11.緩急
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何と!久しぶりに煉獄さんがお家に来ないかってお誘いしてくれたので、お言葉に甘えることにしました!
久しぶりの煉獄さんのお家!あの時と変わってないかな?槇寿郎さんや千寿郎くんはいるかな?
でね!煉獄さんの許嫁さんを紹介してくれるって!
煉獄さんに許嫁がいることが驚きなんだけど、許嫁だなんて、その響きからしてきゅんきゅんよ。
あ、この子ね!はぁぁぁぁ可愛い……
山吹色の着物を着て、身も心も煉獄色に染まってますってことかな!?
やだ!きゅん死にしそう……
あれ、でも……え、ちょっと。煉獄さん、そんな話は今しない方が良いと思うな。
ほら!笑って聞いてくれてるけど、目が笑ってないもん。
ちょっと!煉獄さん!煉獄さん!?空気読んで!
・・・
その日の昼ごろ、唐突に鴉から伝言が届いた。
杏寿郎は無事に任務を終了し、これから帰宅するとのことだった。
ずっと気を揉んでいた葉子はほっと胸を撫で下ろし、自身の胸に手をあて1つ深呼吸をした。
(良かったぁ……毎回、こんな思いをしないといけないのかな……私、やっていけるのかなぁ)
こんな調子で柱の妻なぞ務まるのだろうか。もっと覚悟とか、全てを受け入れるとか、包容力とか、そういう気持ちを持たないといけない気がする。
でも、どうやって身に付けるのかわからない。
「今、帰った!!」
玄関の戸が大きく開かれ、威勢の良い声が葉子の元へも聞こえて来た。杏寿郎が無事に帰宅したのだ。
もやもやとした気持ちを抱えながら、廊下を進むと、既に家に上がっていた杏寿郎の姿が見えた。
「葉子っ!」
葉子の姿を認めるなり、駆け寄り、葉子のその両手をがっしりと掴んだ。
「俺は元気だ!帰ったぞ!もっと顔を良く見せてくれ!」
杏寿郎の燃えるような目に、射竦められ、葉子の中でもやついていた気持ちはとんとどこかへ行ってしまった。
「お帰りなさい。ご無事で何よりです」
「手紙に早く会いたいと書かれていたので、急いで飛んできた!」
(そんなこと書いたっけかな……)
杏寿郎の元気な姿を見て安心したい気持ちは確かにあったが、出した手紙にはそんなにはっきりと「会いたい」とは書いていないと思うのだが。彼はやや無理のある解釈をしている気がする。
何はともあれ無事だからまぁ良いか。
「兄上。お帰りなさい」
「千寿郎!俺の留守中、変わりはなかったか!」
「父上が出掛けた先で葉子さんへのお土産をたくさん買って来てました。変わったことと言えばそれくらいです」
「むう!それは確かに変わっているな!俺達には無いのか!?それは酷いな!」
いつもの和やかな時が再び流れ、葉子はその様子をにこにこと眺めていたのだった。
杏寿郎はいつだって、みんなを明るくしてくれる。
「そうだ!今度、葉子に甘露寺を紹介したい。甘露寺も会ってみたいそうだ」
「わぁ!甘露寺さんがいらっしゃるんですか?お久しぶりですね」
千寿郎が嬉しそうに言った。その後に「おやつをたくさん用意しておかないと」と言ったのを葉子は聞き逃さなかった。
「甘露寺は柱にまでなった優秀な隊士だ!俺が育手として稽古をつけたことがある!きっと葉子と気が合うと思う!会ってみないか!?」
おやつ好きの柱。一体どんな人なのだろう。
ここには知り合いがほとんどいないので、1人でも多く話せる人がいると嬉しい。
「私もぜひ、会ってみたいです!」
・・・
その日、玄関に姿を見せたのは奇抜な色の髪の毛をした、かなり露出の高い隊服を着た女子であった。
年は葉子と同じくらいか年上。桃色と緑色の混ざった髪を三つ編みにして、可愛らしい顔とは対照的に胸元は豊満な乳房が半分くらい見えており、何とも官能的な姿だった。
