赤い糸40,075km
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「お邪魔しまーす…」
「研磨ァー!来たぞー!」
クロの声がして、ヘッドフォンを外す。クロひとりなら出迎えなんてしないけど、今日はそうじゃない。部屋を出て寒い廊下を歩いていけば、よく知った幼馴染の姿と、その隣には女の人が立っている。目が合って思わず「うわ」って声を漏らすと、その人はちょっと首を傾げた。かつて俺達のマネージャーだった人は、サッパリしたショートヘアで、身長は俺と同じくらいで、とにかくバレーバカで、正直そんなに女のコって思ってなかった。
「…なんか、女の人になったんだね」
「研磨もすっかりカッコよくなったね。久しぶり」
透香は俺のちょっと失礼にも当たるような発言は気に留めず、にこりと微笑んだ。その表情は確かに知ってる人のものと同じだ。その隣に居るクロはちょっと拗ねたみたいな微妙な顔をしてて、もしかして透香が俺にカッコいいって言ったから妬いてるのかもってすぐに合点がいく。めんどくさ。学生でもないんだしこんなの社交辞令でしょ。玄関は寒いからさっさと部屋に招き入れると、透香は手土産だって言ってアップルパイを渡してくれる。ちょうどおやつ時だし、クロに渡してすぐ用意してもらうことにした。
「透香は炬燵入ってていいよ」
「そんな」
「いーよ、お前は客人なんだから」
俺もすぐ炬燵に入っちゃいたいけど、クロの後に付いてキッチンに向かう。透香が持ってきてくれたアップルパイは、俺の好きな専門店のものだ。クロに一緒に買いに行ったのか聞くと、「…いや、教えただけ…」って弱々しく言う。何やってんの。今は午後3時半。俺は午前中は大抵寝てるからこの時間にしてもらった。2人でお昼ご飯でも食べてくるものだと思ってたのに、普通にここの最寄り駅集合にしたらしい。馬鹿じゃないの。それを本人も自覚済みって顔してるから、ほんと救いようがない。アップルパイを切り分けるクロを残して居間に向かおうとすると、ひぃ、って小さな悲鳴が聞こえる。クロと目を合わせたら、手が離せないから行ってやってって言われて素直に居間に向かう。キッチン寒いし。
「なに、どうしたの」
炬燵の前で立ったままの透香はなんでもないって取り繕うけど、明らかに何かに怯えて緊張している様子だ。虫でも出たかな。でも今冬だし、虫苦手ってタイプでもなかったはずだし…。考えながら部屋を見渡してみると、その原因がすぐ分かった。俺がさっきまでやってたゲーム。一時中断しただけでその画面はモニターに映し出されたままだった。そこには無数のゾンビが居て、こちらに向けてわらわらと襲いかかろうとしている。モニターの電源を落としてあげると、透香はほっと胸を撫で下ろし、照れ臭そうにお礼を言った。
「そういえばホラー苦手だったね」
「バレてたの…?」
確か、透香とクロが3年で俺が2年の時の夏。
学校の視聴覚室でホラー映画を観た事があった。
元々は透香が撮影してくれた試合の映像を観てミーティングしてたけど、それが終わったら誰かが映画のDVDがいくつかあるのを見付けて、涼しい部屋から出たくないって気持ちもあってみんなで観ようって流れになった。それで選ばれたのはホラー映画。あれもゾンビ系だった気がする。芝山とか犬岡はヒィヒィ言いながらも楽しんでたけど、隅っこで一人、透香だけは悲鳴すらも上げずにぎゅっと身を縮めて固まってた。真夏の真昼間で外は明るかったけど、視聴覚室には当然、光を遮るためのカーテンがある。多少隙間から明かりは漏れても、薄暗い部屋に、効きすぎた冷房。ホラー映画を観るための雰囲気は悪くなかった。痩せ我慢してるなってすぐ分かったけど、別に俺は何もしない。どうせクロがどうにかするし、その機会を奪ったら拗ねそうだし。