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オクタヴィネル寮の1年生が3章のストーリーにめちゃくちゃ干渉する話

「おはようユウ、ジャック。お前達はなにをやってるんだ?まさかオンボロ寮から追い出されてるなんて思わなかったぞ、大丈夫なのか?」
 翌朝、ルースはエースとデュースに混じってしれっと鏡舎に現れた。なぜか片方の頬が少し腫れている。ジャックはルースを見ると、ジトリとにらみつけた。ユウもルースにはご立腹のようで、ぷりぷりと怒っている。
「お前……それはこっちのセリフだ。俺たちが昨日アズールと話をしてる間なにしてたんだ?」
「そうだよ!ついて来るって言ったのに、いつまでたっても来なかった!」
 はっ、とルースは自嘲した。
「……なんだ、出迎えて欲しかったのか?」
 
「しらばっくれるな!!あんだけ威勢よく「ついていく」って言ってたくせにバックレやがって!」
 怒っている2人に向かってルースがバカにするようなことを言ってみせると、ジャックがさらに怒ってしまった。「冗談だよ」とルースは慌ててジャックをなだめた。
 
「お前たちに付き添う気でいたのは確かだ」
「じゃあなんでいなかったの?」
 ユウの鋭い質問に、ルースは申し訳なさそうに白状した。
「…………寝てたんだ。起きたら日付が変わっていた。」
「……はあ?!」
 ルースの信じられない発言に、今度こそユウとジャックはブチ切れた。ルースは慌てて言い訳をした。
「怒るなよ、僕だって好きで寝過ごした訳じゃない。起きた時は絶望したし、なんなら勢いで寮を飛び出したし。」
「開き直ってるけど、寝過ごしたのはルースが悪いからね?」
 涼しい顔でのたまうルースに、ユウは責めるような視線を向けた。ごもっともなことを言われ、「ぐ」とルースは呻いた。
「……だが、今日はそこの2人に起こしてもらえたから間に合った。今度こそ僕も付き合う。」
「お前……まさか昨日ハーツラビュルの世話になってたのか?」
 「寮を飛び出した」「2人に起こしてもらった」というルースの言葉から、ジャックはおそるおそるルースに尋ねた。
「ああ、世話になった。」
 当たり前のようにあっけらかんと答えるルースの横で、エースは「おかげで最悪だったんだけど」とクレームをいれた。ルースはそれに少しだけ顔をムッとさせた。
「とにかく、今日は珊瑚の海ってところに行くんだろ?水中でも息ができる魔法薬、僕にもくれ」

 
 エースが差し出した魔法薬を、ルースは少しわくわくしながら受け取ろうとした。アズールがくれたというそれがいったいどんなものなのか、ルースにとっては非常に興味深かったのだ。
 しかし、エースはすんでのところでヒョイとそれを取り上げた。ルースが頑張って手を伸ばしても、ギリギリ手の届かない所までよけられてしまう。身長の関係から、この攻防はルースの方が不利だ。
「なんだいきなり……すごい、人をからかうのがうまいな。これで満足か?」
 ルースは少し不機嫌になりながら、エースに抗議した。エースはそんなルースに顔を近づけて、声をひそめながら「お前本気でついて来るの?」と尋ねた。
「まずかったか?」
 ルースはムッとした顔をした。
 
「怪我してんだからやめておけば?」
「怪我?ああ顔のコレか?大丈夫だ、おまえたちが冷やしてくれ……っいだだだ、なにするんだ?!」
 突然身体をつねられて、ルースは小さく悲鳴を上げた。エースはそれを見ていよいよお説教じみたトーンでルースにまくしたてた。
「顔じゃなくて体だよ!痛めたところを庇ってんのがバレバレなんだっつの!お前は珊瑚の海じゃなくて、まず保健室!」
「そんな、あ、おい!僕にもその薬よこせよ!」
「ルースくんはやっぱりお留守番したいってさ!んじゃ、せーので飲みますか!せーの!」

 薬のまずさと息苦しさにゼイゼイとあえぐエースたちを見て、ルースは「覚えてろよ」と負け惜しみを吐いた。
「美味しいタイプの薬ができてもおまえたちにはくれてやらないからな……!」

 
「ルースのやつ、ジャックたちと一緒にモストロ・ラウンジに来る約束をしてたんだな……知らなかった」
 アトランティカ博物館に向かう途中で、デュースは何気なく呟いた。
「寝過ごすなんて、サイテーなヤツなんだゾ!」
 グリムがそれに相槌をうった。

「そのことなんだけどさぁ……昼休みにオレたちと別れた後、なんかあったの?乱闘とかさ」
 エースに突然話を振られ、ユウは一瞬きょとんとした。
「え?なにもなかったけど……」
「なんだいきなり」
 ジャックたちが「?」マークを浮かべる中で、デュースは「ん?」と違和感を口にする。
「なにもなかったのか?……じゃあなんで、あいつはあんなにボロボロだったんだ?」
「ボロボロ?」
 それを聞いたユウはさっきまでのルースの様子を思い返した。
「……そう言えば、顔が腫れてた」
「あ、あれはデュースが殴ったやつな。そうじゃなくて、オレたちと会った時にはもうボロボロだったんだよ。」
「どういうこと?」
 エースたちは昨晩のことを話し始めた。

