尾形side
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それから金曜日だけ俺の帰宅コースが変わった
二度目に顔を合わせた時に
「また聴きに来てくれたんですね」
と心底嬉しそうな顔をするものだから、わざと覚えていないフリをしているんじゃないか、などと考えたがやはり違ったようだ
自分の都合良く考えるなんて阿呆のすることだが、美穂の事が絡むとそんな阿呆に俺は成り下がるらしかった
美穂の声はとても心地が良く、耳にするりと入ってくる
歌を聴いてたまたま立ち止まるやつも居たし、美穂の友達と思わしきやつはよく来ていたし、大好きですとファンを名乗るやつなんかもいた。いつも何人かに囲まれている美穂は、なかなか人気があった
その理由は声や曲は勿論のこと、愛想の良い笑顔や優しげな雰囲気、なにより笑うと少女のように可愛らしく真剣に歌う姿は美しいのだから、それも関係しているのだと思う
何回も足を運んでいるうちに常連になった俺は、毎回少し離れたところで最後まで聴くと終わってからの少しの時間美穂と話す
それはいつのまにか暗黙のルールと化していて、美穂も歌い終わって他の奴らに挨拶を済ませると、俺には最後に話しかけるようになっていた
「尾形さん!お疲れ様です」
お兄さん、から尾形さん、に呼び方が変わったのは二度目に話した際に名前を伝えてからだった
「今日は飲み会って言ってましたよね?」
譜面台をたたみながら、美穂が俺に聞く
「あぁ、結局仕事の話ばかりで疲れるけどな」
「へぇー、わたしもあと少ししたら社会人になっちゃうけど…飲みニケーションってやつですよね!」
話すようになって知った事だが美穂は大学4年生で来年には社会人らしい
もう就職先は決まっていて残りの学生生活を課題にバイトに歌に、と謳歌中とのことだった
「はぁ、わたしちゃんと上手く社会人出来るかな…不安です」
なんて眉を下げる美穂に
「上手くいってもいかなくても俺のところに来れば良いだろうが」
と今の関係では絶対に言えない言葉を飲み込んだ
俺が通いはじめてから美穂は必ず金曜日はここで歌っている
以前金曜日以外の夜はほとんどバイトに時間を費やしていると話していたのを思い出し
「そういえば、忙しいんじゃないのか?たまには歌わずゆっくりしないのか」
と疑問をぶつけると
「そうですねぇ、忙しいって言えば忙しいんですけど、歌うのが好きなんで」
と無邪気に笑い、こう続けた
「それに、尾形さんが聴きにきてくれるようになってからは、なんだか金曜日はここに来るのが当たり前になってて」
その言葉に返事もせずジッと見つめると
ハッと慌てて口元を押さえ
「あ、いや、なんか変なこと言いましたけど!そういうのじゃなくて、声が好きって言ってくれるから嬉しくて、だから、聴いて欲しいってだけで、」
あわあわと焦りながら弁解する美穂に
俺のためってことか?と
顔には出さないがつい、にやけそうになる
「いや、そう言われると嬉しいんだが、大学もバイトもあってしんどいんじゃないかと思ってな」
俺の言葉に美穂は、しばらく手元を見つめて、視線をゆるやかに泳がせ、
「じゃあ、連絡先交換しませんか?」
と視線をあげた
いきなりの言葉にポカンとした俺に
また少し焦り気味になった美穂
「あー!もう、違うんです、いつも尾形さん来てくれてるから!もし急に来れないってなった日があったら事前に伝えれるし!」
前にたまたま通ったって言ってたから、
とか
わざわざ遠回りしてくれてるのに申し訳ない、
などと
色々と理由のようなものを並べ顔を真っ赤にして必死に誤魔化すその様子が面白くて
我慢できず口角があがってしまう
パチリと目が合うと
「尾形さんも、笑うんですね」
「まぁな。ほら、交換してくれるんだろう?」
ロックを外した携帯を差し出すと美穂が失礼します、と慣れた手つきでアプリを開き、ほんの十数秒後にトーク画面に可愛いスタンプが送られてきた
来れない時は連絡しますから…と言っていつもより慌て気味でギターケースを背負った美穂の顔はまだ少し赤く、それじゃ、と短い挨拶を投げ足早に去っていった
そして俺は、家までの数分間、トーク履歴の一番上にあるその名前に、らしくもなく心が躍り、たったひとつスタンプが送られただけの画面を、距離が近づいた事実を噛み締めるように何度も見つめるのだった
