モブサイコ100
夜に中には未だ、科学で解明できない怪奇現象が確かに存在する。
人々はそれに出くわした時、為す術もなくただ恐怖の闇に突き落とされてしまう。
そんな混とんとした闇に一筋の光を射すべく日々戦い続ける者たちがいた…。
人は彼らをこう呼んだ。
霊能力者と。
「その依頼、この霊幻新隆が引き受けた!」
「本当ですか?ありがとうございます、どこに行っても相手にされなくて困ってたんです…」
この依頼人、花子はポケットからハンカチを出して自分の涙を拭いた。
「あ~はいはい。で、報酬の話なんですけど、どのコースで除霊しましょう?」
「コース?」
花子が聞きなおすと同時に霊幻が棚から一枚の紙を取り出し説明する。
お試しコースだと20%、真面目コースだと50%、本気のお試しコースだと霊を99%削減することをお約束する説明だった。
「削減?」
「霊というのは、二酸化炭素的なあれですから」
と、よく分からない理屈を言う霊幻。
「ええ!そうなんですか?」
と、素直に信じる花子。
「ええ、まあ。ニュアンス的な存在というか…だから完全に消すというのはちょっと困難ですけど。
ですが、心配ご無用。また出たら、二割引きで請け負いますから」
「あ~、霊幻せんせ「ちょおっと待った!!」
いきなり男が割り込み花子のセリフを遮った。
「何だね君は?」
「恋人の太郎です、先生」
尋ねた霊幻に花子が答える。と霊幻は不思議そうに言った。
「ほーう、キトクな方だ」
「どういう意味だ!え~いや、そんなことより」
太郎は霊幻に指をさし言い放った。
「あんた、いかにも胡散臭いぞ。花子、考え直したほうがいいぜ」
考え直すことを促す太郎と不安そうな花子。黙ってみていた霊幻が「胡散臭いだとっ」と大きな声を放ち椅子から立ち上がった。
「まあ、そうなるよなあ。幽霊にうなされるなんてアホな話いきなりされてもな」
「いや彼女じゃなくて、あんたが信用できないって言ってるの!」
といいながら言う太郎。
「まあ、任せなさい。俺がちゃんと除霊すれば、花子さんの顔も、きっと元通りになるはずだ」
普通にして失礼な発言をする霊幻。花子はよく分からない顔をしている所で太郎は突っ込みを入れた。
「別に顔で悩んでねえよ!!!」
街中。
例の廃墟に向かう三人。花子は、霊にうなされる経緯を語った。
先週、廃墟で肝試しをしてから毎晩、うなされるようになったのだという。
「もう怖いし気味が悪いし…。はっ、霊幻先生あの建物です」
花子が指さした建物を見て霊幻の表情が変わった。
「物凄い霊気を感じる!こいつは久々の、大物だぁ!」と指さす。
しかし。
「先生こっちです」
花子は別の建物を指さしていた。霊幻は「えっ」と、驚いていた。
「あれ~?今間違えて」
「あ、あはははは。ええ、あ~そっちか。そっちからも、すごい霊気をビシビシ来てたんだけど、これまた霊違いでしたな~。世の中悪霊が沢山おりますからね~」
必死にありそうなことを言って、身振りで誤魔化している。
「ええ、そうなんですか?」
「いやいや、そんな幽霊がどこにもいるわけが」
関心そうに聞いている花子に、全く信じていない太郎の横に男が通り過ぎる。
「ややっ!今太郎さんの横を通り過ぎた男!」
霊幻の叫びに、太郎と花子が驚く。そしてすぐにほっとする。
「よかった、今のも悪霊ですよ」
その言葉を聞いて怯える二人が振り返るとそこには……。
「妖怪ケツアゴ」
「小学生かお前は!!!」
ツッコミが炸裂する。ツッコミを入れた彼に「ちょっと失礼よ」と花子がいさめる。
しかし太郎は納得がいかないらしく「失礼はこいつだ」と言い返す。「まあまあ花子さん」と二人の顔の前に手をかざして制止する。そして、営業しマイルで。
「こういう人もいる、ということで。さ、行きましょうか」
建物に入っていく霊幻と花子を見ながら、太郎は怒りでひきつった笑顔で見ていた。
(こいつぅ……)
「この土地は、ゴキブリに驚いてジャンプしたら、天井に頭が刺さって死んだ男の霊がれるって言われているんです」
「お前、よく信じるよな」
怯える花子に太郎が呆れるように言った。
「なるほど、ここは…そういうことか!」
しばらく辺りを見ていた霊幻は何か確信めいたように言った。
(何だ?急に、マジな顔に。まさかほんとに?)
物陰に隠れるように見ていた霊幻は振り返って告げた。花子は恋人にしがみ付き、太郎は泣き出しそうだった
「事態によっては、私にも手に負えない可能性がある……。危険すぎる!
ゴキブリ怖え~」
しかし、霊幻が恐れていたのはゴキブリだった。
(うわぁぁ、こいつ絶対霊能力者じゃねえ。確実に偽物だ!)
