこだけ季節は冬ではないような。
「ごめん下さーい」
玄関に入り山下が声を掛けると、奥からとたとたとぽつりとした目が特徴的な素朴な女子が出て来た。
「隠の方ですね。それと……しのぶ様より聞いています。兼季様ですね。こちらへどうぞ」
その女子について行くと、畳の部屋に通され既に胡蝶しのぶともう1人女子がいた。2人とも蝶の髪飾りを付け煉獄家の獅子のような猛々しさとは全く違う、可憐な空気が漂っていた。
「ようこそ、いらっしゃいました。葉子さん。初めまして」
にこりと微笑むしのぶがとても可憐で可愛らしく葉子は思わず赤面した。
「は、初めまして。兼季葉子です。煉獄杏寿郎の使いで参りました。これはつまらないものですが……」
葉子は山下に目配せをすると、山下がずっと持っていた飯台5段をしのぶに差し出した。
「おはぎを作って参りました。お口に合うかわかりませんが、皆さんで召し上がって下さい」
「ありがとうございます。でも……すごい数ですね」
とてもじゃないが、蝶屋敷にいる女子達では食べ切れない量だった。屋敷にいる隊士達にもぜひ配ろうとしのぶは思った。
「これじゃあ少ないかなと思ったのですが……」
この量で少ない?
しのぶは戦慄した。おはぎはゆうに100個は超えていると思われる。葉子は
(さすがと言うか、とんでもないと言うか……煉獄さんも大概ですけど、葉子さんもなかなか……)
お二人はとってもお似合いですねと、心の中でくすりと苦笑をした。
しのぶは居住まいを正し、葉子の真正面に凛と正座をした。
「今日はいくつか薬や道具をお渡しします。もし、煉獄さんが怪我をして帰宅された時には葉子さんが治療をしてあげて下さい。柱の方々は自分で傷を治す術もある程度は持っているのですが、いかんせん煉獄さんはちょっと……」
ちょっと……とは?
しかし、葉子にはしのぶが言わんとしていることが少しわかる気がする。
「時々、私のところに来て頂ければ薬の使い方などもお教えする事ができます。蝶屋敷での隊士の収容人数を増やしたく、ご家族がある方にはなるべく家で治療をして貰いたいのです。どうかよろしくお願い致します」
しのぶは葉子に深々と頭を下げた。
「お顔を上げて下さい。胡蝶様。元よりそのつもりです。こちらこそよろしくお願い致します」
葉子も深々としのぶに首をたれ、顔を上げた時には2人共笑顔であった。
女子の協調性はすごいなと。初対面の相手でも関係ないのだなと、2人のやり取りを後ろで見ていた山下はそう感じた。
「……それに私は煉獄さんには期待をしているのです」
「期待ですか?」
葉子はしのぶの顔を見つめた。深淵を覗いたような感情の読めない瞳がそこにはあった。
「鬼殺隊は家族を鬼に殺され、天涯孤独の者が多くいます。鬼殺だけに心血を注ぐのではなく、もっと人としての温もりや感動……人を愛する心など大切なものを持ってほしいのです」
しのぶは側にいたもう1人の少女に目を向けた。美少女と呼ぶに相応しい見目の少女は言葉を発せず、不思議そうにしのぶを見つめている。
人の温もり。愛する心。
胡蝶自身はどうなのかと言われれば、何も言えなくなる。自分は姉の仇をとる事だけを目標としている。人を喰らいのうのうと生きている鬼は許さない。許すことなど到底出来ない。
「お二人にはいつまでも仲睦まじくいて欲しいのです。お二人を目の当たりにして、憧れを抱く者もいるでしょう。お二人にはそういう明るい存在であってほしい……」
私にそれは出来そうにないので……せめて柱である煉獄杏寿郎が模範になってくれれば……
辛く大変な時でも愛する人がいれば頑張れる。乗り越えられる。自分の命の灯火が消えるその時までは。
「…………」
葉子は黙ってしのぶの言葉を聞いていた。
肯定なのか否定なのか、何とも言わないのでわからないが、きっと二人は上手くやってくれる。しのぶはそんな期待を持っている。
そしてしのぶは沈黙を破るかのように、両手をぱちんと叩いた。
「さて、せっかくおはぎも頂いたことですし、みんなで頂きましょう。屋敷にいる隊士達にも配りましょう。葉子さんも配るのを手伝って貰えますか?」
「わかりました。喜んで」
「俺がお待ちしますよ。それ、重いですから」
そして、3人は台所へと向かった。
1人残された少女、栗花落カナヲは出て行った3人を不思議そうに見つめていた。