クロも勿論透香が固まってることに気付いてて、どうしようって考えながらチラチラ様子を窺ってる。…なんか、あんまりこういうのは見たくない。焦れったいし、気持ち悪い。さっさと行けばって促すと、やっと立ち上がって透香の隣まで移動していく。そこから俺は映画に集中できて、山場を超えたあたりで一回だけ二人の様子を見てみた。いつの間にか透香は机に突っ伏していて、クロのジャージを頭から被せられていた。クロがすっごい変な顔してるから、それだけじゃない気がして注意深く見てみると、ジャージの下から伸びた透香の両手が、机の上に置かれたクロの腕をぎゅっと掴んでた。ああ、なるほど……良かったね。
その日、クロは冷房に負けてお腹を壊した。
──────
「なに、ダイジョブ?」
「なんでもな…」
「ホラゲつけっぱにしてた」
「研磨ぁ…」
俺達が炬燵で暖を取りながらそんなこともあったねって話してると、温めたアップルパイを持ったクロもリビングにやってくる。怖がってたことを隠そうとする透香を無視して簡潔に事実を伝えると、クロは数秒瞬きをして考えてから、意味を理解できたみたいだった。そしてきっとあの時のことを思い出して頭を搔く。…ほらやっぱり。クロがもう一往復して3人分のアップルパイが揃う前に、フォークでそれを口に運ぶ。ここのアップルパイは、しゃくって食感が残ったりんごと、トロトロのりんご両方入ってて、カスタードも甘すぎないし、シナモンの香りもちょうどいい。パイ生地もサクサク。やっぱりこれ好き。透香はクロが揃うまでそわそわ待ってからやっと口をつけた。自分で買ってきたんだからすぐ食べればいいのに。ひとくち食べると、透香は強い衝撃を受けたみたいな顔して味の感想をつらつら喋りだす。その勢いにちょっと気圧されるけど、一番の好物を絶賛されるとなんだか気分が良くなって、2人で固く握手した。
「素敵なものを教えてくれてありがとう…!」
「うん。買ってきてくれてありがとう」
クロは「大袈裟な…」ってちょっと引いたみたいな態度をとるけど、これも拗ねてるだけ。飲み物も用意してって言えば、ぶつくさ言いながらまたキッチンと居間を往復する。今日は透香が居るから、いつもより素直に動いてくれる。便利で有り難い。透香はアップルパイに舌鼓を打ちながら、この家に興味津々だ。後で好きなだけ見て回っていいよって言ってあげると、ちょっと照れたように笑う。パッと見だと結構雰囲気変わったなって思ったけど、中身はそんなに変わってなさそう。
俺は透香のこと、特別好きでも嫌いでも無かった。思慮深くていい人だけど、意外と熱血で全力投球なとこはちょっと疲れるなって思ってた。でもそれを人には強要しないし、見てる分にはたまに面白かったから全然いいんだけど。つまり俺にはちょっとチカチカしすぎてた。というか、そもそも本人の印象より『クロの好きなコ』って印象の方が圧倒的に強かった。クロが透香のこと好きって自覚したのは、透香がマネージャーになって結構経ってからだったと思うけど、俺からしたら、体育館に連れて来たその日から、もうそうとしか思えなかった。透香がどう思ってるのかは結局最後までハッキリとは分からなかったけど、多分好きなんじゃないかなとは思ってた。でもあまりにも部活に全てを賭けてたから、今は恋愛とかするタイミングじゃなさそうってことだけは明白だった。だから、いちいち砕けてジタバタしてるクロにも「今じゃない」って助言した気がする。でもあんなことになるなら、さっさと告白しろって言った方が良かったのかも知れない。
