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投げっぱなし

水無月 梅雨空に愛(かな)しき花が咲く

 梅雨。
 しとしとと降る雨を、外廊下を歩きながら眺めていた。厚い雲で覆われた、どんよりとした空。そんな空模様では陽光が地上まで届くはずもなく、外は気分を鬱屈とさせる暗さだ。そして、湿気。気温は差程高くないものの動けばそれなりに汗ばむ中で、湿気が多いと余計に人の体はべたつく。何より、また錆びてしまうかもしれないという恐怖が自分の気持ちをかなり落ち込ませていた。
 はあ、とため息をひとつ。この本丸の近侍として長くあるものの、仕事が無ければ当然暇だ。その仕事を言い渡す主が体調を崩していては、いくら待ち惚けたところで仕事は降ってこない。まして、自分に看病というものができるとは思えなかった。あの時のように悪さをしている鬼がいる訳でもなし。故に自身で戦力外と判断して、こうしてぼんやりと外を眺め歩いている訳だが。
 季節の変わり目はどうしても体調を崩しやすい。お世辞にも健康的な生活を送っているとは言えない主が、そうやって風邪を引いてしまったのも何ら不思議ではない。そうは分かっていても、もっと早く気付いてやれなかったものかと自責の念に駆られる。
 鬼丸国綱は子どもが苦手だ。目を離した隙にいなくなってしまうから。
 今の主は二十歳を過ぎていると言っても、背丈は脇差の子らと変わらぬくらいで顔立ちも幼い。それが病に臥せって苦しんでいるとなれば、嫌な思いが過ぎってやるせない。ろくに看病もできぬのに、暗い顔を見せていては治るものも治らぬ。そう思って、甲斐甲斐しく世話をする連中に後を託してこっそりと部屋から出てきたのだ。
 もし、万が一、主が死んでしまっても。おれのせいにすればいい。おれは不吉な太刀だから。けれど、おれが傍にいたせいでそんなことになっては欲しくない。
 いつの間にか、玄関まで来ていた。物思いに耽っていたせいで、どのような足取りでここまで来たかは自分でも分からない。けれど、何故ここまで来てしまったかは分かっていた。靴を履いて、その辺りに立て掛けてある傘をひとつ掴んで。誰に何も告げぬまま、そろりと戸を開けて本丸を抜け出した。
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