葉子は同じ女でありながら、そのあられもない姿に赤面をし、相手の女もなぜか葉子を見て赤面をしていたので、2人で顔を真っ赤にして俯いていることに杏寿郎は首を傾げていた。
「は、初めまして。甘露寺蜜璃と言います」
「初めまして。兼季葉子です」
「つまらないものですが……」と出された物を有り難く受け取り、葉子は改めて甘露寺を見た。
(男の人かと思ってたけど……こんなに可愛い人が鬼殺隊士でしかも柱なんだ。でも、何でこんなに露出が激しい隊服なんだろう……)
ちらりと横の杏寿郎を見ても、特に甘露寺の胸元を気にしているわけでもなく、至って普通だった。
煉獄家の派手な髪色とそれに負けず劣らずの髪色の者が2人も並び、部屋は何だか視覚が騒がしかった。
「この前の任務でたまたま一緒になってな!葉子のことを話したら会ってみたいと!同じ年頃の者と話せた方が気晴らしになって良いだろう!」
わははと、さも良いことをしたと自信ありげに言った杏寿郎に葉子は思った。
(何だか杏寿郎さん、甘露寺さんに会えて楽しそう……)
自分が育てた(と、言っても過言ではない)剣士が柱にまでなったのだから、それは誇らしいことだろう。昔話にも花が咲くだろう。
「あ、あのぅ…… 葉子さんはいつからこのお家で暮らしてるんですか?」
「まだ1月も経っていないと思います」
「じゃあ!まだ来たばかりなんですね」
甘露寺は葉子と目が合うと、瞳をきらきらとさせ、感嘆の声を上げた。
「甘露寺に修行をつけていた期間はどれくらいだったか!?1年くらいか?甘露寺と過ごした日々は濃密であっという間で覚えてないな!」
「…………」
葉子は杏寿郎を見た。
何だろう。
全身を流れている血が、血の温度がじわじわと下がる感じがした。体が冷たくなる。
「あの頃は稽古の合間に2人で食べ歩きもしたな!甘味処だったり、蕎麦屋だったり。蕎麦を168枚だったか!店主に勘弁してくれと涙ながらに止められた事もあったな!止められなければあと何枚食べれそうだったのだ?甘露寺!」
「え、あの……そんなこともありましたっけ。覚えてないなぁ〜なんて……えへへ」
甘露寺はしきりに葉子を気にしていた。
葉子の杏寿郎を見る目が明らかに色を無くし、冷ややかな目で見ているからだ。
(煉獄さん!もうそれ以上、喋らないで下さい!私、嫌われちゃう!)
「鬼殺隊の最終選抜を突破した時は、揃いの羽織りもやったことがあったな!まさか半年でそこまで行くとは!俺の目に狂いは無かった!甘露寺は素晴らしい才能を持っている!」
思い出話に1人で花を咲かせている杏寿郎だったが、甘露寺は目の前が真っ白になりかけていた。明らかに杏寿郎の許嫁は機嫌を悪くしている。例え、師弟の関係だったとしても他の女との思い出話を嬉々として聞かされるのは、良い気はしないだろう。
現に、葉子の顔は微笑んではいるが、目が笑っていない。空気が凍っている。
心臓がばくばくと落ち着かない。汗も出てきた。
正直言って、早く帰りたい……
「甘露寺の体躯は驚くほど柔らかいからな!それを活かして全身で剣を振れば良いのだ!それが功を制したな!」
体が柔らかいって何で知ってるの……一体どんな稽古をつけたの。杏寿郎さん。ねぇ、炎柱さん。煉獄杏寿郎さん……
「甘露寺さん。お久しぶりです」
そこへ、千寿郎がやってきた。
「わ、私!用事を突然にっ!本当に突然に思い出しちゃいましたっ!帰りますね!」
不自然なほどに、すっくと立ち上がった甘露寺は、そのまま客間を出ようとした。
「え!?待って下さい甘露寺さん!父上が今着替え中で、甘露寺さんの顔を久しぶりに見たいと言ってます」
「槇寿郎さん!千寿郎君!ご、ごめんなさいっっ!」
甘露寺蜜璃は物凄い速さで逃げるようにして、家を後にした。