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それは滑稽な真冬の話

それは家の中で暖房もつけないと凍えるほどの真冬の話。
俺は暖房をガンガンに効かせて食べるアイスの美味さを急に味わいたくなった。その衝動は寒さを引き換えにしても止まらなかったので沢山着込んで夜のコンビニに出向くことにした。

寒い、とてつもなく寒いと思いながら帰る家路
人がいないせいなのもあるけれど尋常なく寒い
風の吹く音が寒さを倍増させるような気もする。そんな中、コンビニに行く時に必ず経由する公園で寒空の中あったけぇココアが飲みたくなった俺はぼけーっとベンチに座りながら公園の自販機で買ったココアを飲みながら寒空の星をぼーっと眺めていた。夜の人もほとんど通らない公園でココアの温かさが手にじーんっと伝わる。そしてココアが数百倍美味しく感じる。つまるところ最高。


タッタッタッと公園外から走ってくる音が聞こえる。人は俺以外いないのでよく響く。こんな時間にしかもこんな寒空の下でランニングか、お疲れ様だな。なんて思ってたら足音の主が目の前に現れる。驚くことにこの時期にそぐわない死ぬほど薄着で鼻をすすりながら俺の存在など見えていないかのように隣のベンチに勢いよく腰かけた。

「ほんっっと……わけわかんない……」
そいつは独り言をボソリとつぶやいた。よく見ると同い年ぐらいでくっそ真面目そうな男子だ。
こいつは何があったんだろうかという好奇心と色んな心配が混ざりいても立っても居られず躊躇もなく隣のそいつに話しかけた。

「おい、寒くねぇのか?」

「へ?あっ、い、いや!だ、大丈夫…です…アハハ」
少し怯えた顔をして愛想笑いで交わされた。こいつビビってるな…まぁ俺がこんな見た目でこんな時間に外にいるようなやつって言うのもあるだろうし仕方ないよな…なんて思いながら会話を続けた。
「大丈夫なわけねぇだろ、おめぇの鼻、真っ赤なお鼻のトナカイさんみたいに真っ赤っかになってるぞ?」
「へ!?そんなことないですよ!?」
そんなことないと言い張りながらそいつは鼻を隠す。
「それにおまえこれ薄着だろ?これ着てちょっと待っとけ。」
そう言って俺は立ち上がり自分の上着を脱いでそいつに投げ、自販機の元に向かいココアを買ってそいつの元に戻りそいつに向かってココアを軽く投げた。
「さみぃだろ?これでも飲め、風邪ひくぞ。」
「え、あ、ありがとうございます…えーと…あなたは寒くないんですか…?」
「俺か?ココア飲んだから寒くねぇ」
「は、はぁ…」
なんだか腑に落ちない様な顔をしてココアを飲み始めた。

「そういや単刀直入に聞くがおまえなんか怒ってたみてぇじゃねぇか、この時間で薄着だから…家出か?」
「まぁ、そんな所です…うちの家花屋なんですけど家業を継げ継げうるさくて。それで今日は耐えれなくて喧嘩して飛び出してきちゃいました…。」
よくある話だ、俺も経験したことあるな〜とか思いながら俺は質問した。
「ふーん、なるほどな?それでなんでおまえは店を継ぎたくないんだ?」
そう聞いたあとそいつは少ししかめた顔をしてうつむき加減で話を続けた。
「花、嫌いなんです。手間掛かるしそのくせすぐ枯れるし、そしてなにより花の匂いを嗅ぐとガミガミ言ってくる親が脳裏に浮かんで…。だから…嫌なんです。」
そいつは少しイラついた口調でそう吐き捨てた
「へーそれだけの理由か?」
「…それだけの理由…って…そう言いますけれどただのへらへら生きてるヤンキーのあなたなんかには僕の気持ちなんて分からないでしょうね!!」
俺の軽い言葉がそいつの怒りに油を注いでしまったようで座っていたベンチを立って大きな声で怒り出した。そいつが言葉を言い切った後、はっと正気に戻ったかと思えば自分の発言に対して怯え始めた。俺は無言でベンチから立ち上がりそいつに近づいた。そいつはヒッと小さく声を上げ逃げようとしたが俺は腕を掴んだ。

「ご、ごごごごごごごめんなさい………その………あの…………」
「あ?ごめんなさいだと?俺じゃなく親御さんに言えよ。だいたいてめぇこそなんもわかってねぇ、てめぇが俺の事を分からないように俺には花屋の苦労だとか苦悩だとか、てめぇの悩みとか苦悩とかなーーーんもわかんねぇよ。でもよ、考えてみろよ失礼じゃねぇか?親に対しても花に対しても。」

「お前のこと見込んで継がせたい親の気持ちも少しでも考えてやれ、お前のこと思ってガミガミ言ってんだ。それでも継ぎたくなかったら継がなきゃいい、だがそれ相応の親孝行はしろよ。…それに花だって俺らと一緒で生きてる。花という命に対して手間がかかるは失礼じゃねぇのか?」
一気に話をしたため息が上がる、そいつはうつむきながら震えていた。それは寒さからなのか怯えからなのか俺には分からない。少しの沈黙
を経てそいつは震えた声で言った。

「…わからないです」
「そりゃあ今のてめぇじゃわかんねぇよ、なんも始めてないんだからよ」
「…でもなんというか…ありがとうございます、これからどうしたいのかは少しだけ、ほんの少しだけわかった気がします。」
「へ?」
まさかそう返ってくると思ってなくて凄く情けない声が出てしまった。
「ありがとうございます、それに八つ当たりしちゃってすみません。僕、帰ります!ヤンキーさんも早く帰るんですよ!」
そういうとそいつは俺のジャンバーを脱ぎ軽く畳んで渡すとその場から走って行こうとしたのでまた腕を掴んで引き止める。
「うわっ!こ、こ今度はな、なんなんですか!?」
「いやすまん…なんというか…もし花屋を継ぐなら…素敵な花咲かせてやってくれよな、てか俺とお前話してないから気づいてないだろうけど同じクラスだから同い歳だぞ」
「…えぇ!もちろ…え!?嘘!?あっ!ほんとだ!!今井くんじゃん!!えーとあのーえー……ごめんね?」
「いや、俺こそすまんな、赤松。…てか寒いだろ?早く帰れ。」
そいつ基赤松はぺこりととしその場を去っていった。
俺はというと自分らしからぬこと言って少し恥ずかしくなっていた。
「なんだあれ、嵐のようなやつだったし…なにより俺らしくねぇなこれ…ハクシュン!……いーさみ」
そういえば上着貸してたから冷えてたんだったそう思ってジャンバーを着直して家路に着いた。

そいつが後の親友になる香枝だと言うことはこの時の俺はまだ知らないしその後問答無用で風邪ひいたのももちろん知らない話。
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