ふたりの物語
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彼女と付き合って、ちょうど一年が経った頃
東京の本社から大阪支社への移動が決まった
新幹線もあるし、かかる時間を考えるとそう遠くはない。ただ、仕事をする社会人同士、決して簡単に会える距離ではなかった
かなり大きな会社でデザイナーをしている多忙な彼女に一緒に来てくれなんてとても言えず、
大阪へ来てから気付けば二年、付き合ってからは三年が経とうとしていた
週末、飲み会が終わってチラチラと時間を確認しながら急いで家に帰り、慌てて美穂に電話をかける
今週あったことをお互い報告しあっていると、つい俺の悪戯心が顔出す
「あ、そういえば今日の飲み会で後輩の女の子が酔っ払っちゃってさ、家まで送って欲しいって言われちゃって。まぁ仕方ないから送ったんだけど、その子俺に気があるかもしれないんだよね」
ありもしない作り話をぺらぺらと話す
「そうなんだ。佐一くん、下心がもろに顔に出るから、次の機会には気をつけなよ?あ、わたしも今日は色々あったよ。そういえば、いつも行くコンビニの店員さんに告白されちゃった」
え、と声にならず代わりに喉がヒュッと鳴った
「勿論断ったけどね」
電話の向こうで俺の焦る様子が想像出来たのか、クスクスと笑いながらそんなことを言う彼女の方が一枚も二枚も上手である
そんな彼女に負けてばかりなのがなんだか悔しくて、次の日はお揃いで買った指輪を外して家を出た
すると、どういうことか、
駅の改札でICをかざそうとする前に、ICが入った財布がないことに気付く
勿論財布がないので切符も買えず、慌てて家に取りに帰ったが結局遅刻した
そのうえ帰り道を歩いていると突然の雨に見舞われボトボトになった
家に帰り、出かける際に靴箱の上に置いていった指輪をじっと見つめ、
「まじかよ」
と呟きながら元あった場所へとそれをはめた
そしてその週末、いつもは俺からかけるのに、めずらしく彼女の方から電話がかかってきた
それが少し嬉しくて、美穂の柔らかい声を心地よく感じていた時だ
「ねぇ、佐一くんは大阪から帰ってくる目処たたないんだよねぇ」
突然そう聞く美穂
「何年かしたら本社に戻れるとは言われてるけど、うーん、まだあと何年かは無理かな」
そう俺が言ったあと少しの沈黙が流れ、ほどなくして美穂が言葉を紡いだ
「最近親がうるさくてさ、もう私達この関係終わらせよう?」
一瞬で頭が真っ白になる
え、今、なんて言った?
声を失う俺はしばらく何も言えず、先ほどとは違い、かなり長い沈黙が続いた
そしてぷつりと電話は切れた
気付けば、俺は家を飛び出していた
とりあえず、財布と携帯をポケットにねじ込んで、よろけながら靴を履き、必死で走った
そして駅に着いて新幹線のチケットを買うと急いで電車に飛び乗った
電車を乗り継いで、やっと乗った東京へ向かう新幹線の中で少しだけ落ち着いた俺は、昨年の七夕での会話を思い出していた
毎年雨が降ったり曇ったりで見れなかった天の川が昨年はちょうど条件が重なり、綺麗に見えるとニュースでやっていた
予報通り雲一つない空に流れる美しい天の川を、ふたりで見上げた
「子供のころに思ったんだけどさ、彦星と織姫は年に一回しか会えなくて寂しくないのかな?」
そう聞く俺に美穂は
「寂しいに決まってるでしょう?
