短編
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その日、美穂は人生のどん底にいた
大学まで女子ばかりのエスカレーター式の学校に通っていて、男性と付き合ったことがなかった、そんな美穂に初めて出来た彼氏
その彼に他の女性との関係が発覚した
そうだ。二股を掛けられていたのだ
腹が立って、悲しくて、ものすごく虚しい
なにより初めて出来た彼氏に浮き立ち、毎回頑張ってお洒落して、少しでも可愛い彼女でいようとしていた自分が、なによりも恥ずかしかった
問い詰めると悪びれもなく反論してきた彼の言葉で、彼にとって自分はただの遊び相手で彼女なんて認識はさらさらなかったということを知った
ぐるぐると渦巻くこの感情を消化しきれない美穂は、その足の向くまま歩き続けたせいで知らない通りを歩いていた
ふと横を見ると、英国風とでもいうのだろうか、お洒落な装飾が施されたドアが目についた
そこはバーのようで、オープンと書かれた札が掛かっていた
お酒をたくさん飲んで忘れてやろう、と半ばヤケクソだった美穂は吸い込まれるように、そのドアを開けた
中へ入るとダウンライトが演出するお洒落で落ち着いた店内に、軽やかに流れるジャズのメロディ
ボックス席に2組座っているのが見えた
その大人な雰囲気に少し尻込みしてしまい、入り口から動けないでいると、
こちらへどうぞ、と少し離れた誰も座っていないカウンターの奥からバーテンダーさんが声をかけてくれた
そして、カウンターから出て椅子を引いてくれたのは、ツーブロックに綺麗に流されたオールバック。きっちり整えられた髭に両頬の傷。大人な色気が漂う人だった
席につき、カウンターの中に戻った彼と目があうと、その真っ黒な瞳に吸い込まれそうになった
「何にされますか?」
声をかけられて、はっ、と彼に見惚れてしまっていた事に気付く
「あの…わたしこういう所に来るの初めてで…」
バーなんて初めてなうえ、数えるほどしか飲んだこともない美穂はお酒の種類も何もわからなかった
「じゃあ好みを聞きながら作りますね」
こくりと頷くと、
柑橘系はお好きですか?炭酸は?などといくつか質問され、彼の手元をじっと見つめているうちに、細長いシャンパングラスが目の前に置かれた
見た目はオレンジジュースだ
「お酒が弱いとのことなので。オレンジジュースに少なめにシャンパンを入れたミモザです」
いただきます、と口をつけると甘酸っぱいオレンジのなかに少しだけ大人な渋みを感じる
あまりに美味しくて、喉が乾いていたこともあり気づけばかなりの速さで飲み干してしまった
そして、それをじっと見つめる彼に頬が赤らむのが分かった
「の、喉が、乾いてて…あの、こういうのってゆっくり飲む物ですよね」
「いや、別に好きに飲んだらいいと思いますよ。違うカクテルも試してみますか?」
そう言ってわたしが頷くのを確認すると
出てきたのは細長いグラスだった
「スクリュードライバーです」
「あ、よく聞くやつだ」
飲んだことはないけれど、と口をつける
「オレンジジュースは一緒ですが、これはウォッカを割ってます」
口当たりがよく、これも飲みやすい
今度はちびちびと舐めるように飲むわたしに
「今日はなにかあったんですか」
と彼は声をかけた
先程のミモザをほぼ一気飲みしたせいか、少し酔い始めていた美穂はポツリポツリと、自分がここに入ろうと思ったまでの経緯を彼に話しはじめた
付き合っていると思っていた相手が自分のことをただの遊び相手だと言い放ったこと、他にも女性関係があり、それを全く悪いと思っていなかったこと、
「好きだって言ってくれたんです。だから、わたしも一生懸命応えようとして…」
酷いことを言われたけれど、あの人の前では絶対に泣きたくなくて我慢した
ポロポロと溢れる涙がカウンターの上に落ちた
「あの人の前では泣きたくなかったんです」
「俺の前ではいいですよ。泣いて」
無表情だが、優しいその言葉にしばらく涙は止まらなかった
少しして、こくり、と少し氷で薄まった酒に口をつけると、
「はじめても、両思いだと思ってたから、あげちゃった」
と、ぽつりと言葉が漏れた
「…」
そうだ、初めての行為はすごく怖くて、それでも好きだから、嫌われたくないから、そう思って痛みに耐えた
最後まで気持ちいいなんて一度も感じることはなく、彼が満足するまで必死に耐えた
そのあとも何度か求められたが、最初の記憶が脳にこびりついて、応えられなかった。あの人との行為は初体験のソレが最初で最後だった
「はじめてが、嫌な思い出になったんですね」
「あ、えっと、」
何故そんな恥ずかしい事を、初めて会うバーテンダーの彼に口走ったのか。美穂は目線が泳ぎ、顔が熱くなった
そして二杯目を飲み終わる前に
コトリ、とショートのカクテルグラスが置かれた
「嫌な思い出は忘れましょう。そして、上書きしたらいい。これは俺の奢りです」
