君が幸せであるように
*****
「やっぱり赤司くんも思うよね!?」
「もちろん思うよ。それはつまり優しさだろう?」
「そうそれ!!はぁ…テツくんってなんであんな優しいんだろ…あれって狙ってやってるんじゃないんだよね…あの優しさがテツくんの素なんだよね…ほんとステキ…」
「以前から思っていたんだが、影には、包容力のようなものがあるね」
「わかる!あるよね包容力!なんかこう、表面に出てこない頼もしさっていうか!」
「押しつけがましくないというのかな。さりげない気配りが出来る人種なんだと思う」
「本人に言っても否定しそうだよね。『そんなことないですよ』って」
「『夢見すぎ』とは言われるだろうな…」
「そういう妙に謙虚なところも好き…」
「わかる…」
2人揃ってうんうんと頷いてしまう。
「その話とも繋がるんだけど、やっぱりテツくんの最大の魅力はね…」
「わかるよ。ギャップだろう?」
「そー!さっすが赤司くん!そうなの!ギャップなの!テツくんってギャップがホントにたまらなくて!」
「ギャップはずるいね」
「そー!ずるいのー!でも好き!」
「わかる」
「だって普段があの影の薄さで、さっきから言ってるみたいに超優しくて、真面目で謙虚で、でも試合になると真剣な顔つきでどんな相手にも絶対怯まず負けるもんかって挑んでいくんだよ?カッコイくない?ずるくない?」
「まさに影の影たる所以だね。存在感に見合わないあの度胸や意志の強さはまさしくギャップだ」
「自分に厳しくて、でも周りには紳士で、あとすっごく負けず嫌いで…」
「負けず嫌いは買いだね。負けず嫌いは本当にいい。負けず嫌いなくせに必要とあらばプライドをあっさり投げ打てられるところもいいね。紳士かどうかは何とも言えないが、頑固に見えて芯が柔軟で、案外懐が深いところもいい」
「待って赤司くんそれ誰の話?黛さんの話してない?」
「はははまさか。黒子は性格にメリハリがあって、そこが面白いし格好いいね」
「そうなのー!テツくんカッコイイのー!テツくん超カッコイイよ超好き…は~~~どうしよ赤司くん…」
黒子を褒められて勢い机に突っ伏してしまう桃井にも、赤司はうんうんと頷くばかりだ。超カッコイイ。超好き。どうしようどうしよう。わかる。完全に共感している。
相談っていうのはね、と身を乗り出した桃井の話を親身に聞こうとこちらも身を乗り出したはずが、ところでこの前テツくんに会ったんだけどね、とナチュラルに黒子の話にシフトし、テツくんてこういうとこあるよね、といつの間にか「私の好きな人自慢」へと移行し、最終的に「恋ってつらい…」という、お互いに深刻な恋バナを繰り広げるに至っていた。
はじめはあくまで自分は聞き役、桃井の荒ぶる恋心を少しでも宥めることが出来ればと思っていた赤司だったが。
お互い慕う相手が「影」だからか。お互い現在進行形で「恋愛中」だからか。同級生で、よく見知った間柄で、相手に対して信頼も厚い。そこに性差はなく、日頃から鬱積する想いと、ノリと、タイミングが、2人の間で完璧に合致した。
桃井がただひたすら「黒子テツヤについて」語り倒すのをいいことに、赤司もただひたすら「黛千尋について」思うところを垂れ流している。2人とも自分の想い人のことしか考えていないので一見意思疎通できているようで実は出来ていないが、恋する者同士、魂のコミュニケーションは成立している。問題はない。
「自らを当事者とした恋愛トーク」など赤司にとって人生初とも言えるが、なるほどこれは、と不本意にも納得してしまった。楽しい。しかも二人の意中の相手には共通点がある。共感に共感を重ねて盛り上がれるのは非情に楽しい。さすがに少し、むず痒い気持ちもあるが。
なにごとも、わかり合えるというのは楽しい。
「…本当に、『ああ、どうしよう』と思う瞬間はあるね。感情が心のキャパを完全に超えてしまって」