でも、その日に愛が確認出来るから、すべて乗り越えれるんだよ」
と答えた
そんなロマンティックな事を話す、彼女の美しい横顔から俺はしばらく目が離せなかった
彼女の家の最寄りの駅に着くと、そこからまた走った
もう少しで日付が変わろうとしていた時
急にインターホンが鳴ったことを彼女はどう思っただろうか
怖がらせてしまっただろうか
しばらくしても反応がないので、ドアの向こうに声をかける
「美穂、俺だけど」
すると、がちゃりと鍵を回す音がしてドアが開き、驚いた表情の彼女が俺を見上げた
美穂は何か言おうとしたが、それを聞く前にその小さな身体を強く抱きしめた
しばらくされるがままだった美穂が俺の腕を優しく解き、家の中へと招き入れた
ローテーブルを挟んで座るとじっとこちらを見つめてくる彼女
「なんでいきなり来たの?」
少し眉を潜めてそう聞く美穂に俺は、ここへ向かいながら色々考えた言葉をなんとか引き出そうとしたが、なかなか出てこない
「もしかして、何か勘違いしてる?」
その、勘違いというものは、なんなのか
「だって、関係を終わらせるなんて言うから、」
「そうだね。電話で言うことじゃなかったね」
会って別れを切り出されるのも辛いが、そうじゃない、そうじゃないんだ
ぐい、とローテーブルを横に押しどけて美穂との距離を詰める
縋るように見つめる俺を見つめ返す美穂
「じゃあ、電話で言うのはどうかと思ったから、今言うね」
嫌だ
聞きたくない、
「わたし、フリーで仕事することにしたから、大阪に引っ越そうと思う。仕事はパソコンがあれば出来るし、いい機会だから結婚しませんか」
「へ?」
全く予想外のその言葉に、俺は変な声が出た
しかし、それも気にせず
「プロポーズが電話だなんて、ちょっとな、って思ってたんだよね」
へへへ、と笑う
「結婚?え?美穂、俺と結婚してくれるの?」
「まだ返事貰ってないからわからないけど」
まさかの逆プロポーズというやつに、全身の力が抜けた
「俺、美穂に振られたかと思って、」
「だろうね」
申し訳なさそうに笑う美穂
「…っ、気付いたら、ここに向かってた」
先程までの不安はすっかり消えていたが、目の前の彼女をもう一度さっきよりも強く、抱きしめる
本当に、もう会えないかと思ったら胸が張り裂けそうだったのだ
少々痛い抱擁でも許してほしい
「ん、わたしも勘違いさせてごめんね」
ぎゅうぎゅうと俺が抱きしめるものだから、美穂は身をよじる
そして上目遣いで、優しい目をしてこう言うのだ
「まだ返事聞いてないんだけど」
その姿が愛しくて愛しくてたまらなくなる
「先に言わせてごめん。俺も美穂と一緒に居たい。一生俺についてきてください。結婚しよう」
俺の言葉に嬉しそうに目を細める美穂
しばらくそのまま抱き合っていると、
そうだ、と彼女が何かを言いかける
「可愛い後輩ちゃんを家に連れ込めなくなっちゃうけど大丈夫?」
そんな相手いないとわかってるくせに、
意地悪に笑う彼女はやっぱり何枚も上手だった
東京の本社から大阪支社への移動が決まった
新幹線もあるし、かかる時間を考えるとそう遠くはない。ただ、仕事をする社会人同士、決して簡単に会える距離ではなかった
かなり大きな会社でデザイナーをしている多忙な彼女に一緒に来てくれなんてとても言えず、
大阪へ来てから気付けば二年、付き合ってからは三年が経とうとしていた
週末、飲み会が終わってチラチラと時間を確認しながら急いで家に帰り、慌てて美穂に電話をかける
今週あったことをお互い報告しあっていると、つい俺の悪戯心が顔出す
「あ、そういえば今日の飲み会で後輩の女の子が酔っ払っちゃってさ、家まで送って欲しいって言われちゃって。まぁ仕方ないから送ったんだけど、その子俺に気があるかもしれないんだよね」
ありもしない作り話をぺらぺらと話す
「そうなんだ。佐一くん、下心がもろに顔に出るから、次の機会には気をつけなよ?あ、わたしも今日は色々あったよ。そういえば、いつも行くコンビニの店員さんに告白されちゃった」
え、と声にならず代わりに喉がヒュッと鳴った
「勿論断ったけどね」
電話の向こうで俺の焦る様子が想像出来たのか、クスクスと笑いながらそんなことを言う彼女の方が一枚も二枚も上手である
そんな彼女に負けてばかりなのがなんだか悔しくて、次の日はお揃いで買った指輪を外して家を出た
すると、どういうことか、
駅の改札でICをかざそうとする前に、ICが入った財布がないことに気付く
勿論財布がないので切符も買えず、慌てて家に取りに帰ったが結局遅刻した
そのうえ帰り道を歩いていると突然の雨に見舞われボトボトになった
家に帰り、出かける際に靴箱の上に置いていった指輪をじっと見つめ、
「まじかよ」
と呟きながら元あった場所へとそれをはめた
そしてその週末、いつもは俺からかけるのに、めずらしく彼女の方から電話がかかってきた
それが少し嬉しくて、美穂の柔らかい声を心地よく感じていた時だ
「ねぇ、佐一くんは大阪から帰ってくる目処たたないんだよねぇ」
突然そう聞く美穂
「何年かしたら本社に戻れるとは言われてるけど、うーん、まだあと何年かは無理かな」
そう俺が言ったあと少しの沈黙が流れ、ほどなくして美穂が言葉を紡いだ
「最近親がうるさくてさ、もう私達この関係終わらせよう?」
一瞬で頭が真っ白になる
え、今、なんて言った?