クロが高校を卒業してから数ヶ月後。大学の近くで一人暮しを始めたクロとは会う頻度はかなり減ったけど、それでもこっちに戻って来る度に俺の部屋にやって来た。部活がどうのとか、後輩がどうのとか、大学バレーがどうこうとか、色々喋るくせに透香の名前は一度も出なかった。卒業式の日は透香が先に帰っちゃったことを聞いて肩を落としてたけど、これから本気でいくとか言ってたのに。もしかして結局ヘタレが発動してるのかなと思って、「そういえば透香とはどうなったの」って聞いてみた。そしたら
「………なんも。」
「メール送れなくなって、それっきり」
あんなにも抑揚のない声は初めて聞いた。ぞわっと鳥肌が立ったのを今も覚えてる。クロは自分の負の感情の整理があんまり上手くない。悔しいとか悲しいとか寂しいとか、そういうのは全部飲み込んで、無かったことにしようとする癖がある。試合で負けて悔しいとかは素直に表現するようになったけど、基本は小さい頃から変わらない。家庭環境によるものなのかカッコつけの性格ゆえなのか、多分両方だけど、人に弱みを見せたがらない。きっとこの時のクロは、自己防衛の最後の砦、そのギリギリのところに立ってたんじゃないかと思う。傷付いたってレベルじゃなくて、もう生きるので精一杯って感じ。例えばクロからバレーを取り上げたら、もぬけの殻になりそうってことはすぐ想像できる。それと同じように、透香が居なくなって無くなっちゃったんだ、クロの一部が。誰かに聞けばひとりぐらい連絡先知ってるんじゃないのって思ったけど、言えなかった。「そっか」って返すのがやっとで、なんか俺まで苦しくなった。
次にクロが透香の名前を出したのは、今から1ヶ月くらい前。珍しく上の空だったから何かあったのって聞いてみたら、「…久世に、会った」ってちっちゃい声で言う。透香の名前を出さなかった10年間、クロは何度か彼女が出来たりフラれたりしてたけど、俺は興味なくてろくに話を聞かなかった。クロは見た目の割に嘘がつけないタイプだから、どの人とも遊びではなかったんだと思う。でも、自分の欠損している部分を別のもので補って、その空洞を相手に差し出して、元々何も失ってません、みたいに振舞ってるのが、痛々しくて聞きたくなかった。クロは一度好きになったものを諦められない。だから早く透香が出て来てくれないかなってずっと思ってて、やっと再会できたくせに、クロはそれは良いことなのかどうかすら判断できてないって顔をする。俺が「良かったね」って言ってあげると、「……うん、良かった」って言って、やっと少し目を細めた。
──────
「また空ぶった……!」
「勢い良すぎなのよ」
食べ終わったら、約束通り透香に好きなだけ家を見て回らせて、プロジェクターにびっくりしてたから、そこで何個かゲームした。イメージ通りゲームは全然やらないみたいで、とりあえずバレーできるやつを教えてみた。実際に身体を動かさなきゃいけないやつだから、俺は見てるだけ。透香とクロがそれぞれCPと組んで対戦すると、まぁやっぱりクロが連勝する。透香が弱いというよりは、本当にゲームに慣れてないって感じ。さすがにコツを教えてあげなきゃ話にならなそうだから、俺も参戦して透香とペアを組む。コントローラの向け方とか、ボタンを押すタイミングとか、一個ずつ教えれば一個ずつできるようになる。ちょっと教えたらまた高みの見物をするつもりだったのに、バレーバカに挟まれてそのまま一緒に続けてしまう。ゲームの中だけど、トス上げるの久々。俺がPERFECTのタイミングで上げたトスを、透香が「そあっ!」って声を出しながら打つ。NICEって表示されたスパイクをクロが拾えず、試合終了。透香とハイタッチして、クロには勝ち越せたから終わりにした。もう動きたくない。
