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オクタヴィネル寮の1年生が3章のストーリーにめちゃくちゃ干渉する話

 その日の夜。約束の日没が明日に迫る中、ユウはふらりとオンボロ寮に立ち寄り、たまたま出会った謎の生徒――"ツノ太郎"と会話を交わしていた。ユウはツノ太郎が去った後も、「目に見えるものとその実態は時として真逆なこともある」という彼の言葉を反芻しながら、しばらくの間立ち尽くしていた。
「……見た目と実質が、真逆?」
 ぽつりとユウが呟いた時、ザ、と誰かが砂利を踏む音がした。
「あ、驚かせたか?悪い」
 現れたのはルースだ。
「いつからそこに?」
「ちょうど今来たところだ。」
 ルースはザクザクと足音をたてながらユウの隣までやってきた。ルースの名誉のために言うと、本当にルースは今来たところである。今回は特に盗み聞きもしていない。
「ところで今君が言った、見た目と実質が真逆ってやつ……その考え方、アリかもしれないな。君たちが逃げた後、アズールはフロイドに向かって『ずっと契約書の束を背負って歩けとでもいうのか』と怒っていたんだ。金庫がないと、ずっと契約書に張り付いていなきゃいけないなんて……無敵とか言っているわりに、アズールは臆病みたいだ。」
 オンボロ寮を眺めながら、ルースはそう言った。不思議に思ったユウは尋ねた。
「もしかしてそれを言うためだけに来たの?」
「ああいや、本題は別にある」
 ルースはひとつ呼吸を置くと、改まってこう言った。
「タイムリミットは明日だ、もうなりふり構ってはいられない。……そこでだ、監督生。頼みがあるんだが、いいか?」
「え?」
「僕と契約してほしいんだ。」
「……えっ?」

 翌日。イソギンチャクを解放しオンボロ寮を取り戻すには、もう今日の日没までになんとかしなければならない。なんとかしなければならないのだが。
「――休館日!!??」
 契約の条件である写真を盗るために再びアトランティカ記念博物館を訪れたユウ一行は、すっとんきょうな声を上げた。
 なんと博物館は休館日だった。なんだかんだ威勢よく出発したのに、来てみたらこれだ。ユウたちはガックリと肩を落とした。
「……ちょい待ち。オレに考えがある。」
 エースがなにか閃いたかと思うと、なんと警備員の気を引くと言い出した。その隙に博物館に侵入しろというのだ。
 
 
「うわ~~っ、マジかよ!?今日って休館日なんすか?信じられねぇ、ココにくるの、めちゃくちゃ楽しみにしてたのに……」「ヤベー、本物の人魚だ!マジカッコいい!もっと良く見せてもらっていいですか?」

 エースは言葉巧みに警備員の警戒心を解き、あっという間に打ち解けてしまった。警備員はもはや完全に雑談モードに入っている。
「アイツ、よくあんなにスラスラ噓が口から出てくるんだゾ。」
 感心か呆れか、グリムがそう漏らした。
「完全に警備員が会話に気を取られてる。今のうちに行くぞ!」
 デュースがそう言った時だった。
 
「そのことなんだが、もう取ってきたぞ。」
 今までずっと黙っていたルースが突然口を挟んだ。その手には1枚の写真。
「えぇ!?」
「はあっ!?」
 デュースたちは口々に驚きの声をあげた。
「『リエーレ王子、ご学友とご来館』ってやつで合ってたか?もし違ったら二度手間で申し訳ないんだが……」
「それで合ってるんだゾ、多分!」
 少し不安げに写真を見せるルースにグリムは大喜びで答えた。
「いったいいつの間に……」
「こういうのは得意なんだ。……ふ、よかった。大成功みたいだな。」
 
 お得意の「気配を消す薬」である。しかも、今までのものと違って効果が徐々に現れて徐々に切れていくため、突然ルースが消えたり、なにもないところからパッとルースが現れたりといった事故が起こりにくい。改良型のこの薬をルースは「気配を消す薬EX」と名付けた。ルースはこれを使ってしれっといなくなり、博物館に侵入して写真を盗って、しれっと戻ってきていたのだ。あまりに自然に気配が無くなっていくものだから、その場の誰もがルースの単独行動に気づきもしなかった。
「気配を消す薬EX」は完全に気配を消せる時間が従来より短いようだったが、そこは従来品と使い分ければいいだろう。これでかなり便利になる。
 満足いく治験の結果に、ルースはニンマリした。

 
 エースも警備員とのおしゃべりを終えてユウたちと合流し、後は学園に戻って写真をアズールに叩きつけるだけである。
 しかし、”彼ら”はそう簡単にはいかせてくれないようだ。長い魚影がふたつ、ユウたちの周りを取り囲むようにゆらめいている。
「嫌な予感が……」
 そう、リーチ兄弟である。彼らは約束の日没までユウたちを妨害し、ついでに取ってきた写真も奪う気でいるのだ。

 エースの「こっからどうする気だったわけ?」という問いに、ユウは「写真を持ったまましばらく逃げ回って欲しい」と答えた。
「なるほど、単純でいい。」
 デュースは不敵に笑った。追いかけっこが始まった。

「ユウ、僕にできることはあるか?」
 ジェイドたち相手に逃げ回るエースたちを見ながら、ルースはユウに尋ねた。ユウはルースをまっすぐ見据えて答えた。
「ジェイドとフロイドの邪魔をして欲しい」
「無茶言うな」
「命令だよ」
 ルースはユウの言葉を聞いて、ニヤリといたずらっ子のように笑った。
「……ああ、任せろ!」

 
 ――ルースのユニーク魔法は、”契約した相手のために24時間の間尽くす”というものである。契約中はルース自身の能力が大幅に強化されるほか、3回までなら物理的・精神的に不可能な命令(ルースはこれを「無茶」と呼んでいる)も強制的に遂行することができる。ただしその場合、24時間が経過していなくても、無茶を3回叶えた時点で契約は終了する。契約を結べるのは24時間に1回、1人まで。
 
 ルースは昨晩ユウと契約を交わした後、全力で「気配を消す薬EX」を完成させた。アトランティカ博物館で写真を素早く盗れるように、あるいはアズールたちを出し抜くために。自身の能力が強化されたのをいいことに、それをフル活用して薬の調合をキッチンで済ませてしまったのだ。今のルースにとっては、ユウのためならそれくらい容易かった。
 契約した相手のためなら、なんでもしてやれる。それがルースのユニーク魔法、『貴方の為なら』なのだ。


 写真を持ったエースめがけて襲い掛かるフロイドに、ルースは魔法をぶつけた。すかさずフロイドがユニーク魔法でそれをはじく。ルースはその隙に一気に距離を詰め、今度はゼロ距離で水の魔法をぶつけた。一瞬の出来事にユニーク魔法が間に合わず、魔法の水圧でフロイドは吹っ飛んだ。
「……へぇ、なにそれ」
 じろりと睨むフロイドに向かって、ルースは堂々と喧嘩を売った。
「今のはまぐれだ、次も当てる!」
 フロイドもルースの挑発に乗った。
「やってみろよ!」
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