サターン×ヒカリ

(サタヒカ前提のサターン&マーズの会話です)


オシャレなケーキ屋に男一人で並ぶのが、かなり気恥ずかしいものなのだと初めて知った。
店の洒落たロゴ入りの白い箱をテーブルに置き、サターンは精神的な疲労を感じてため息をつく。柄にもない。それは自分が一番よくわかっている。

「あら、サターンお帰り。どこへ行っていたのよ……ってソレは?」

ウィンと機械音が鳴りながら自動扉が開き、マーズがひょっこりと顔を出した。そしてテーブルに置かれているケーキの箱に興味を示した。
サターンは眉間に皺を寄せ、苦虫を噛み潰したような表情をした。どんな理由を説明したとしても、からかわれるに違いないと思ったからだ。

「別に」
「ふぅん。ねぇ、ひとつちょうだいよ」
「断る。勝手に開けるな」

無断で箱を開けようとしたマーズを阻み、サターンは箱を手元に引き寄せた。
落ち着き払っている性格の彼が、たかがケーキひとつを死守しようとする。行動が不可解でらしくない。
マーズは不満げな表情を浮かべて反抗しようとしたが……。
けれどその前に、ふと見遣った窓の外。ちょうどトバリビルの玄関前の景色がよく見えるそこに、赤いコートを着たニット帽がよく似合う少女が歩いてくる姿を捉えた。
マーズは窓の外とサターンの顔を交互に見たのち、にんまりと笑顔を作る。
察したサターンは一層眉間の皺を深め、面倒くさそうに視線を逸らした。

「へ~、わざわざケーキまで用意して待ってるなんてね~」
「違う! あいつが勝手に来てるだけだ。そのうえおやつが欲しいと騒いでうるさいんだぞ。迷惑極まりない」

苛立たしげに腕を組み、そっぽを向いたままサターンは言う。そう言うけれど、表情はあまり嫌そうには見えなかった。頬と耳が少しばかり赤い。
つまり、図星を突かれて不器用に取り繕った、照れ隠しというわけだ。

「……不愉快だ」
「そう? 傍から見てると愉快だけれど?」
「それが不愉快だと言っている」

本当に柄にもないことをすると疲れる。
サターンはまた深くため息をつくしかなかった。
2/2ページ
スキ