「そうそう。あんまりおっきな感情だから自分で持て余しちゃうんだよね。夜中に一人でテツくんのこと思い出した時なんか、誰にも言えないし声も出せないし、お布団の中でバタバタしてるんだよ」
「それは見てみたいな」
「やだよ~赤司くんこそ、そんなことあるの?全然想像つかない」
「さすがに布団の中で暴れたりはしないけど、頭がいっぱいで何も手につかなくなることはあるかな」
嘘と本当半分ずつである。布団の中で暴れたことは普通にある。
「わかる…手につかなくなるよね…他の人に取られちゃったらどうしようとかネガティブな想像ばっかりしちゃって居てもたってもいられなくなったり…」
「嫌われたらどうしようと考えて眠れなくなったり」
「わかるー!!かといって焦って告白なんか怖くてできないし!」
「わかる。今の関係が壊れたらと思うとね」
「そう…そうなの超わかる…すごい、赤司くん相変わらずエスパーだね…それともそれって体験談?」
「両方だよ。桃井の気持ちはわかりやすいし、特定の人に恋焦がれる気持ちもよくわかる」
途端に、目をキラキラと輝かせた桃井がじっと赤司を見据えてくる。
「えっホントに体験談なの?赤司くんも黛さんのこと考えてこんな風になるの?」
「なったことがある、かな、正しくは。当時の関係を壊して、今の俺とあの人があるわけだしね」
醸し出される圧倒的余裕に、ひええ、と赤面して桃井は口に握ったこぶしを当てた。
「あかしくんがおとなだ…」
「まさか。俺も桃井と同じだよ。散々泣いて悩んで苦しんで、今だって毎日のように七転八倒してる」
「うそぉ」
「ほんと」
赤司は口元に笑みを浮かべながら、レモングラスのハーブティを口に含んだ。
パフェの底に沈んだアイスのかたまりをロングスプーンで掬おうと難儀しつつ、桃井は「はあぁ」と大きなため息を吐く。
「やっぱりそうなんだよね…今のままが楽しいけど、ずっと今のままじゃいられないってこともわかってるんだ。何かを壊さなきゃ、きっと先には進めないんだろうな、って」
「壊す、と表現するから気が重くなるんだろう。変化していくのは普通のことだよ。永遠に変わらないものはない」
「永遠に変わらないもの、…か」
最後のアイスをぱくりと口に含み、「美味しかった」と桃井はポツリと呟いた。間違いなくタルトとシフォンとパンケーキで悩んでいたはずなのに、よし決めた!と桃井が注文したのは突然の紅茶パルフェなる代物だったので、女性とは本当に未知の生き物だな、と穏やかな微笑みの裏で実感した赤司である。
「赤司くんは、一度『関係を壊して』、黛さんと今の関係になったんでしょ?その今の関係だっていつかは変わると思ってる?」
「もちろん。いずれ」
「それはいい方に?悪い方に?」
「どちらにも。大なり小なり、人は変わるよ。大切なのはそれを恐れないことだと思ってる。諦めをつけるとも言えるね。どうせいつかは変わるものだと思っていれば、一歩踏み出すのも少しは気がラクになるだろう」
「でも…悪い方に転がるの、怖くない?」
「いい方に転がることだってあるさ。1年前の俺に『1年後のお前は黛千尋とこうなっているぞ』と言ったって、絶対に信じない」
あはは、と笑う桃井を、赤司は柔らかな笑みで見つめた。
「例えば2年前の桃井も……青峰と黄瀬がコート上でまた笑ってバスケをしているところは、なかなか想像できなかっただろう?」
ジャバウォックとの対戦時、中学時代と変わらない調子でじゃれ合いながら息の合ったプレイをする2人の姿を見て、桃井が涙を流していたことを、赤司は黒子から聞いていた。
『桃井さんの気持ちがわかるので、僕も、グッと来てしまって』
黒子は赤司に対する時だけ見せる少し緩んだ表情で、困ったように笑った。
『思わず応援に熱が入ってしまいました。桃井さんのためにも、あのチームでもう一度試合が出来て本当に良かった』
