忍術学園唯一の女忍たま
俺たちも三年になった今年の春も可愛い後輩たちが入学してきた。用具委員に入ってくれる子はいるのだろうか。
そう思っていた時だった。変わった一年生の忍たまにあったのは。ほかの一年とは違う雰囲気の双子のきょうだい。どうやら片方は妹らしい。何でもその妹はとある事情で男として育てられたらしく、女だとばれてはならないという理由で忍たまとして入学したらしい。
兄のほうは人懐っこく友達がたくさんできているが、妹のほうは兄に付きっきりで離れようとしていなかったが、最近積極的になって、人と関わっている。
兄、弥生瑠璃丸はもう所属する委員会は決まったらしい。彼が一番なついている中在家長次の所属先の図書委員会だ。妹、弥生翠玉はまだ決まっていない。用具委員会に誘いたいのだが、それはほかの委員会も一緒で翠玉を勧誘している。翠玉は忍術学園で唯一の女忍たまだ。ほかの委員会も翠玉を所属させようとしているし、早く手を打たねば。
一日の授業が終わって、放課後。翠玉にとってある意味試練が始まった。
各委員会に所属している、先輩たちが唯一の女忍たまである翠玉を委員会に入れようとあらゆる手段を使って勧誘してくるのだ。放課後になると委員会に所属している忍たまたちが至る所に潜み翠玉を待ち伏せているのだ。
ここ二週間、無事に自室へ帰れたためしが一度もない。先輩たちに見つからぬよう自室へ帰るのは至難の業。しかし、今日こそは、先輩たちに見つからぬよう帰らねばならない。もし見つかってしまったら、いつもみたいに先輩や同学年である滝夜叉丸に委員会の勧誘を夕暮れまで受けることになる。
委員会に入りたくない分けではないのだ。どの委員会も楽しそうで、興味津々だ。だがみんなが揃いも揃ってオススメしてくるから、決め手に欠けてしまう。だが学園長からもそろそろ入る委員会を決めるよう言われている。
「しかしどの委員会に入ればいいのか……」
自室に帰るために翠玉は誰にも見つからぬよう人気のないところを歩いていた。
「ん?」
用具倉庫が視界に入った。
用具倉庫は忍具などの武器が仕舞われていると、瑠璃丸から聞いたことがある。その話を聞いてからずっと興味を持っていた翠玉は、用具倉庫の中に入って見ることにした。
用具倉庫に入ると、中には手裏剣や縄はしご、槍や弓などが保管されていた。
弓の一つを手に取った。低学年の忍たまやくノたまが使う弓だから、ある程度使いやすく作られている。が丈夫な木でできている。自分が愛用している蝦夷族の弓程ではないが、かなり丈夫だ。
「誰だ?そこで何をしている?」
後ろから声が聞こえ、翠玉は顔を青くし振り返った。
そこには、浅葱色の制服を着た忍たま、三年は組の食満留三郎が立っていた。
用具倉庫の中に入って勝手に、弓を手に取っている。怒られると思ったからだ。
「お前は確か、一年い組の弥生翠玉かい?」
「は…はい」
「武器などに興味があるのかい?」
翠玉は頷く。まだ怒られると思っているのか身をすくめていた。
留三郎は、怯えている翠玉を落ち着かせるように頭を撫でた。
「用具委員会に入らないか?」
「え?」
「武器についていろいろと学べるぞ。先輩たちも優しいし、放課後が楽しくなるぞ」
武器について学べる、放課後が楽しくなる、先輩たちが優しい。それを聞いた翠玉の心は決まった。
「用具委員会に入りたいです!」
表情が明るくなった翠玉の頭を撫でる。
「よしっ!じゃあ、学園長に所属する委員会が決まったことを伝えに行こうか」
「はい!」
そして、学園長に用具委員会に所属することを伝え、翠玉は委員会勧誘地獄から解放された。
「一緒に図書委員会になりたかったなあ」
「お前はそのシスコンから解放されろ。図書委員会よりこの滝夜叉丸と体育委員会に」
「なに言っているんだ滝夜叉丸、翠玉はこの三木エ門と会計委員会に」
「作法委員会に入ってほしかったなあ。翠玉は可愛い女の子だし」
「「「お前、それ翠玉の前で言ったら殺されるぞ」」」
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