その後は、そんなに上手い下手が関係ないパーティーゲームをした。関係ないと思ったのに、何故か透香はどんどん負けていく。完全に運に見放されてて、もうアドバイスでどうこうなる感じじゃない。俺もクロもどのくらい気を使おうって悩んだけど、本人が真剣勝負でって言うから本気でやったらとんでもない結果になった。ゲームって時に友情を壊すよね。畳に横たわって灰になってる透香を励ますつもりで「存在すら知らなかったアンラッキーイベント2つも見せてくれてありがとう」って言ったら、「追い討ちやめろ?!」ってクロが喚く。でも本人は「良ござんした…」って起き上がって、楽しかったって笑う。それを見たクロも嬉しそうに目を細めた。…まぁ、たまにはこうやってゆるくゲームするのも悪くないかも。
「晩飯は鍋にすんだっけ?」
「うん。俺と透香は炬燵入ってるから、できたら呼んで」
「当たり前のように俺が作んのね」
「今度こそ働くよ?!」
「あーいい、いい、この家のキッチンまじで底冷えやべーから。あったかくしてな。研磨、みかんでも出してやって」
「そんな」
3人で居間に戻って、クロにはすぐキッチンに行ってもらう。透香は申し訳なさそうに見送るけど、器に盛られたみかんを見せたらすぐ釘付けになって、ごくって生唾を飲んだ。…こんなに食い意地張ってる人だったんだ。このみかんは視聴者から送られてきた物で、毎年箱で届くから有り難いけどちょっと消費に困る。クロとか福永が来た時には何個か持って帰ってもらってるから、透香にもそうしてって話すと目を輝かせて喜ぶ。美味しそうに食べる人だなってことは知ってたけど、こんなに食べ物全般が大好きとは知らなかった。クロはこういうとこ好きそう。俺は座椅子があるいつもの位置で炬燵に入り、透香もその斜め向かいに座った。この後ご飯だけど、俺も1個みかんを手に取って皮を剥く。白い筋をちまちま取るのは面倒くさいけど、取った方が絶対に美味しい。透香が気を使って「剥こうか?」なんて言ってくれるけど、さすがにこんなことで甘えれるような関係じゃないから断った。キッチンの方からはトントン…と食材を切る音が聞こえてくる。音がする度に、透香は手伝わなくていいのかなって顔で扉の方に視線をやるけど、みかんを食べるのはやめない。俺達はバレー部っていう接点しかなかったから、そんなに話題は思い浮かばない。「クロのこと好きだった?」とか「今も好き?」とか、さっさと聞いちゃいたい気持ちもあるけど、もしそれで何か壊しちゃったら本末転倒だし、別に俺はそんなに知りたい訳でもない。2人でゆっくりみかんを食べながら、元チームメイトのこととかをポツポツと喋った。
「子供達ィー!できたわよー!運ぶの手伝いなさーい!」
透香が最近の虎の活躍を語っていると、キッチンから声が掛かる。さすがに立ち上がって、ソワソワしてる透香と一緒にキッチンへ向かう。カセットコンロ、ガスボンベ、お椀、お箸、お玉、ポン酢とゴマだれ、ご飯が盛られたお茶碗……。最後にクロが土鍋を持って来て、コンロの火をつける。蓋を開けると、ぼわわっと白い湯気が溢れた。
「っわぁ!すごい…!すごい…!これ黒尾が作ったの?!すごいね!お店みたい!」
「いや、切って入れただけだけど…」
「あ、クロお茶」
「はいはい持ってくりゃいいんだろ!」
クロが3人分のコップとお茶を持って来て、揃っていただきますをする。つくねと豆腐、あと透明な麺ばっかり食べてたらクロが「野菜も食え」って色々勝手にお椀に置いてきてげんなりする。透香がバランスよく食べてるのを指差して、「お姉ちゃんを見習いなさい」とか言うからもっと冷める。好きな人とひとつの鍋つつけるのが擽ったいからって、変な家族設定つけるのやめなよ。俺は優しいから口では言わないけど、目線で訴えるとぐうの音も出ないって顔する。透香はそんなことお構いなしであれもこれも美味しい、天才って言って食べてるから、余計にクロは照れくさいんだと思う。お腹も少しずつ膨れてきて、どう考えても雰囲気がほっこりしたことを確認して、今日の本題をやっと口にする。クロは絶対聞けないから、今日はこれを聞くために透香を呼んだ。
「…ねぇ、透香」