誰よりも、誰よりも、青峰の、自分たちキセキのそばで見守ってくれていた唯一の存在だ。どんなに先の見えない不安の中でも、桃井だけはずっと彼らを信じて、その時を待ってくれていた。
黒子は黒子なりに、桃井のことを見ている。ちゃんと大事に思っているのだ。
桃井は目を丸くしたあと、寂しそうに笑った。
「…うん、そうだね…大ちゃんときーちゃんがまた仲良くコートに立って、大ちゃんとテツくんがまた仲良く…みんなでまた一緒に、って……信じたかったけど、ずっと信じてるつもりだったけど、どうしても自信が持てなかったな」
赤司は静かに頷く。
「だけど俺たちはまた共にコートに立てた」
「うん」
「いいことも、そうじゃないことも両方あるんだよ。それが前に進むということだ」
「それが変わるってこと?」
「そう。成長するということ。いくらでも相談に乗るよ。他ならぬ桃井のためだからね」
こういった時の赤司の微笑みは、すべてを包括するような安心感に満ちている。その気になればコート上の全員を一瞬で凍らせることも出来る人なのに。この寛容さはなんだろう。いっそ貫禄と言ってもいい。同い年のはずなのだけど…やっぱり赤司くんはすごいな、と桃井はなんとなく嬉しくなる。
「ありがとう。赤司くんが友達でよかった」
「こちらこそ」
「……あのね」
桃井が、俯いて小さなこぶしをぎゅっと握る。
「赤司くん、怒るかもしれないんだけど」
「怒らないよ」
「本当に、変な意味はないから、できれば怒らないで聞いて欲しいんだけどね」
「ああ」
「………」
「怒らないよ」
「………ホントに?」
「友達だろう。信用してるよ」
そう言われてしまえば勇気を出すしかない。えい、とばかりに勢いをつけ、桃井は思い切って口を開いた。
「赤司くん、黛さんとはじめてキスした時どんな感じだった?」
「――――――……」
顔面に貼りついた笑顔の裏で、「うわ、帰りたい」と赤司は思った。
「やっぱり赤司くんも思うよね!?」
「もちろん思うよ。それはつまり優しさだろう?」
「そうそれ!!はぁ…テツくんってなんであんな優しいんだろ…あれって狙ってやってるんじゃないんだよね…あの優しさがテツくんの素なんだよね…ほんとステキ…」
「以前から思っていたんだが、影には、包容力のようなものがあるね」
「わかる!あるよね包容力!なんかこう、表面に出てこない頼もしさっていうか!」
「押しつけがましくないというのかな。さりげない気配りが出来る人種なんだと思う」
「本人に言っても否定しそうだよね。『そんなことないですよ』って」
「『夢見すぎ』とは言われるだろうな…」
「そういう妙に謙虚なところも好き…」
「わかる…」
2人揃ってうんうんと頷いてしまう。
「その話とも繋がるんだけど、やっぱりテツくんの最大の魅力はね…」
「わかるよ。ギャップだろう?」
「そー!さっすが赤司くん!そうなの!ギャップなの!テツくんってギャップがホントにたまらなくて!」
「ギャップはずるいね」
「そー!ずるいのー!でも好き!」
「わかる」
「だって普段があの影の薄さで、さっきから言ってるみたいに超優しくて、真面目で謙虚で、でも試合になると真剣な顔つきでどんな相手にも絶対怯まず負けるもんかって挑んでいくんだよ?カッコイくない?ずるくない?」
「まさに影の影たる所以だね。存在感に見合わないあの度胸や意志の強さはまさしくギャップだ」
「自分に厳しくて、でも周りには紳士で、あとすっごく負けず嫌いで…」
「負けず嫌いは買いだね。負けず嫌いは本当にいい。負けず嫌いなくせに必要とあらばプライドをあっさり投げ打てられるところもいいね。紳士かどうかは何とも言えないが、頑固に見えて芯が柔軟で、案外懐が深いところもいい」
「待って赤司くんそれ誰の話?黛さんの話してない?」
「はははまさか。黒子は性格にメリハリがあって、そこが面白いし格好いいね」
