ノボリ×メイ

「ねえノボリさん、メイって胸おっきいわよね」
「な!? なんの話ですか唐突に!?」

揺れる帰りのトレイン内。
挑戦者のトウコ様が、つかの間の世間話をしてくれたわけですが、な、なぜか男の私が聞いてしまって良いものか困る話題を持ち出してきました。

「ノボリさんもそう思うでしょ? どうしたらあんなに育つのかしら」
「わ…私に聞かれましても困りますし、そう思っているなどと決めつけないでいただきたいのですが」
「え? 思ってないの?」
「………………思っておりません!」
「何その意味深な間は! アヤシイ! ノボリさんってば紳士ぶってるけど、実はムッツリって噂は本当だったのね。クラウドさんが言ってたもの♪」

妙な疑惑を言いふらされては困りますクラウドッ!
(ちなみにクダリは私のプライベートな噂話をすことは致しません。そこはお互い信頼しております。)
私は別に決して、普通だと思っております!
…しかし、他者からの評価ではそう見られているらしく。私はム、ムッツリなのでしょうか……?

「わたしなんて2年経ってもこんななのに。はぁーあ」
「は、はぁ……それはそれは……」
「胸のサイズは成長期に決まるものかしらね。ベルだってそうだったし。メイも2年後にはもっとおっきくなってるのかも……はぁー……」

困っている私を余所に、トウコ様は構わず話し続けております。
下手に相槌を打つとセクハラになってしまいかねません。一体どうしたら……。

「胸揉んだら大きくなるって噂もあるし」
「……確かに、ございますね……」
「あっ! もしかしてメイも誰かに揉んでもらってるのかしら?」
「そんなまさか!!!! メイ様に限ってそのような事は!!!!」

聞き捨てならずに、つい、私は大声を出し、反射的に座席から立ち上がってしまいました。
メイ様が誰かとその様な行為を!? あり得ません!! 絶対にあるはずがない!! あっては困ります!!!!
はっ……! こほん。我に返り、咳払いをして座り直す。

トウコ様が一瞬、驚きに目を丸くした後、口角を三日月に笑わせ……なぜだか嫌な笑顔を作られました。

「え? なになに? 嫌なの? なんで?」
「そ、そのような勝手な憶測はいけませんよ! メイ様にも失礼です!」

ああ……頭が混乱しております……。このような些細な事で動揺してしまうなど……。

確かにメイ様は可愛らしく魅力的なお方です。きっとモテるに違いありません。
現にポケウッドでは少なからずファンがいるようですし、旅をしていれば出会いもあるでしょう。
いえしかし、メイ様に恋人がいたという話も、いるという話も、一切聞いたことがございません……!
それに何より私が!!!! 断じて認めたくはございません!!!!

「絶っっ対にありえません! メイ様のあの発育の良さは、生まれながらの自然任せのものに決まっております……!」
「怖い怖い怖い! 目がマジになってるわよ!? あと、さっきまで慎んでたくせに、セクハラ発言めっちゃしてるし!」
「全てトウコ様のせいなのですが!!??」
「ご、ごめんって! (いつも以上に声が大きいわよノボリさん…)」

そうこうしているうちに、終着点のアナウンスが流れ、地下鉄のホームに到着したのでした……。



―――…………



「ど、どうしたんですかノボリさん」

ノボリさんがさっきから、あたしの事をじぃっと見つめてくる。何か言いたそうにしては、口を閉じて、悩んでいるようなの。
聞き返しても、はっと思い直しては、言葉を濁すんです。一体なんなんですか?

「あの……メイ様には、その、恋人や、恋人でなくとも特別な関係をお持ちの異性はおられませんよね……?」
「へっ?」

突然、真面目な顔になったと思ったら、なんだかすごい質問が飛んできた。

「えと、いませんけど……そもそも彼氏いたことないですし……。どうしてそんな事聞くんですか?」
「そ、そうですか! いえ、別に深い意味はないのです! ただ伺ってみただけですので、お気になさらないでくださいまし!」
「…? そうですか…?」

よくわからないけど、この様子だと問題は解決したみたい?
安心しました!って言って、嬉しそうにしてるし、変な人……。
あ、でも、バトルサブウェイにいる皆さんって普段からちょっと変わり者だし、ノボリさんも元々こんな感じだったかも……?

と、あたしなりに納得しようと思ったけれど、やっぱり、今日のノボリさんは、なんだかおかしい気がする。
……気のせいじゃなければの話なんだけど……あたしの事、というかあたしの胸? 今日よく見られてる気がするような……?

「あ、あのノボリさん? なんか、さっきからあたしの方ばっかり見てません?」
「えっ! いえ、そ、そのような事はありませんがっ!?」

思い切って聞いてみると、慌てふためくノボリさん。
ほら、また。胸をチラ見しては、すぐに目を逸らす。さっきからの繰り返し。
なんだか許せないし、思い切って聞いてみた。

「……もしかして、胸ばっかり見てませんか?」
「そそそ、そのような事は! 決して!」

あ、嘘です。絶対嘘。
慌てて視線を外そうとするノボリさんは真っ赤になって、うろたえている。
彼のそんな反応が珍しくて、ちょっと面白い。あと少しかわいいと思ってしまった、悔しい。

「ノボリさんのえっち」
「ちっ、違います!! 誤解でございます!!」
「なにが誤解なんですか。バッチリしっかり見られてるの気付いてるんですからね!」
「う……その、………」

ノボリさんに詰め寄る。
ふふん。観念してください! 逃がしはしないんだから!