二度目に顔を合わせた時に
「また聴きに来てくれたんですね」
と心底嬉しそうな顔をするものだから、わざと覚えていないフリをしているんじゃないか、などと考えたがやはり違ったようだ
自分の都合良く考えるなんて阿呆のすることだが、美穂の事が絡むとそんな阿呆に俺は成り下がるらしかった
美穂の声はとても心地が良く、耳にするりと入ってくる
歌を聴いてたまたま立ち止まるやつも居たし、美穂の友達と思わしきやつはよく来ていたし、大好きですとファンを名乗るやつなんかもいた。いつも何人かに囲まれている美穂は、なかなか人気があった
その理由は声や曲は勿論のこと、愛想の良い笑顔や優しげな雰囲気、なにより笑うと少女のように可愛らしく真剣に歌う姿は美しいのだから、それも関係しているのだと思う
何回も足を運んでいるうちに常連になった俺は、毎回少し離れたところで最後まで聴くと終わってからの少しの時間美穂と話す
それはいつのまにか暗黙のルールと化していて、美穂も歌い終わって他の奴らに挨拶を済ませると、俺には最後に話しかけるようになっていた
「尾形さん!お疲れ様です」
お兄さん、から尾形さん、に呼び方が変わったのは二度目に話した際に名前を伝えてからだった
「今日は飲み会って言ってましたよね?」
譜面台をたたみながら、美穂が俺に聞く
「あぁ、結局仕事の話ばかりで疲れるけどな」
「へぇー、わたしもあと少ししたら社会人になっちゃうけど…飲みニケーションってやつですよね!」
話すようになって知った事だが美穂は大学4年生で来年には社会人らしい
もう就職先は決まっていて残りの学生生活を課題にバイトに歌に、と謳歌中とのことだった
「はぁ、わたしちゃんと上手く社会人出来るかな…不安です」
なんて眉を下げる美穂に
「上手くいってもいかなくても俺のところに来れば良いだろうが」
と今の関係では絶対に言えない言葉を飲み込んだ
俺が通いはじめてから美穂は必ず金曜日はここで歌っている
以前金曜日以外の夜はほとんどバイトに時間を費やしていると話していたのを思い出し
「そういえば、忙しいんじゃないのか?たまには歌わずゆっくりしないのか」
と疑問をぶつけると
「そうですねぇ、忙しいって言えば忙しいんですけど、歌うのが好きなんで」
と無邪気に笑い、こう続けた
「それに、尾形さんが聴きにきてくれるようになってからは、なんだか金曜日はここに来るのが当たり前になってて」
その言葉に返事もせずジッと見つめると
ハッと慌てて口元を押さえ
「あ、いや、なんか変なこと言いましたけど!そういうのじゃなくて、声が好きって言ってくれるから嬉しくて、だから、聴いて欲しいってだけで、」
あわあわと焦りながら弁解する美穂に
俺のためってことか?と
顔には出さないがつい、にやけそうになる
「いや、そう言われると嬉しいんだが、大学もバイトもあってしんどいんじゃないかと思ってな」
俺の言葉に美穂は、しばらく手元を見つめて、視線をゆるやかに泳がせ、
「じゃあ、連絡先交換しませんか?」
と視線をあげた
いきなりの言葉にポカンとした俺に
また少し焦り気味になった美穂
「あー!もう、違うんです、いつも尾形さん来てくれてるから!もし急に来れないってなった日があったら事前に伝えれるし!」
前にたまたま通ったって言ってたから、
とか
わざわざ遠回りしてくれてるのに申し訳ない、
などと
色々と理由のようなものを並べ顔を真っ赤にして必死に誤魔化すその様子が面白くて
我慢できず口角があがってしまう
パチリと目が合うと
「尾形さんも、笑うんですね」
「まぁな。ほら、交換してくれるんだろう?」
ロックを外した携帯を差し出すと美穂が失礼します、と慣れた手つきでアプリを開き、ほんの十数秒後にトーク画面に可愛いスタンプが送られてきた
来れない時は連絡しますから…と言っていつもより慌て気味でギターケースを背負った美穂の顔はまだ少し赤く、それじゃ、と短い挨拶を投げ足早に去っていった
そして俺は、家までの数分間、トーク履歴の一番上にあるその名前に、らしくもなく心が躍り、たったひとつスタンプが送られただけの画面を、距離が近づいた事実を噛み締めるように何度も見つめるのだった