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オクタヴィネル寮の1年生が3章のストーリーにめちゃくちゃ干渉する話

「今がチャンス!」
「よしきた、いくぞ!」
 グリムのかけ声でルースは閃光玉をたたきつけた。眩い光がVIPルームに放たれる。フロイドとの言い合いで油断していたアズールは完全にひるんでしまった。

 アトランティカ記念博物館でジェイドたちの妨害を受けながら目的の写真を探すよりも、アズールのユニーク魔法の弱点を探って契約書を破いてしまう方が手っ取り早い――サバナクロ―寮長レオナ・キングスカラーの助言をもとに、ユウたちは2日目の今日、モストロ・ラウンジのVIPルームに忍び込んでいた。しかしアズールたちに見つかり、契約書も破れないまま戦闘にまでなってしまったのである。
 フロイドがユニーク魔法ではじいた魔法が金庫に激突したことで、アズールはかなり取り乱していた。その隙をついて逃げようという算段だ。
 
「アバヨッ、なんだゾ!!」
 ここぞとばかりにグリムは元気いっぱいに捨て台詞を吐き、ユウたちと共にすたこらさっさと逃げて行った。
「……あっ、待ちなさい!ジェイド、フロイド、追え!」
 しかし、アズールに命令されてもフロイドは動こうとしない。
「なんか、怒られてテンション下がったー。」
「そんなことを言ってる場合か!お前はなんでそんなに気分屋なんだ。」
 アズールは声を荒げた。フロイドも不満そうに言い返す。
「アズールこそ、なんでそこまでカリカリできんの?いーじゃん、金庫が壊れたって。契約書は無敵なんでしょー。」

 ――その通りだ、なにをそんなに焦っているんだ?

 ルースは思った。……そう、ルースはグリムたちと一緒に逃げていなかった。性懲りもなく『気配を消す薬』を使って身を隠し、情報を聞き出そうとしているのだ。閃光玉のあの一瞬は、ルースが薬を飲むのにとても都合が良かった。サムさんのお店は本当になんでもある。あとでもう少し買っておこう。
 
 とんでもないデバガメがいるなんてみじんも思ってもいないアズールは、さらに声を大きくした。
「お前は僕にずっと契約書の束を背負って歩けとでもいうのか!?」

 金庫がないとずっと背負って歩かないといけないくらい都合が悪い。無敵と言う割には随分とびくびくしている。ふうん、とルースは少し違和感を確信に変え始めていた。――やっぱり、無敵じゃないんだな?

「まったく……ジェイド、これからも彼らの監視と……フロイドのお守りを怠らないように。」
「あー、つまんね。午後サボってどっかで昼寝しよ。」
 アズールは不機嫌そうに、フロイドも興ざめした様子でVIPルームを去っていった。ジェイドは「はぁ、やれやれ……」とため息をつきながらそれを見送った。
 
 
「さて。――そろそろ出てきても大丈夫ですよ、ルースさん。」
 ジェイドはしばらくの間VIPルームに居座り続け、唐突にヒョイと机の下を覗き込んだ。そこには薬の効果が切れて姿がまる見えのルースがうずくまっていた。
「いつまでたっても出ていかないと思ったら……おかげで薬が切れた。」
 観念したようにルースは机の下からはい出た。追加で薬を飲もうとブレザーに手を伸ばしたところをピンポイントで見つかってしまい、ルースは内心かなり焦っていた。
 
「僕もまさか本当にいるとは思いませんでした。今までもそうやって僕たちの話を盗み聞きしていたんですか?」
「さあ。……それ、誰から聞いた?」
「あなたのルームメイトが教えてくれましたよ。……ああ、『しゃべったら友達をやめる』んでしたっけ。素敵なご友人を失うことになって、彼もお気の毒です。」
 はっ、とルースはそれを笑い飛ばした。
「どうせユニーク魔法で無理やり吐かせたんだろう?不可抗力だし今回はノーカンだ」
「おや。やはり、僕のユニーク魔法をご存知なのですね。これは困りました。僕のユニーク魔法これ はあまり人に知られたくなかったんですが……でも、それはあなたも同じはずでは?」
 にこにこしながらそう話すジェイドは、言うほど困っているようには見えない。
「なるほど。お互い、相手を黙らせたい……?」
 声を一段低くしたルースに、「理解が早くて助かります」とジェイドは微笑んだ。
「そこでです。ルースさん、僕と取引をしませんか?」
 ジェイドの目が帽子の下でギラリと光る。
「取引」
 ルースはジェイドの放った単語をただ繰り返した。
「はい。僕のユニーク魔法について、誰にも口外しないでほしいんです。僕もこれまでのあなたの行いと手口は誰にも言いません。この場も見逃してあげましょう。」
「……」
 ほんの少し考えて、ルースはそれを承諾した。
「わかった、条件をのもう。今後一切、あなたのユニーク魔法について誰にもしゃべらない。あなたも僕のコレは黙っていてくれ。」
「取引成立ですね。」
 にっこりとジェイドは笑った。
 
「ところで……」
「まだなにか?」
「貴方がモストロ・ラウンジで働いているところを1度も見たことがないのですが、なにか理由が?その実力なら、きっとアズールもイソギンチャクたちと違って良い待遇を与えてくれるはず。どうです、ご興味はありませんか?」
 
 にやりと目を細めるジェイドに、ルースは少し身震いした。ゆすられる可能性は少し考えていたものの、まさか引き抜こうとしてくるなんて思ってもみなかった。取引といっても口約束だ、うかつに敵に回したくない。だったら彼らの足元にいた方が安全かもしれない。『気配を消す薬』コレに利用価値を見出しているのだとしたら、彼らの下にいる限りはぺらぺらと口外されることもきっとないだろう。ルースとしては卑怯な契約方法と最悪な労働環境さえ改善されれば、正直言って彼らに文句はないのだ。……でも勤務先はモストロ・ラウンジなんだよな。料理関係となるとなぁ……。
 
「……一旦持ち帰らせてほしい。この勝負の決着がついてから考える。」
「ええ、待ちましょう。あなたと一緒に働ける日を楽しみにしています。」
 
「じゃあ、僕はこれで。」
 ルースはポケットからけむり玉を放り投げた。たちまち煙が吹き出す。サムさんのお店は本当になんでも揃っている。こういうのは既製品の方が自分で作るよりできがいいし、安上がりだ。今後も有効活用していきたい。
 煙が完全に消えるころには、ルースの姿はどこにもなかった。

 
「なんだこの煙は……!なにがあったんですか、ジェイド!?」
「ルースさんがまだ部屋に残っていたようなので、少しおしゃべりしようと思ったのですが……逃げられてしまいました」
「なんだと!?……はあ、油断も隙もない。あんな魔法薬まで使って……厄介な生徒がいたものです」
「ええ、ですのでスカウトしておきました。いいお返事がもらえるといいのですが」
「……そうですか。」
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