このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

オクタヴィネル寮の1年生が3章のストーリーにめちゃくちゃ干渉する話

 期末テスト期間が終了し、1週間が経った。今回の期末テストではほとんどの生徒がどの教科でも90点以上を取り、平均点は全学年、全教科90点以上。教師も困惑するほど、全体的にできすぎな結果となった。

 そして、成績上位50位は掲示に張り出される訳だが……そこはかなりの阿鼻叫喚となっていた。50位以内に入れなかったと嘆く者達は皆頭にイソギンチャクを生やし、悲鳴を上げている。ルースに忠告されていたエース、デュース、グリムも頭にイソギンチャクを生やしていた。

 イソギンチャクに引っ張って行かれそうな3人に、なにも知らないユウはただ困惑するしかないようだった。
「……って、あー!オマエ!こんなの、聞いてねーんだゾー!」
 そう言って叫ぶグリムの視線の先、人混みやユウ達から少し離れたところにルースは立っていた。ルースはイソギンチャクたちの様子を観察していたらしい。
 グリムに何やら言われていると気づくと、ルースは呆れたようにため息をつきながらグリムへと声をかけた。
「僕は言ったはずだぞ、やめておけと……自業自得だ」
 ルースはそのままユウの隣までやってきた。
 
「あ、あなたはこの前の……」
「ああ、オクタヴィネル寮1年のルース・ピークだ。そういう君はオンボロ寮の監督生だな、先日はどうも。」
 ルースはそう言って、口の端だけを上げて微笑んでみせた――口以外は無表情で、目までは笑えていなかったが。
「なんだお前?こいつらのダチか?」
 そうルースに問いかけたのは、ユウの隣にいたサバナクロー寮の生徒、ジャック・ハウルだ。
「いや、ついこの間知り合ったばかりだ。二言三言話したくらいだし、"ダチ"って程ではない」
 君とは初めましてだな、とルースが言おうとしたところで、エースたちがイソギンチャクに強く引っ張られて悲鳴を上げた。
「あぁあああぁああ~~!!!」
 イソギンチャクに引っ張られて連れて行かれる2人と1匹を、ルースたち3人は何とも言えない表情で見送った。
「なんて間抜けな絵面だ……」
 ジャックが呆れたようにそうこぼしたので、ルースも「本当にな」とそれに同調した。

 
 連れて行かれたエースたちを追いかけてみようとユウはジャックに提案した。「別にアイツらのためじゃねえ」と言いながらもジャックはそれについていく。そこにちゃっかりついてきているルースに、ジャックは怪訝そうな顔をした。
「僕も彼らがどうなるのか気になるんだ。ついてきちゃまずかったか?」
「いや……」
 真顔のまま顔色ひとつ変えないルースに、ジャックは微妙な顔をした。
 
「そういえば君……ええと」
「ジャック・ハウルだ」
「ジャック。ジャックは契約しなかったんだな。」
 「契約」という単語に、ジャックは眉をひそめた。
「さっきからなんなんだ?その契約って……」
「正直言って僕も詳しいわけではないんだが……「期末テストでいい点をとりたかったらモストロ・ラウンジへ!」という噂は聞いたことないか?それと関係があるんじゃないかと考えている。」
 少しだけルースの顔色が曇った。
 
「実際、彼らも契約がどうとか言ってたようだし。イソギンチャクを生やしているのは恐らく、全員がモストロ・ラウンジで「契約」をした生徒だ。」
 
 イソギンチャクたちはぞろぞろと引っ張られていき、やがて鏡舎にたどり着いた。
 ぎっしりと集まっているイソギンチャクの異様さに、ジャックは戸惑いの声を上げた。
「なんだ!?あの3馬鹿以外にも、頭にイソギンチャクを生やした奴らがたくさんいやがるぞ!2、3年の生徒もいるみてぇだ。全員オクタヴィネル寮に繋がる鏡へ入っていく。」
 
「……契約主はオクタヴィネル寮生で確定だな。」
 ルースは黒幕を確信した。
「インチキタコ野郎って誰だろう?」
 イソギンチャクたちの悪態を聞いたユウは不思議そうに呟いた。


