忍術学園唯一の女忍たま
一年生たちが入学して一週間たった。
授業を終えた一年い組の平滝夜叉丸は戦輪の輪子と遊ぶため教室から出ようとした足を止めた。同じい組の生徒で忍術学園唯一の女忍たまである翠玉のことが気になったからだ。家の事情で産まれた時から男として育てられ、くノ一教室ではなく忍たま教室に入った少女。ずっと気になっていて声を何度も声をかけようとしたが、毎度機を逃してしまっていた。しかし、いまは机の上で忍たまの友を読んでいる。
(よし!翠玉に話しかけるチャンスだ!何をしても完ぺきなこの平滝夜叉丸が話しかければ、あの全く人と関わろうとしない翠玉も笑ってくれるだろう)
さっそく翠玉に話しかけようと近づいた。
「滝夜叉丸~、翠玉に話しかけようとしてるの?」
話しかけようと翠玉の肩に手をかけようとしたら同じい組である綾部喜八郎が割り込んできた。すぐ後ろだったから気づいた翠玉が振り向き、滝夜叉丸と喜八郎がいることに気づくと急いで教室から出て行った。
「…………」
「あ~あ、行っちゃった」
「喜八郎、お前わざとだろ」
一年ろ組の教室。火器に興味津々の田村三木エ門はカノン砲のユリ子と戯れにいこうと教室から出ようとした。
「ん?」
教室から出てすぐに一年い組の翠玉とすれ違った。彼女と目が合うと翠玉は会釈してそのまま通り過ぎていった。
「愛想がないなぁ……ん?滝夜叉丸と喜八郎、何をしているんだ?」
「三木エ門こそ何をしているんだ?」
「私はユリ子と戯れにいこうとして翠玉とすれ違ったんだ」
滝夜叉丸は不思議そうに思った。
「私たちがここに入学してから一週間経つ。私は翠玉が一年は組で双子の兄瑠璃丸以外会話しているところは見たことがない。友達作りはうまくいっているのだろうか?」
「お前だって友達あまりいないだろう」
「そうそう~」
「お前らも人の事いえないだろ!」
「おまえら!静かにせんかぁぁぁぁ!」
廊下で大きな声を出しまくって先生から叱られてしまい、三人は中庭に移ることにした。
説教を食らっている間に翠玉を見失ってしまった。
「で、どうやって翠玉と友達になるの?」
「やっぱり、さりげなく話すというのはどうかな?」
「どうやってだ?」
滝夜叉丸が聞くと喜八郎が答えた。
「わざとぶつかって、それで世間話に向かっていくのはどう?」
「余計に警戒されないか?翠玉結構賢いからわざとだってばれるだろ」
沈黙が続いた。
何かが空気を切り裂くような音が聞こえた。三人が音がする方へ行くと弓に矢をつがえた翠玉がいた。彼女の目線の先に、用具委員会から借りたのだろう木の的があった。木の的の真ん中には矢が何本も刺さっていた。
長い時間、ここで弓の練習をしていたのだろう。幼く、細い腕が震えている。
「痛っ」
痛みが走ったらしく、腕を抑え座り込んだ。
滝夜叉丸たちは見ていることができず翡翠のもとへ向かった。
「翠玉、大丈夫か?」
「腕を痛めたの?」
「医務室へ行って新野先生に診てもらおうよ」
「ひっ……?」
いきなり出てきたから驚いたのだろう。身体を痛めているときにやって来たから怯えているのだろう。
滝夜叉丸はそれを感づき、優しい顔で言い、手を差し伸べた。
「大丈夫だ。私たちは何もしない」
しばらく警戒していたが、害意を感じないことがわかると差し出された手をつかみ、立ち上がった。
「あ…あの」
「ん?」
言葉につっかえているようだった。兄以外の人間と話しなれていないのだろうか。必死にしゃべろうとだった。
「さっきは、ごめんなさい。避けたりして」
「あまり気にしてないよ翠玉。でもなんで僕たちのことを怖がるの?」
翠玉は躊躇うかのように、しばらく黙っていた。が、決心したように口を開き始めた。