「そうなのー!テツくんカッコイイのー!テツくん超カッコイイよ超好き…は~~~どうしよ赤司くん…」
黒子を褒められて勢い机に突っ伏してしまう桃井にも、赤司はうんうんと頷くばかりだ。超カッコイイ。超好き。どうしようどうしよう。わかる。完全に共感している。
相談っていうのはね、と身を乗り出した桃井の話を親身に聞こうとこちらも身を乗り出したはずが、ところでこの前テツくんに会ったんだけどね、とナチュラルに黒子の話にシフトし、テツくんてこういうとこあるよね、といつの間にか「私の好きな人自慢」へと移行し、最終的に「恋ってつらい…」という、お互いに深刻な恋バナを繰り広げるに至っていた。
はじめはあくまで自分は聞き役、桃井の荒ぶる恋心を少しでも宥めることが出来ればと思っていた赤司だったが。
お互い慕う相手が「影」だからか。お互い現在進行形で「恋愛中」だからか。同級生で、よく見知った間柄で、相手に対して信頼も厚い。そこに性差はなく、日頃から鬱積する想いと、ノリと、タイミングが、2人の間で完璧に合致した。
桃井がただひたすら「黒子テツヤについて」語り倒すのをいいことに、赤司もただひたすら「黛千尋について」思うところを垂れ流している。2人とも自分の想い人のことしか考えていないので一見意思疎通できているようで実は出来ていないが、恋する者同士、魂のコミュニケーションは成立している。問題はない。
「自らを当事者とした恋愛トーク」など赤司にとって人生初とも言えるが、なるほどこれは、と不本意にも納得してしまった。楽しい。しかも二人の意中の相手には共通点がある。共感に共感を重ねて盛り上がれるのは非情に楽しい。さすがに少し、むず痒い気持ちもあるが。
なにごとも、わかり合えるというのは楽しい。
「…本当に、『ああ、どうしよう』と思う瞬間はあるね。感情が心のキャパを完全に超えてしまって」
「そうそう。あんまりおっきな感情だから自分で持て余しちゃうんだよね。夜中に一人でテツくんのこと思い出した時なんか、誰にも言えないし声も出せないし、お布団の中でバタバタしてるんだよ」
「それは見てみたいな」
「やだよ~赤司くんこそ、そんなことあるの?全然想像つかない」
「さすがに布団の中で暴れたりはしないけど、頭がいっぱいで何も手につかなくなることはあるかな」
嘘と本当半分ずつである。布団の中で暴れたことは普通にある。
「わかる…手につかなくなるよね…他の人に取られちゃったらどうしようとかネガティブな想像ばっかりしちゃって居てもたってもいられなくなったり…」
「嫌われたらどうしようと考えて眠れなくなったり」
「わかるー!!かといって焦って告白なんか怖くてできないし!」
「わかる。今の関係が壊れたらと思うとね」
「そう…そうなの超わかる…すごい、赤司くん相変わらずエスパーだね…それともそれって体験談?」
「両方だよ。桃井の気持ちはわかりやすいし、特定の人に恋焦がれる気持ちもよくわかる」
途端に、目をキラキラと輝かせた桃井がじっと赤司を見据えてくる。
「えっホントに体験談なの?赤司くんも黛さんのこと考えてこんな風になるの?」
「なったことがある、かな、正しくは。当時の関係を壊して、今の俺とあの人があるわけだしね」
醸し出される圧倒的余裕に、ひええ、と赤面して桃井は口に握ったこぶしを当てた。
「あかしくんがおとなだ…」
「まさか。俺も桃井と同じだよ。散々泣いて悩んで苦しんで、今だって毎日のように七転八倒してる」
「うそぉ」
「ほんと」
赤司は口元に笑みを浮かべながら、レモングラスのハーブティを口に含んだ。
パフェの底に沈んだアイスのかたまりをロングスプーンで掬おうと難儀しつつ、桃井は「はあぁ」と大きなため息を吐く。
