モブサイコ100
「なんていうのかな、このまま放課後バイトして終わるより、ほかに何かあるような気がしないでもないような……」
この一言から始まった。
「は?ああ……そういう話ね、思春期だね~モブ君」
時給が安すぎる件か自身の正体に気づいたのかを焦った霊幻。そうじゃないとわかると、顎が一瞬外れた。
「何かやりたいことでもあるのか?バンドか?ヒッチハイクか?」
「いや、別に何がやりたいかというか。翡翠先輩は中学のころ部活に入っていましたか?」
「えっ!私?」
いきなり、質問された翡翠はこぼれ落ちそうになったたこ焼きを、慌てて念動力で持ち上げた。
「私は、どの部活にも入っていなかったわ。巫女の仕事もあったし、二年のころにはここでバイトをし始めたから」
「そうですか」
それでもまだ悩んでいる茂夫を見た霊幻は、焦って何かやりたいことを探す必要はないと諭す。
その光景を見ながら翡翠は、たこ焼きを頬張った。
今日は茂夫はバイトに行くらしいのだが、何故か今回は翡翠は来なくていいとのことだった。
特にやることもないので、街に出かけることにした。除霊の仕事以外で、街に出かけることはあまりない。普段は霊幻の事務所にいるか、実家の神社で巫女の仕事をしている。
珍しいものを食べ終えた翡翠は、そろそろ霊幻達が帰っているかもしれないと、事務所へと足を運ぼうとした。
が、裏路地で何か話声が聞こえた。気にせずに通り過ぎればよかったのだが、好奇心に負けてしまい、裏路地に起こっていることを見てしまった。
そこには喧嘩が行われていて、大人数人が一人の少年を取り囲んで、今に襲い掛かろうとしていた。助けねばと思い、少年の方に駆け寄ろうとした。が、その前に不思議なことが起こった。取り囲んでいた大人たちが、少年に触れた瞬間弾き飛ばされた。
こんな芸当、普通の人間ではできない。この少年からは妖気を感じない。妖怪の血筋ではない。考えられるとすれば、『超能力者』。茂夫以外にも存在しいているだろうとは感じていたが、すぐ近くにいるとは思っていなかった。
気配に気が付いたのか、少年が翡翠の方へ振り返った。整った顔に金色の髪、青い瞳。争いごとには慣れているのだろう、その青い瞳には、油断のない鋭さがあった。
「誰だい君は?こいつらの仲間?」
「違います」
「そうなんだ。でも今の光景を見ても悲鳴を上げていないってことは、君もこういうことは慣れているってことか?」
普通の女の子なら悲鳴を上げているからね、と笑顔で、しかし鋭い目を向けながら言った。
『相手にしてはいけない』
本能がそう言っていた。彼は、今まで相手にしてきた妖怪たちとは比にならない、それほどの力を感じる。
『人に妖怪の力を使ってはいけない』
霊幻の言葉が翡翠の耳元に聞こえた気がした。
半妖化して戦うことは免れない。そうなれば、今できることは一つしかなかった。
少年が翡翠につかみかかろうとした瞬間、煙が彼らを包んだ。
「ごほっごほっ!……ふぅ。逃げたか。あの子、半妖か」
少年―花沢光輝は、笑みを浮かべた。
(ここまで逃げれば、追ってこないか)
一匹のキジトラ模様の猫、翡翠が人通りの少ない道路を走っていた。
少年に掴みかかれる瞬間、妖術である目くらましの術を使い、猫の姿に変化し。ここまで走ってきた。
(まさか、調味市で茂夫君のほかに超能力者がいたなんて……)
翡翠は、周りに誰もいないことを確認すると、人間の姿に変化した。
(相談所に行ってみよう。師匠様帰ってきてるかな?)
そう思いながら、霊とか相談所へと足を運んだ。そこで、とんでもないものを見ることになるとも知らずに。
「いやあああぁああぁぁぁぁぁぁああ!!化け物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
霊とか相談所のビルの前につくと、客であろう女性が叫び声を上げながら階段を駆け下りてきた。
(えっ?何があったの!?)
翡翠は急いで階段を駆け上がり、事務所の扉を開いた。
「師匠様、いまお客さんらしき人が……!?」
そこには、私立でお嬢様学校として有名な聖ハイソ女学院の制服を着た、化粧の濃い何かがこちらを見ていた。
今までにない恐怖を感じた翡翠は、意識をプツリと途絶えた。
「ん?」
「起きたか?」
目を覚ますと、ソファの上だった。霊幻が心配そうに翡翠を見ている。辺りを見回してみても、先ほどの恐ろしい何かはもういなかった。
「師匠様。今さっき、ここで妖怪のような何かが」
「大丈夫だ。俺がしっかりと退治しておいたから。怖がることはねえよ」
霊幻は、翡翠を落ち着かせるように翡翠の頭を撫でた。
(先輩が妖怪だと思っているアレ。化粧を濃くした師匠なんだよなぁ)
茂夫は二人の様子を見ながら、そう思っていた。
4/4ページ