グラスから目線を上げると、いつのまにか彼の顔つきが変わっていた
大学まで女子ばかりのエスカレーター式の学校に通っていて、男性と付き合ったことがなかった、そんな美穂に初めて出来た彼氏
その彼に他の女性との関係が発覚した
そうだ。二股を掛けられていたのだ
腹が立って、悲しくて、ものすごく虚しい
なにより初めて出来た彼氏に浮き立ち、毎回頑張ってお洒落して、少しでも可愛い彼女でいようとしていた自分が、なによりも恥ずかしかった
問い詰めると悪びれもなく反論してきた彼の言葉で、彼にとって自分はただの遊び相手で彼女なんて認識はさらさらなかったということを知った
ぐるぐると渦巻くこの感情を消化しきれない美穂は、その足の向くまま歩き続けたせいで知らない通りを歩いていた
ふと横を見ると、英国風とでもいうのだろうか、お洒落な装飾が施されたドアが目についた
そこはバーのようで、オープンと書かれた札が掛かっていた
お酒をたくさん飲んで忘れてやろう、と半ばヤケクソだった美穂は吸い込まれるように、そのドアを開けた
中へ入るとダウンライトが演出するお洒落で落ち着いた店内に、軽やかに流れるジャズのメロディ
ボックス席に2組座っているのが見えた
その大人な雰囲気に少し尻込みしてしまい、入り口から動けないでいると、
こちらへどうぞ、と少し離れた誰も座っていないカウンターの奥からバーテンダーさんが声をかけてくれた
そして、カウンターから出て椅子を引いてくれたのは、ツーブロックに綺麗に流されたオールバック。きっちり整えられた髭に両頬の傷。大人な色気が漂う人だった
席につき、カウンターの中に戻った彼と目があうと、その真っ黒な瞳に吸い込まれそうになった
「何にされますか?」
声をかけられて、はっ、と彼に見惚れてしまっていた事に気付く
「あの…わたしこういう所に来るの初めてで…」
バーなんて初めてなうえ、数えるほどしか飲んだこともない美穂はお酒の種類も何もわからなかった
「じゃあ好みを聞きながら作りますね」
こくりと頷くと、
柑橘系はお好きですか?炭酸は?などといくつか質問され、彼の手元をじっと見つめているうちに、細長いシャンパングラスが目の前に置かれた
見た目はオレンジジュースだ
「お酒が弱いとのことなので。オレンジジュースに少なめにシャンパンを入れたミモザです」
いただきます、と口をつけると甘酸っぱいオレンジのなかに少しだけ大人な渋みを感じる
あまりに美味しくて、喉が乾いていたこともあり気づけばかなりの速さで飲み干してしまった
そして、それをじっと見つめる彼に頬が赤らむのが分かった
「の、喉が、乾いてて…あの、こういうのってゆっくり飲む物ですよね」
「いや、別に好きに飲んだらいいと思いますよ。違うカクテルも試してみますか?」
そう言ってわたしが頷くのを確認すると
出てきたのは細長いグラスだった
「スクリュードライバーです」
「あ、よく聞くやつだ」
飲んだことはないけれど、と口をつける
「オレンジジュースは一緒ですが、これはウォッカを割ってます」
口当たりがよく、これも飲みやすい
今度はちびちびと舐めるように飲むわたしに
「今日はなにかあったんですか」
と彼は声をかけた
先程のミモザをほぼ一気飲みしたせいか、少し酔い始めていた美穂はポツリポツリと、自分がここに入ろうと思ったまでの経緯を彼に話しはじめた
付き合っていると思っていた相手が自分のことをただの遊び相手だと言い放ったこと、他にも女性関係があり、それを全く悪いと思っていなかったこと、
「好きだって言ってくれたんです。だから、わたしも一生懸命応えようとして…」
酷いことを言われたけれど、あの人の前では絶対に泣きたくなくて我慢した
ポロポロと溢れる涙がカウンターの上に落ちた
「あの人の前では泣きたくなかったんです」
「俺の前ではいいですよ。泣いて」
無表情だが、優しいその言葉にしばらく涙は止まらなかった
少しして、こくり、と少し氷で薄まった酒に口をつけると、
「はじめても、両思いだと思ってたから、あげちゃった」
と、ぽつりと言葉が漏れた
「…」
そうだ、初めての行為はすごく怖くて、それでも好きだから、嫌われたくないから、そう思って痛みに耐えた
最後まで気持ちいいなんて一度も感じることはなく、彼が満足するまで必死に耐えた
そのあとも何度か求められたが、最初の記憶が脳にこびりついて、応えられなかった。あの人との行為は初体験のソレが最初で最後だった
「はじめてが、嫌な思い出になったんですね」
「あ、えっと、」
何故そんな恥ずかしい事を、初めて会うバーテンダーの彼に口走ったのか。美穂は目線が泳ぎ、顔が熱くなった
そして二杯目を飲み終わる前に
コトリ、とショートのカクテルグラスが置かれた
「嫌な思い出は忘れましょう。そして、上書きしたらいい。これは俺の奢りです」
グラスから目線を上げると、いつのまにか彼の顔つきが変わっていた