 オクタヴィネル寮は水中にその建物が存在している。もちろん人間が暮らせるように空気も存在している。まるで海中神殿のようなその佇まいに、ユウとジャックは目を輝かせていた。
「うわぁ!水の中に寮がある!」
「マジかよ!すげぇな、ナイトレイブンカレッジって!」
 
「本当にな。この景色は僕も見る度ワクワクする」
 ルースが相槌を打つと、ジャックは咳払いをして再び難しい顔に戻ってしまった。
「……ゴホン。仮にも別の寮の縄張りに入るんだ。お前も浮かれてねぇで、用心しろよ。」
 どうやら彼は緊張感を持つようにユウに促しているようだ。いい心意気だ、とルースは思った。
「イソギンチャク達はこの先に向かっているようだ。この先は……ああ」
 ルースの視線の先には、オクタヴィネル寮生の運営するカフェ――『モストロ・ラウンジ』があった。

 モストロ・ラウンジのホールには、イソギンチャクを生やした生徒たちがぎっしり集まっていた。
「すごい人数だね」
 ユウは驚いたように呟いた。
「100……いや、200人近くはいそうだな。それにこの場所は?サ店みてぇな……」
 ジャックもその異様な光景に、周りを注意深く観察している。ルースはジャックの質問に答えた。
「『モストロ・ラウンジ』。僕たちオクタヴィネル寮生が運営しているカフェだ。」
 ――まあ僕はここで働いたこと1度もないが。ルースは頭の中でそう付け加えた。ルースは人に料理を提供することを苦手に感じている。キッチンはおろか、ホールで料理を運ぶのすらキツいくらい駄目なので、絶対モストロ・ラウンジでは働きたくないと思っていた。

「『モストロ・ラウンジ』?エースたちはどこに行った?」
 ルースの説明に、ジャックはさらに疑問符を浮かべた。ルースがさらに説明をしてあげようと口を開いたところで、パチン!と指を鳴らす音がホールに響いた。その場の全員がその音のした方に注目する。
 そこには、オクタヴィネルの寮長――アズールが立っていた。
 
「これはこれは。成績優秀者上位50名からあぶれた哀れな皆さん。ようこそ『モストロ・ラウンジ』へ。みなさん僕のことはよ~くご存知でしょうが、改めて自己紹介を。僕は、アズール・アーシェングロット。オクタヴィネル寮の寮長であり、カフェ『モストロ・ラウンジ』の支配人であり、そして――今日から君たちの主人あるじ になる男です。」
 アズールは高らかにそう名乗った。

「……なんだって?」
 ジャックが低い声で呟く。

「……このイソギンチャクたちはアズールと契約していたんだ。テスト対策ノートを受け取る代わりに、成績優秀者上位50名以内に入れなかったら、在学中はアズールの下僕になるって契約を。200人以上が。」
 ルースは苦い顔をした。「そんなの、どう頑張っても契約違反者が出るに決まってる……!」
 
「さっきから聞いてりゃ……どいつもこいつも気に入らねぇ!」
 ジャックが異を唱えたことをきっかけに、イソギンチャク達に反乱の意思が芽生えてしまった。しかし彼らは既にアズールの下僕。下僕は主人に逆らえない。アズール達は暴れるイソギンチャク達をなんなく蹴散らしていく。ラウンジ内は大乱闘である。
 
 ルースはどさくさに紛れて外に逃げることにした。下僕と呼ばれたあわれなイソギンチャクたちがねじ伏せられる様子は、ルースにとって見るに堪えなかった。自分の暮らす寮の長が、人を陥れ下僕といって支配している。彼の下にいたら、いつか自分もそんな扱いをされてしまう気がして怖かった。好きでもないのにこき使われるのは、正直言って大嫌いだ。

 
 モストロ・ラウンジから悔しそうに出てきたユウとジャックを、ルースは出迎えた。
「帰るのか?見送る……違うな、僕もついて行っていいか?」
 こうして、ユウ、ジャック、ルースの3人はオンボロ寮へと向かったのだった。
3/12ページ
スキ