「私は本来、産まれてすぐに父に殺される運命でした。私の一族は所の双子が生まれると、双子の女児の方は生まれて間もなく殺されるのです」
一族の掟のこと。生きるために男として育てられたこと。一族の者たちに女だと悟られないために接触をなるべく避けてきたこと。女だということがばれそうになって、いじめを受けてきたこと。女である以上ずっと村にいるわけにも行かず、ひとりで生きていけるすべを身につける為に、忍術学園に入学したこと。すべてを話した。
話し終えて、翠玉の口が閉じると、沈黙が長く続いた。家の事情で男として育てられたとは聞いていたが、あまりにも酷かった。
「翠玉」
その沈黙を破ったのは、喜八郎だった。
「ここは、忍術学園は君の故郷とは違う。みんな優しい人たちばかりだよ。怖くなんかない。僕たちは翠玉と仲良くなりたいんだ」
「私も翠玉と仲良くなりたい」
「私も」
滝夜叉丸と三木エ門も喜八郎に続くように言った。
それを聞いてしばらく翠玉は黙っていたが、口を開いた。
「ずっと……怖かった。ここでも里の人たちのような、怖い人たちがいるのかと、思って……ずっと……怖かった」
ずっと、たまっていた感情が、堰を切ったように、涙が流れ始めた。
もう怖がらなくてもいい。怯えなくてもいいのだと。
三人は翠玉を囲んで抱きしめ、翠玉が泣き止み落ち着くまでそうしてくれた。
次の日。
忍たま長屋にて。
「翠玉~早く裏山に行こうよ~」
「喜八郎!何抜け駆けしようとしている!翠玉と、私のこの美しさを語り合うのはこの私だ!」
「お前も人の事言えないだろ滝夜叉丸!翠玉は私と、ユリ子たちの可愛さについて語り合うんだ!」
「お、お前ら、いつ翠玉と仲良くなったんだ?」
「「お前に言ってない、瑠璃丸!」」
「え?ひどくない?」
兄と三人の友達のやり取りを見ながら、翠玉は笑みをこぼした 。
授業を終えた一年い組の平滝夜叉丸は戦輪の輪子と遊ぶため教室から出ようとした足を止めた。同じい組の生徒で忍術学園唯一の女忍たまである翠玉のことが気になったからだ。家の事情で産まれた時から男として育てられ、くノ一教室ではなく忍たま教室に入った少女。ずっと気になっていて声を何度も声をかけようとしたが、毎度機を逃してしまっていた。しかし、いまは机の上で忍たまの友を読んでいる。
(よし!翠玉に話しかけるチャンスだ!何をしても完ぺきなこの平滝夜叉丸が話しかければ、あの全く人と関わろうとしない翠玉も笑ってくれるだろう)
さっそく翠玉に話しかけようと近づいた。
「滝夜叉丸~、翠玉に話しかけようとしてるの?」
話しかけようと翠玉の肩に手をかけようとしたら同じい組である綾部喜八郎が割り込んできた。すぐ後ろだったから気づいた翠玉が振り向き、滝夜叉丸と喜八郎がいることに気づくと急いで教室から出て行った。
「…………」
「あ~あ、行っちゃった」
「喜八郎、お前わざとだろ」
一年ろ組の教室。火器に興味津々の田村三木エ門はカノン砲のユリ子と戯れにいこうと教室から出ようとした。
「ん?」
教室から出てすぐに一年い組の翠玉とすれ違った。彼女と目が合うと翠玉は会釈してそのまま通り過ぎていった。
「愛想がないなぁ……ん?滝夜叉丸と喜八郎、何をしているんだ?」
「三木エ門こそ何をしているんだ?」
「私はユリ子と戯れにいこうとして翠玉とすれ違ったんだ」
滝夜叉丸は不思議そうに思った。
「私たちがここに入学してから一週間経つ。私は翠玉が一年は組で双子の兄瑠璃丸以外会話しているところは見たことがない。友達作りはうまくいっているのだろうか?」
「お前だって友達あまりいないだろう」
「そうそう~」
「お前らも人の事いえないだろ!」
「おまえら!静かにせんかぁぁぁぁ!」