呆れて何も言えない太郎の後ろに「何か」が迫り、肩に触れた。その感触で太郎が振り返るとそれはいた。
『お前の夢にも出てやろうか?』
「でっ、でたぁあああ!」
「俺様の呪いで天井を突き破ってやろうか」
悪霊天井破りは腰を抜かして座り込んだ太郎に指をさす。
「きゃあああああ!夢で頭突きしてくる人と同じよ!」
太郎を揺さぶりながら悲鳴を上げる。天井やぶりは徐々に二人に近づいていく。
(まさか、マジで出るとは)
霊幻はスーツの懐からあるものを取り出し、天井やぶりに振りかけた。
「任せろ!
ソルトッスプラァァァァァッシュ!」
それは、スーパーとかでよく見かける食塩だった。まあ、効くかどうかというと。
「スーパーで売ってる食塩じゃねえか。清めた塩じゃねえと効かねえよ」
痛くもかゆくもないという様子だった。太郎たちは霊幻を見て、霊幻は驚愕した様子で食塩を床に落とす。
(馬鹿な!霊が塩に弱いというのは俺の思い込みだったのか)
しかし霊幻を気を取り名をし「最終兵器を呼ぶか」と携帯電話を取り出した。
「あ、モブ?悪いけどすぐ来てくれるか?あいやいや、マジで、悪霊いるんだって。お客さんも悪霊も待ってるから、早めにな?じゃ頼む。あとあいつにも来る妖、伝え取ってくれ」
数分後。
強大な力を持った二つの人影が、廃墟の廊下を進んでいた。そして、悪霊や霊幻達がいる部屋に入ると霊幻が二人に声をかけた。
「よお、モブ、翡翠。待ってたぞ」
天井やぶりが後ろを振り返るとそこには、男子中学生と女子高生が立っていた。
天井やぶりは、しばらく二人を見つめた。
「へっ、食塩の次は中学生と高校生かぁ?馬鹿にすr」
二人に襲い掛かろうとした天井やぶりが言葉を継ぐことはできなかった。
影山茂夫、通称モブと月山翡翠の除霊術でもがきながら消えてしまったのだから。
除霊術の余波で壁に掛けてあったスケジュールのようなものが埃をたてて床に落ちてしまった。
「師匠、いきなり呼び出すのはやめてくださいって」
モブは言った。
夕方。
「いや~、助かったぜ。まさか本当に悪霊が出るとはな」
売上金を数え金庫にしまう。
あの後、すっかり怖がってしまった二人のケアを施して返してから事務所に帰った。
「お前らにもほれ、今日のバイト代」
モブと翡翠の手にそれぞれ三百円渡された。
「どうも」
「ありがとうございます」
「今日のは低級の奴だったから、半分でも十分なんだけどな、まあサービスだ。ちゃんと自給分やるよ」
「はあ」
モブが微妙な反応をするのを、お茶を飲んでいた霊幻は見逃さなかった。
「なんだ、何か不満なのか?」
「ああ、いえ。ですがさっきの、本当に低級の奴でしたよ」
かなり驚いている霊幻。そして翡翠が追い打ちをかけるように。
「あの程度なら、多少腕に覚えがあるものでも簡単に、除霊ができますよ。師匠様もあれくらいなら」
「ばっか、お前」
霊幻が、翡翠の言葉を遮った。
「俺くらいになると強すぎて、簡単な除霊作業だと周りの人を溶かしちゃうの!だから弱いのをお前らに頼んでるんだよ(汗)」
「本当ですか?溶けるの意味がよくぁかりませんし…」
「そんな除霊術聞いたことがありませんよ」
「バカ、モブ!翡翠!お前ら、修行が足りないからだよ。きっちり学べよ、この師匠からな。お前らの力は使わねえと、もったいねえんだ。俺の手伝いは人助けにつながるし、修行になるし、一石二鳥じゃねえか」
一通り言い終えると、霊幻は真剣な口調で言った。
「だが、強大なすぎる力は、使い方を誤ると己の身を亡ぼす。だから暴走しないよう、力のコントロールを俺が教えてやってるんだよ。」
事務所から翡翠は家に帰っていた。
「死ね!猫神の半妖!」
後ろから何か異形のものが翡翠に迫っていた。かぎ爪で翡翠の項にめがけて斬りかかった。しかし、その爪が翡翠の項を切ることができなかった。翡翠の姿は人のようで人ではなかった。
猫特有の目。頭に生えた獣耳。鋭く尖った爪と牙。その姿はまるで妖怪のよう。そしてその爪と手には異形のもの、妖怪の赤黒い血がついていた。
翡翠は自分の手を見つめた。先ほどの霊幻の、自分と弟弟子に言った発言を思い出していた。
ーー 約束しただろ?人に向けて超能力と妖力は使わないって。
息絶えた妖怪に目をやると、そこは灰の山ができていた。
翡翠はため息をつくと、家の方向へ、また歩き出した。