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オクタヴィネル寮の1年生が3章のストーリーにめちゃくちゃ干渉する話

 時間を少し遡り、9時になる少し前のこと。ルースはモストロ・ラウンジのVIPルームに呼び出されていた。
 ジェイドとフロイドが、ニヤニヤしながらルースのことを見ている。ルースは震える手を握りしめ、せいいっぱい胸を張った。呼び出した張本人――アズールがおもむろに口を開いた。

「ルース・ピークさん……あなた、なぜ呼ばれたか心当たりはありますか?」
 ルースはいたって冷静に見えるように努めつつ、白を切った。
「正直言って、さっぱりわからない。イソギンチャクの養殖で忙しいあなた方が、いったい僕になんの用だ?」
「そのイソギンチャクについてですよ、ルースさん。あなた……テスト期間中、僕の契約についてある事無いこと話してまわっていたそうですね?」
「……友人と噂話を楽しむ事になんの問題が?」
 ルースはさらにしらばっくれた。――ばれている。背中を冷や汗がつたう。

「困りましたね……御自身のした事の重大さにお気づきでない……問題大ありですよルースさん。あなたのした事は立派な営業妨害です。」
 わざとらしく困ったようなそぶりをみせながら、アズールはルースのことを責めた。――そこまで困ってないくせに。ルースは心の中で悪態をついた。
「営業妨害……それを言うならあなた方がしていた事は立派な詐欺だ。いくら守秘義務と言えど、契約の条件に対して契約者が多すぎる事くらいは説明すべきだったんじゃないか?重要な情報を黙っているのは、契約者にとって正しい判断の妨げになる。」
 ルースの追求はんげきにも、アズールは余裕を崩さなかった。アズールは眉を少し上げながら反論する。
「なるほど。ですが彼らはそんな事聞いてきませんでしたよ。他にどれくらい契約した人がいるのか、確認しなかった彼らの落ち度です」
「聞かれなくても話すべきだったと言っているんだ。違反者が大量に出るのを予め分かっていてそれを相手に説明しなかった。あなた方のやり方は、詐欺師と言われて当然だ。」
 緊張がほぐれたのか、やけくそか。喋っているうちにあたたまってきたらしく、ルースは間髪入れず言い返した。ジェイドが口を挟む。
「それであなたは僕たちの商売を邪魔した、と?」
 はっ、とルースはそれを鼻で笑った。
「邪魔?……どうだか。あれだけ言ったのに結局あいつらはあなたと契約したんだ……。僕が言いふらしたところで、なんの邪魔にもなってなかっただろう。ただの噂話ごときじゃ、あなた方の商売は止められなかったようだ。残念なことに」
 ルースは堂々と開き直った。極度の緊張に耐えられなかったのか、すでに冷静さを失い始めている。そんなルースを見て、アズールは「もういい」とでも言うようににため息をついた。
 
「ああ言えばこう言う……これ以上話をしても無駄のようだ。フロイド」
「さっきから聞いてれば……屁理屈ばっかり言うじゃん。雑魚のくせに……」
 アズールに呼ばれて、フロイドが前に進み出る。ペラペラと屁理屈ばかり言うルースに、フロイドは苛立ち始めていた。
 これから絞められる。わかっていてもルースは屁理屈を止められなかった。怖くても絶対に引くもんかと意地になっていた。
「お互い様じゃないか?正直言って、アンタらもどっこいどっこいだと僕は思うが」
「……あ?」

 ――絞められるってこんなかんじなのか。
 声にならない悲鳴をあげながら、ルースはどこか他人事のようにそう考えていた。
 

「ゲホっ……」
 よろよろと起き上がろうとするルースを、アズールが冷ややかに見下ろしている。ジェイドはお客様をお迎えに、フロイドはルースを絞めるのに飽きたらしく、2人ともホールへと消えていった。
「なぜ僕の邪魔をするんです?僕があなたになにかしましたか?」
 温度のない声に、ルースは這いつくばりながらキッとアズールをにらみ上げた。
「……アンタのやり方が、気に入らない……悪質な契約、劣悪な労働環境……この扱いが、僕は気に入らない!僕はアンタの下に、つきたいとは思えない……!」
「……そうですか。僕としても、ここまで反抗的で生意気な下僕など願い下げですよ」
 アズールがペンを一振りしたかと思うと、ルースは後頭部にガツンと強い衝撃を食らった。魔法かなにかで攻撃されたのだろう。ルースは完全に気を失ってしまった。
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