廊下で大きな声を出しまくって先生から叱られてしまい、三人は中庭に移ることにした。
説教を食らっている間に翠玉を見失ってしまった。
「で、どうやって翠玉と友達になるの?」
「やっぱり、さりげなく話すというのはどうかな?」
「どうやってだ?」
滝夜叉丸が聞くと喜八郎が答えた。
「わざとぶつかって、それで世間話に向かっていくのはどう?」
「余計に警戒されないか?翠玉結構賢いからわざとだってばれるだろ」
沈黙が続いた。
何かが空気を切り裂くような音が聞こえた。三人が音がする方へ行くと弓に矢をつがえた翠玉がいた。彼女の目線の先に、用具委員会から借りたのだろう木の的があった。木の的の真ん中には矢が何本も刺さっていた。
長い時間、ここで弓の練習をしていたのだろう。幼く、細い腕が震えている。
「痛っ」
痛みが走ったらしく、腕を抑え座り込んだ。
滝夜叉丸たちは見ていることができず翡翠のもとへ向かった。
「翠玉、大丈夫か?」
「腕を痛めたの?」
「医務室へ行って新野先生に診てもらおうよ」
「ひっ……?」
いきなり出てきたから驚いたのだろう。身体を痛めているときにやって来たから怯えているのだろう。
滝夜叉丸はそれを感づき、優しい顔で言い、手を差し伸べた。
「大丈夫だ。私たちは何もしない」
しばらく警戒していたが、害意を感じないことがわかると差し出された手をつかみ、立ち上がった。
「あ…あの」
「ん?」
言葉につっかえているようだった。兄以外の人間と話しなれていないのだろうか。必死にしゃべろうとだった。
「さっきは、ごめんなさい。避けたりして」
「あまり気にしてないよ翠玉。でもなんで僕たちのことを怖がるの?」
翠玉は躊躇うかのように、しばらく黙っていた。が、決心したように口を開き始めた。
「私は本来、産まれてすぐに父に殺される運命でした。私の一族は所の双子が生まれると、双子の女児の方は生まれて間もなく殺されるのです」
一族の掟のこと。生きるために男として育てられたこと。一族の者たちに女だと悟られないために接触をなるべく避けてきたこと。女だということがばれそうになって、いじめを受けてきたこと。女である以上ずっと村にいるわけにも行かず、ひとりで生きていけるすべを身につける為に、忍術学園に入学したこと。すべてを話した。
話し終えて、翠玉の口が閉じると、沈黙が長く続いた。家の事情で男として育てられたとは聞いていたが、あまりにも酷かった。
「翠玉」
その沈黙を破ったのは、喜八郎だった。
「ここは、忍術学園は君の故郷とは違う。みんな優しい人たちばかりだよ。怖くなんかない。僕たちは翠玉と仲良くなりたいんだ」
「私も翠玉と仲良くなりたい」
「私も」
滝夜叉丸と三木エ門も喜八郎に続くように言った。
それを聞いてしばらく翠玉は黙っていたが、口を開いた。
「ずっと……怖かった。ここでも里の人たちのような、怖い人たちがいるのかと、思って……ずっと……怖かった」
ずっと、たまっていた感情が、堰を切ったように、涙が流れ始めた。
もう怖がらなくてもいい。怯えなくてもいいのだと。
三人は翠玉を囲んで抱きしめ、翠玉が泣き止み落ち着くまでそうしてくれた。
次の日。
忍たま長屋にて。
「翠玉~早く裏山に行こうよ~」
「喜八郎!何抜け駆けしようとしている!翠玉と、私のこの美しさを語り合うのはこの私だ!」
「お前も人の事言えないだろ滝夜叉丸!翠玉は私と、ユリ子たちの可愛さについて語り合うんだ!」
「お、お前ら、いつ翠玉と仲良くなったんだ?」
「「お前に言ってない、瑠璃丸!」」
「え?ひどくない?」
兄と三人の友達のやり取りを見ながら、翠玉は笑みをこぼした 。
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