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オクタヴィネル寮の1年生が3章のストーリーにめちゃくちゃ干渉する話

 さて、ある日のこと。オクタヴィネル寮の談話室に、ひとりの生徒が呼び出されていた。呼び出したのは寮長、アズール・アーシェングロット。そばに背の高い生徒を2人従えている。
 
 ――そういえばアズール寮長、あの時もあの2人と一緒にいたな。
 
 談話室の物陰に潜み、そんなことを考えている生徒がいた。ルースである。ルースはこの前のように、「気配を消す薬」を使って彼らの会話を盗み聞きしようとしていた。
 
「君、何故昨日は呼び出しを無視したんです?ご自分がどういう立場か、わかってらっしゃらないようだ。」
 アズールは呼び出した生徒にむかって淡々とそう言った。
「き、昨日はちょっと腹の調子が悪くて……」
「本当に?噓をつくとためになりませんよ。」
「本当です!本当に腹が痛くて……」
 
 アズールの問いに生徒はヘラヘラと答えた。嘘が下手なヤツだ、とルースは思った。腹の調子が悪いなんて、言い訳の常套句みたいなものじゃないか。当然、アズールも怪しんでいるようだった。
 
「ジェイド。彼がもう少し素直にお話できるようにしてあげてください。」
「わかりました。」

 アズールの指示でジェイドと呼ばれた生徒が前に進み出た。いったいなにが始まるのか、気になったルースは物陰からそーっと顔をのぞかせて――「気配を消す薬」があるから、そもそも身を隠す必要もあまりないのだが――その様子を観察した。
 
「……ふふ、そんなに怯えた顔をしなくても、痛いことはしませんよ。さあ、こちらを見て……『かじりとる歯ショック・ザ・ハート 』」
 ジェイドは生徒に近づくと、呪文のような言葉を唱えた。
 
「ではもう一度聞きますね。『昨日、貴方は何故アズールの呼び出しに応じなかったのですか?』」

ジェイドの問いに、生徒は素直に答えた。
「それは……もう腹黒インチキ野郎のアズールに好き勝手こき使われるのが嫌になったからだよ!腹が痛いなんて仮病に決まってるだろ?……って、なんだ!?く、口が勝手に本音を……あっ!」
「ほう、なるほど。それが貴方の本当のお気持ちですか。」
 
 ルースもジェイドのように「ほう」と感嘆の声をあげたかったが、我慢した。
 ショックザハート……恐らくユニーク魔法だろう。原理は分からないが、あの生徒が本音を喋ってしまったのにはアレが関係しているに違いない。なんとも恐ろしい技術だ。自分はアレに捕まりたくないなとルースは思った。

「ああ……なんてことだ。とてもショックです。海の魔女のごとく深い慈悲の心でもって君の願いを叶えてあげたのに。その僕を、腹黒インチキ野郎ですって?」
「ご、ごめんなさい!違うんです、今のは!」
 
 わざとらしい演技だな、絶対そこまでショックに感じていないだろう。ルースはそう言いたいのをぐっとこらえた。バレてはいけないから、言いたい事をその場で言う事ができない。代わりに頭の中に「演技がわざとらしい」とメモを残した。
 こうやってルースは気になった人の話を盗み聞きしては、その人が裏ではどんな顔をしているのかを独自に調べあげていた。別に、週刊誌のようにそれを誰かに言いふらすことが目的じゃない。あくまで自分が今後その人と付き合っていくための判断材料として、情報を集めているにすぎない。かなり悪趣味だが。
 
「フン、取り繕ってももう遅い!フロイド、出番ですよ。」
「やっと話終わったぁ?もうギュッてしていい?」
 
 アズールの声で、今度はフロイドと呼ばれた生徒が前に出た。ジェイドとそっくり同じ見た目をしている。双子だ。
 ……ギュッとするってなんだ?ルースは彼らの様子をじっと見守った。
 
「ええ、どうぞ。思いっきりね。」
「はーい。」
「ま、待ってくれ!もう一度チャンスを……ギャーー!!」

 フロイドに「ギュッと」された生徒の悲鳴が響き渡る。ルースはそのあまりの光景に静かに息を飲んだ。片方は情報を吐かせ、もう片方は痛めつける……なんてやばい双子だ!こいつらには絶対に目をつけられたくない!そしてそれを従えるアズールにも!
 
「ふぅ、まったく。どいつもこいつも支払いを踏み倒すろくでなしばかりだ。買ったら払う、借りたら返す。当然のことですよ。」
「ええ、おっしゃる通りです。」
 アズールの呆れたようなその言葉に、ジェイドはにこやかに賛同の意を示した。アズール達はさらにこう続ける。
「今年はもう少しマトモな人材が入ってくれば良いんですが……。」
「ふふふ。期末テストの結果が楽しみですね。」

 人材と期末テストに、いったいなんの関係が?話が見えず、ルースは眉をひそめた。期末テストといえば……まさか、「契約」の件と関係があるのだろうか?
 そこまで閃いて、ルースは音もなくその場を走り去った。「気配を消す薬」は優秀で、滅多なことでは存在を察知されることはない。それを最大限利用して、とにかく走った。寮の外まで出て、オブジェの影に身を隠した瞬間、薬の効果が切れてルースの姿が現れた。走って乱れた息の音がよく聞こえる。
 ぼんやりと見えてきた彼らの黒い部分に、ルースはもはや違和感ではなく確信を覚えはじめていた。
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