「やっぱりそうなんだよね…今のままが楽しいけど、ずっと今のままじゃいられないってこともわかってるんだ。何かを壊さなきゃ、きっと先には進めないんだろうな、って」
「壊す、と表現するから気が重くなるんだろう。変化していくのは普通のことだよ。永遠に変わらないものはない」
「永遠に変わらないもの、…か」
最後のアイスをぱくりと口に含み、「美味しかった」と桃井はポツリと呟いた。間違いなくタルトとシフォンとパンケーキで悩んでいたはずなのに、よし決めた!と桃井が注文したのは突然の紅茶パルフェなる代物だったので、女性とは本当に未知の生き物だな、と穏やかな微笑みの裏で実感した赤司である。
「赤司くんは、一度『関係を壊して』、黛さんと今の関係になったんでしょ?その今の関係だっていつかは変わると思ってる?」
「もちろん。いずれ」
「それはいい方に?悪い方に?」
「どちらにも。大なり小なり、人は変わるよ。大切なのはそれを恐れないことだと思ってる。諦めをつけるとも言えるね。どうせいつかは変わるものだと思っていれば、一歩踏み出すのも少しは気がラクになるだろう」
「でも…悪い方に転がるの、怖くない?」
「いい方に転がることだってあるさ。1年前の俺に『1年後のお前は黛千尋とこうなっているぞ』と言ったって、絶対に信じない」
あはは、と笑う桃井を、赤司は柔らかな笑みで見つめた。
「例えば2年前の桃井も……青峰と黄瀬がコート上でまた笑ってバスケをしているところは、なかなか想像できなかっただろう?」
ジャバウォックとの対戦時、中学時代と変わらない調子でじゃれ合いながら息の合ったプレイをする2人の姿を見て、桃井が涙を流していたことを、赤司は黒子から聞いていた。
『桃井さんの気持ちがわかるので、僕も、グッと来てしまって』
黒子は赤司に対する時だけ見せる少し緩んだ表情で、困ったように笑った。
『思わず応援に熱が入ってしまいました。桃井さんのためにも、あのチームでもう一度試合が出来て本当に良かった』
誰よりも、誰よりも、青峰の、自分たちキセキのそばで見守ってくれていた唯一の存在だ。どんなに先の見えない不安の中でも、桃井だけはずっと彼らを信じて、その時を待ってくれていた。
黒子は黒子なりに、桃井のことを見ている。ちゃんと大事に思っているのだ。
桃井は目を丸くしたあと、寂しそうに笑った。
「…うん、そうだね…大ちゃんときーちゃんがまた仲良くコートに立って、大ちゃんとテツくんがまた仲良く…みんなでまた一緒に、って……信じたかったけど、ずっと信じてるつもりだったけど、どうしても自信が持てなかったな」
赤司は静かに頷く。
「だけど俺たちはまた共にコートに立てた」
「うん」
「いいことも、そうじゃないことも両方あるんだよ。それが前に進むということだ」
「それが変わるってこと?」
「そう。成長するということ。いくらでも相談に乗るよ。他ならぬ桃井のためだからね」
こういった時の赤司の微笑みは、すべてを包括するような安心感に満ちている。その気になればコート上の全員を一瞬で凍らせることも出来る人なのに。この寛容さはなんだろう。いっそ貫禄と言ってもいい。同い年のはずなのだけど…やっぱり赤司くんはすごいな、と桃井はなんとなく嬉しくなる。
「ありがとう。赤司くんが友達でよかった」
「こちらこそ」
「……あのね」
桃井が、俯いて小さなこぶしをぎゅっと握る。
「赤司くん、怒るかもしれないんだけど」
「怒らないよ」
「本当に、変な意味はないから、できれば怒らないで聞いて欲しいんだけどね」
「ああ」
「………」
「怒らないよ」
「………ホントに?」
「友達だろう。信用してるよ」
そう言われてしまえば勇気を出すしかない。えい、とばかりに勢いをつけ、桃井は思い切って口を開いた。
「赤司くん、黛さんとはじめてキスした時どんな感じだった?」
「――――――……」
顔面に貼りついた笑顔の裏で、「うわ、帰りたい」と赤司は思った。