「もしかして、あたしの胸に興味あるんですか?」

意地悪な質問をしてみれば、ノボリさんの顔は、さらに耳まで赤くなっていく。
恥ずかしさに堪えきれなくなったのか、ついに白状しだした。
俯いて、小さな声で一言。
もごもごと口の中で呟いた。

「その、……はい……」

やった! 全面降伏させました! って、ええええ!?!?!?
ノボリさんがあたしの胸を……えっ、そういう意味で!? な、なんて言えばいいのっ!!?
と、とりあえず、余裕な素振りをしてみる……?

「ふ、ふーん……男の人って胸好きですもんね……」
「い、いえ、私は胸だからとかではなく……メイ様だから興味がある、と言いますか……」

は、はえぇぇぇ……!? そ、そんな風に言われるなんて思わなかった……!
ノボリさんは申し訳なさそうにしながらも、でも真面目な顔で真っ直ぐに、あたしの目を見つめてくる。
彼って普段紳士的で謙虚なように見えて、実は端々から大胆さが滲み出てて、妙なところで律儀なんですよね……。
だからって、こんな展開の時にまで、嘘付かずに律儀に伝えてくるなんて。もうっ、こんな恥ずかしいことは、誤魔化して隠し通してくださいよっ!
なんだかこっちまでドキドキしてきちゃいます!

「メイ様……申し訳ございません……」
「わわ、謝らないでください!」

しゅんと頭を下げるノボリさんを見て、つい許してしまった。
だって、その……たぶん、ノボリさんが悪いわけじゃないんだもの。きっと、どうにもできない男の人の本能で、真面目なノボリさんでさえ律せないほどのもので。
それに、ノボリさんになら別に見られても嫌じゃないし、むしろ……。
え、えっと、なに絆されちゃってるんだろう……。
なぜか自分の顔まで熱くなっていく。

「あの……メイ様……?」

ノボリさんは罪悪感に苛まれているようで、恐る恐る、あたしの様子を窺っている。
……なんだか変な雰囲気になっちゃったな……。

でも実のところ、楽しんでいるあたしがいる。
だって、普段は大人なノボリさんなのに、今のこのヘタレた姿はとても新鮮で、しかも、あたしが優位に立ててる!
……このまま黙っていたらもっと気まずくなっちゃいそうだし、仕方ないですよね。
ちょっとくらい意地悪しちゃう? ふふ、どんな反応するのかなぁ。
悪戯心が、ふつふつと湧き上がってきてしまいました。ノボリさんをもっと困らせてみよう!

「ノボリさん、手を貸してください」
「え? は、はい。こうでしょうか……?」
「えい!」

ぽふり。ノボリさんの右手をあたしの胸に置いてみた。

「!?!?!?!?!?!?!?!?」
「嬉しいですかノボリさん?」

声にならない悲鳴を上げる彼を前に、あたしは煽ってみる。ノボリさんは驚きすぎて、口をぱくぱくさせてて、顔が青ざめてきた、かと思えば茹でだこみたいに真っ赤になる。
普段は仏頂面の彼が、目まぐるしく表情を変えてるレアな姿。面白い!
触れた胸から慌てて離れようと、手を引っ込めようとしてくる。でも絶対に放してあげない!

「めめめメイ様!?!? は、放していただけないでしょうかっ!?!?」
「だめです! これは罰なんですから!」
「ば、罰……!?」

わざと胸を押し付けながら、ノボリさんの手を抑え続ける。
ふふ、ノボリさんの焦る顔……かわいい! もっと見ていたい!

「あああのっ、お戯れも程々にお願いいたします!!」

羞恥の限界を迎えてノボリさんが泣きそうな声で訴えてくるけど、全然やめてあげません! こんな愉快なチャンス逃せるわけないじゃないですか。
あたしはノボリさんの手を胸に押し付けたまま、むぎゅっと揉ませた。

慌てふためく彼の可笑しい様子が、かわいくて。大人の男性を、優位にからかえる事が楽しくて。
ノボリさんには悪いけど、もう少し虐めちゃおうかな。
そう思いながら「ふふん、どうですか~♪」なんて、調子に乗っていたら。

「……………………」
「あ、あれ? ノボリさん?」

ぱたり。
ノボリさんが気絶してしまった。

「ええぇぇぇノボリさん!? わあぁやりすぎちゃいました、ごめんなさい!! 大丈夫ですか!? 起きてくださいぃぃぃ!!」

その後、タイミング良く通りかかったクダリさんにヘルプして、冷却シートや氷を貰って、ノボリさんを介抱することになってしまった……。
膝枕で介抱していたんだけど、ようやく目を覚ましたノボリさんは、膝枕の状況を把握した瞬間、二度目の気絶をしちゃいました。
うぅ……ごめんなさい……。
でも、罰だと思えば、仕方ないですよね……?
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