声を失う俺はしばらく何も言えず、先ほどとは違い、かなり長い沈黙が続いた
そしてぷつりと電話は切れた
気付けば、俺は家を飛び出していた
とりあえず、財布と携帯をポケットにねじ込んで、よろけながら靴を履き、必死で走った
そして駅に着いて新幹線のチケットを買うと急いで電車に飛び乗った
電車を乗り継いで、やっと乗った東京へ向かう新幹線の中で少しだけ落ち着いた俺は、昨年の七夕での会話を思い出していた
毎年雨が降ったり曇ったりで見れなかった天の川が昨年はちょうど条件が重なり、綺麗に見えるとニュースでやっていた
予報通り雲一つない空に流れる美しい天の川を、ふたりで見上げた
「子供のころに思ったんだけどさ、彦星と織姫は年に一回しか会えなくて寂しくないのかな?」
そう聞く俺に美穂は
「寂しいに決まってるでしょう?
でも、その日に愛が確認出来るから、すべて乗り越えれるんだよ」
と答えた
そんなロマンティックな事を話す、彼女の美しい横顔から俺はしばらく目が離せなかった
彼女の家の最寄りの駅に着くと、そこからまた走った
もう少しで日付が変わろうとしていた時
急にインターホンが鳴ったことを彼女はどう思っただろうか
怖がらせてしまっただろうか
しばらくしても反応がないので、ドアの向こうに声をかける
「美穂、俺だけど」
すると、がちゃりと鍵を回す音がしてドアが開き、驚いた表情の彼女が俺を見上げた
美穂は何か言おうとしたが、それを聞く前にその小さな身体を強く抱きしめた
しばらくされるがままだった美穂が俺の腕を優しく解き、家の中へと招き入れた
ローテーブルを挟んで座るとじっとこちらを見つめてくる彼女
「なんでいきなり来たの?」
少し眉を潜めてそう聞く美穂に俺は、ここへ向かいながら色々考えた言葉をなんとか引き出そうとしたが、なかなか出てこない
「もしかして、何か勘違いしてる?」
その、勘違いというものは、なんなのか
「だって、関係を終わらせるなんて言うから、」
「そうだね。電話で言うことじゃなかったね」
会って別れを切り出されるのも辛いが、そうじゃない、そうじゃないんだ
ぐい、とローテーブルを横に押しどけて美穂との距離を詰める
縋るように見つめる俺を見つめ返す美穂
「じゃあ、電話で言うのはどうかと思ったから、今言うね」
嫌だ
聞きたくない、
「わたし、フリーで仕事することにしたから、大阪に引っ越そうと思う。仕事はパソコンがあれば出来るし、いい機会だから結婚しませんか」
「へ?」
全く予想外のその言葉に、俺は変な声が出た
しかし、それも気にせず
「プロポーズが電話だなんて、ちょっとな、って思ってたんだよね」
へへへ、と笑う
「結婚?え?美穂、俺と結婚してくれるの?」
「まだ返事貰ってないからわからないけど」
まさかの逆プロポーズというやつに、全身の力が抜けた
「俺、美穂に振られたかと思って、」
「だろうね」
申し訳なさそうに笑う美穂
「…っ、気付いたら、ここに向かってた」
先程までの不安はすっかり消えていたが、目の前の彼女をもう一度さっきよりも強く、抱きしめる
本当に、もう会えないかと思ったら胸が張り裂けそうだったのだ
少々痛い抱擁でも許してほしい
「ん、わたしも勘違いさせてごめんね」
ぎゅうぎゅうと俺が抱きしめるものだから、美穂は身をよじる
そして上目遣いで、優しい目をしてこう言うのだ
「まだ返事聞いてないんだけど」
その姿が愛しくて愛しくてたまらなくなる
「先に言わせてごめん。俺も美穂と一緒に居たい。一生俺についてきてください。結婚しよう」
俺の言葉に嬉しそうに目を細める美穂
しばらくそのまま抱き合っていると、
そうだ、と彼女が何かを言いかける
「可愛い後輩ちゃんを家に連れ込めなくなっちゃうけど大丈夫?」
そんな相手いないとわかってるくせに、
意地悪に笑う彼女はやっぱり何枚も上手だった