 
「ユウたちと別れて寮に戻る途中で、ルースに呼び止められたんだ。」

 
『おい、そこのイソギンチャク共!』
『ギクッ!……って、お前は!』

 
「イソギンチャクって呼ばれるとあの双子に呼ばれてるみたいで心臓に悪い……。」
「そうそう、アレは結構ビックリした。振り向いたらめちゃくちゃ疲れてるルースがいて、それはそれでビックリしたけど。」
 お互いその時のことを振り返りながら、エースとデュースはさらに回想を続けた。
 

『そう僕だ、ルース・ピークだ!……ぜー、はあ……』
『どうしたんだ、そんな急いで』
『それよりも、なんでオンボロ寮をアイツらが占拠してるんだ?!監督生は、大丈夫なのか……?!』

 
「んで、なにがあったか説明してやったら、いきなり怒ってきて。」
「僕なんか掴みかかられたぞ……。」
 エースもデュースも、ルースの尋常じゃない様子に困惑したようだった。今もその時のことを思い出しながら眉間にシワを寄せている。

 
『――なんだと?……おまえら正気か?!監督生は、おまえらイソギンチャクのためにアイツと契約して、あまつさえオンボロ寮を担保にしたと?!何やらせてるんだ、住むところまで差し出すような事を!あの子までアイツの下僕になったら、いったいどうするんだ!!』

 
「めちゃくちゃにまくし立ててきて、こっちの話も聞いてくれないようだったから……黙らせようとして、つい……。」
 少し申し訳なさそうにデュースは目を伏せた。エースはそれを少し茶化すように相槌をうつ。
「つい、で手が出るあたりさすがだわ。」
 デュースは言葉を濁していたが、つまりそういうことである。興奮状態のルースはデュースによって鎮められたのだ。

 
『な、お前ちょっと落ち着け!』
『落ち着けるか!!』
『いいから落ち着け!!』
『ぅぶっ!…………はぁ、悪い……少し取り乱した。』

 
「……それでほんとにルースが落ち着いてたのもビックリだけど。」
 エースはさらに話を続ける。「ユウならサバナクローに泊まることになった」と説明されて、ルースはようやく安心したという。

 
『――はあ、そうか……ジャックか、彼なら確かに安心だな……』

 
「さっきのマジギレはなんだったの?ってくらい普通のテンションに戻ってたの、1周回って怖かったわ……。」
 エースはため息をついた。
「しかもいきなり泊めてくれとか言い出すし……」

 
『……そうだ。なあ、今日だけでいいからおまえたちのところに泊めてくれないか?』
『はあ?!お前マジで言ってんの?!』
『ダメ元だ、無理なら野宿……』
『あ、おい!』


「――言うだけ言っていきなり気絶したから、仕方なく僕とエースでハーツラビュル寮まで運んだんだ」
「あの後そんなことが……」
「あいつ、思ったよりもやべーやつだったんだゾ……」
 エースとデュースの話に、ユウは少し衝撃を受けていた。ルースは冷静で常識的な人なんじゃないかと勝手に期待していたが、だんだん問題児の気配がしてきた。グリムも少し引いている。
 
「で、ボロボロだったってのは結局なんなんだ?」
「そうそう!それなんだけど、あいつ、目が覚めて、オレらが泊めてくれるってわかった途端いきなり脱ぎ出して!」
 ジャックの質問に、エースたちは再び話し始めた。

 
「突然脱いだことにもビックリだけど、服の下の怪我の方がビックリだったわ。」
「僕もビックリした。でき始めっぽかったけど、アレはほっといたらすごいことになるタイプのアザだ。」
 エースは呆れながら、デュースは少し心配そうにその時の様子を話した……少なくとも最初のうちはそうだった。
 
『身体?なんでもいいだろ。面倒だし、適当に薬塗って済ますところだ。』

「しかもあいつ、よくわかんない薬塗ろうとしてんの!」
 
『助かるよ、ありがとう。……僕の薬の方が早かったな……』

「手当てしてやったのに文句言われるし!」

『明日は珊瑚の海に行くんだろ、起こしてくれ。もう寝過ごすのはごめんだ』

「とか言ってあいつのアラームが1番うるさいし!5時に爆音鳴らすとか、ありえねぇ!」
「しかも1番スヌーズがしつこかったな……」
「マジであいつ、なに!?」
 気づくとルースの愚痴になっている。デュースもエースの恨み節に遠い目をしながら頷いていた。
「た、大変だったね……」
 ユウはそう返すので精一杯だった。

 一方そのころ、ナイトレイブンカレッジでは。
「っクシ……」
 保健室……ではなくオクタヴィネル寮で本格的に家出の準備をしていたルースがくしゃみをしていた。
「傷薬と……風邪薬も持っていくか……?」

 ……まさかルース、彼らにもう一晩世話になろうとか考えているんじゃないだろうか。それほどオクタヴィネル寮が嫌になったというのだろうか。どうあれ、絶対に断られるであろうことだけは確かである。
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