「うん?」
「高校卒業した後さ、なんでメール送れなくなったの?クロ、気にしてたよ」
透香は驚いてクロの顔を見るけど、そのクロもまた驚いた顔で俺の方を見てる。
「…それ、話したっけ…?」
「はぁ?覚えてすらないの?」
クロは本気でびっくりしてて、それがむしろあの時の痛々しさを際立たせていて嫌になる。透香は、気にしてたのか、覚えてないくらいなら気にしてなかったのか、って俺とクロを交互に見て考えてる。その表情は戸惑ってこそいるけど、別に暴かれたくないことを暴かれたって感じじゃないから、やっぱり思ってた通り事故なんだろうな。「えっと…」って控えめに切り出して、予想通りの説明がされる。データ移行のトラブル。当時は部活のLINEグループとかも無かったし、確かに呆気なく繋がりが絶たれちゃうようなシステではあった。クロも「まぁそんなこったろうと思ったよ」なんて強がってるけど、半分本当で、半分は嘘。
「ご、ごめん、連絡くれてたんだ?」
「いや、まぁ、大した内容じゃなかっ…た気がするし、お前も災難だったな」
信実が分かったからってトラウマがなくなる訳じゃないけど、もしかしてって罪悪のパターンをぐるぐる想像するよりはずっとマシなはず。冷や汗かいてヘラヘラ笑うクロは痛々しい。でも俺にできることはせいぜいこの程度。後は自分で頑張って。せっかくまた会えたんだから。
─────
その後俺も透香のLINEを聞いて、一応アカウント持ってるSNSも全部繋がっておいた。もちろん流れでクロも。元チームメイトのアカウントも教えたし、元バレー部のLINEグループにも追加した。なんでまだ追加してなかったのって目線をクロに向けると、また情けない顔で目を逸らされる。ほんっとにどうしようもない。まさかまだ引き返せるとでも思ってるの?絶対無理だよ。今日半日見てただけでも、高校生の時と同じ目してるのバレバレ。だから今度こそ、念には念を。そう簡単に逃げられないようにしておかなきゃ。
クロにはお皿洗いまでやってもらって、それが済んだら2人を玄関まで見送る。駅まで結構歩くからタクシー呼んだらって提案したけど、2人とも倹約家みたいで却下されたから、透香にだけカイロをあげた。クロも寒いのそんなに得意じゃないけど、今日はもう俺すごい貢献してあげたし、あげなくていいと思う。そしたら透香が交代で暖を取ろうって言って、クロはこれも計算済で…?って顔をこっちに向けてくる。違うから。でもイチャつく口実にできるんだったらやってみれば。
「お邪魔しました。なんだかいっぱいおもてなししてもらっちゃって、ありがとね」
「おもてなししたのほぼ俺だけどね」
「またいつでもおいで。クロも呼べばすぐ来るから」
「絶対に俺をパシリにするという強い意志」
クロがぶつくさ文句を言いながら玄関を開けると、冷たい風が足元を流れていく。3人揃ってそれに震えつつ、もう一度またねって言って手を振り合う。そして玄関が閉まって、俺はそそくさと炬燵に帰還する。日課のスマホゲームを適当にポチポチしつつ、今日の2人の様子を振り返る。透香は結局、クロをどう思ってるのか決定的な尻尾を出さなかった。あんな綺麗なお姉さんって感じになっておいて、高校生の時と変わらず恋愛の雰囲気はなかった。だからもしかしたら、高校生の時も部活に専念してるからって理由じゃなく、透香本人に根深い問題があったのかも知れない。まぁでもどうせクロは諦めらんないんだし、頑張るしかないよね。一筋縄じゃ攻略できなそうだから、ちょっとくらいならまた手伝ってあげよう。友達だし。
配信の準備をしようとモニターを点けると、放置していたゾンビ達が映し出された。まだちょっと時間あるし、キリのいいとこまで進めちゃおう。ゲーミングチェアにしっかりと腰掛け、ゲームに没入すべく、ヘッドフォンを装着した。