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オクタヴィネル寮の1年生が3章のストーリーにめちゃくちゃ干渉する話

「おかえり。その様子じゃお目当ての写真は取れなかったみたいだな」
 リーチ兄弟に邪魔されて一時撤退したユウたちは、ルースの荷物を見て嫌な予感をさせていた。
「ルースお前、その荷物……」
「これか?家出だ」
「まさか泊めてくれなんて言うんじゃ」
「ああ、泊めてくれ」

「絶対に嫌だね!」
「僕もごめんだ!」
「住むところを担保にされたわけじゃねぇんだ、お前は自分の寮に帰れ!」
 嫌だ、僕も作戦会議したい、オクタヴィネルにいたくないとルースは駄々をこねたが、とうとう聞き入れてもらえることはなかった。
 

「だぁから言ったのに!オマエいい加減世界を自分中心に回すのやめたら?いひひっ、だははははっ!!」
「……心外だ。」
 全員にお泊まりを拒否されたルースは渋々オクタヴィネル寮に戻り、その様をルームメイトに大爆笑されていた。荷造りの時に「全員に断られて帰ってくるのに100マドルかけるわ」と言われていたルースは、約束どおり100マドルをルームメイトのベッドにたたきつけた。
「いひひ、やったぁもーうけっ。ひー、んっふふ……」
 彼はなおも笑いながらそれを財布にしまった。ルースはむすっとした顔で荷解きを始めた。
 
 荷解きを終えたルースは、怪我の様子を見るために服を脱いだ。湿布の下から大きめのアザが何個も顔を覗かせる。ルースがそこに薬を塗ると、たちまちアザの色は薄くなっていく。ルームメイトはその様子をじろじろ眺めていた。
「しっかしオマエ命知らずだよなぁ。寮長たちにあんなタンカ切って、オレぁしびれちゃったね。よくやるよ、オレはムリ」
「その結果しっかり絞められたけどな。」
 
 フロイドたちに絞められ気を失ったルースを部屋まで運んだのは他でもない彼である。彼はルースの「気配を消す薬」をこっそりパクッて、VIPルームに呼び出されたルースのことを覗いていたのだ。ちなみに目覚めたルースに向かって「おはよう!深夜0時になにしてるんだい?」と煽りちらかしたのも他でもない彼である。ルースが血相を変えて部屋を飛び出して行った様子を見て大笑いしていた。
 
「覗くだけ覗いておいて……手当てくらいしてくれてもよかっただろ。」
 特製の薬を塗りながら、ルースは彼にジトリと責めるような目を向けた。
 
「ムリ。オレたちぃ、まだそんな仲じゃないっていうかぁ……」
「気色悪い話し方やめろ。ハーツラビュルのやつはこれ見て自分から手当てしてくれたぞ、これは思いやりとかいたわりとかの話だ。知り合って日の浅いあいつらにもできたんだから、おまえもできるはずだろ。」
「ムリ。オレ、グロいの苦手。」
「これのどこが。グロくないだろ」
「アザがグロくてムリ、貧弱なオマエの身体が悪い。」
「なんだと?……だったらせめて保健室まで運んでくれれば」
「全部ダルいからムリ。」
 ルームメイトはニッコリと笑いながら最後にそう答えた。
 
「……なら最初からそう言え、出歯亀が」
「オマエにだけは言われたかねぇなぁ」
 ルースがめいっぱい睨みつけて悪態をついても、彼はニヤニヤ笑うだけだった。いつも淡白なルースが表情を崩すのを見るのがおもしろくてたまらないのだ。ルースもそれをわかっているのでそれ以上は嚙みつかなかった。
 
「あれ、どこ行くんだ?」
「キッチン。治りが悪いせいで薬が足りない。」
「へぇー、今から作るの?すっげぇダルそう」
「誰かさんが早めに手当てしてくれていればこんなことにはなってないんだが。……手伝ってくれるなら特別に作り方を教えてやる」
「ラッキー!さっすが製薬会社のお坊ちゃま!」
「それとこれとは関係ない、その呼び方やめろ。……一度しか教えないからな」

 
 静かなキッチンに2人の声と器具の音だけが寂しく響いている。換気扇が全力で回っている。鍋の中では薬がぐつぐついっている。
「――あとは混ぜるだけだ。」
「ふーん。」
 ぐるぐると鍋をかき混ぜるルースのことをルームメイトは退屈そうに見ていた。
「あの秘薬もこんな感じで作ってんの?作ってるとこ見たことないんだけど」
 秘薬というのはルースの「気配を消す薬」のことだ。薬を使用している所をたまたま目撃されてしまったため、ルースはこの薬のことを彼にだけは話していた。もちろん厳しく口止めしている。
 
 ルースは彼の質問に答えてやることにした。
「さすがにあれはキッチンじゃ作れない。部活中にこっそり作ってる。」
 「え、やば」とルームメイトが少し身を乗り出したのをルースは片手で制した。危ない。そんなことは気にせず、ルームメイトはさらに質問した。
「経費とか備品の減りとかでばれねぇの、それ?」
「そんな簡単なヘマするわけがないだろ。全部自前でやってる。」
 コレだって僕のだ、と言ってルースは鍋の縁をヘラでコンコンと軽くたたいた。ルームメイトは「うげぇ」という顔をしてみせた。
「なにそれダッル!」
 ルースは鍋から目を逸らさずに淡々と喋る。
「だろ。つまりおまえにも簡単にくれてやるわけにはいかないってことだ。おまえに盗られた分はあとできっちり材料費を請求するからな。」
「ちぇー」

 鍋底が見えるくらい粘り気が出たので、鍋を火から下ろす。仕上げにもう少しかき混ぜて粗熱をとりつつ、お好みのかたさになったら完成だ。

 ルームメイトが再び口を開いた。
「……なあ、"それ"のことしゃべったら友達やめるって前に言ってたじゃん?」
 "それ"というのは「気配を消す薬」のことだ。
「そうだな。まさかしゃべったのか?」
「ジェイド先輩にゲロっちまった、って言ったら?」
 
 一瞬だけ、ルースの手が止まった。ルースは鍋をぐるりと1回大きくかき混ぜると、中身を2つの容器に注ぎ入れた。そして片方をポケットにしまうと、もう片方をルームメイトに差し出した。
「……それはくれてやる。だいたいの傷に効くやつだ、特に打撲や打ち身、アザの回復には最強。すぐに使わせてやるから、後で覚えてろよ。」
 ルームメイトはそれを微妙な顔で受け取った。
「……貧弱なオマエに殴られてもなー」
「貧弱って言うな!」
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