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琵琶女主




「菫野」

家に連れ込まれるなり髪に口付けられ、小夜香は少なからず動揺した。
デジヘッド狩りを楽しそうにこなした後の永至は大抵機嫌が良く、手が早いのも珍しくはない。
こういう時、彼の好みに当てはまる程度の容姿であって良かったとは思うものの、それより小夜香は、自分が先程うっすら汗をかいていたことが気になった。

「あ、あの、」

戯れのように髪や額に押し付けられる口付けを止めて欲しくないと思いながらも、小夜香はおずおずと永至の胸に軽く手を添え、ささやかな抵抗の意思を示す。

「シャワーを……」
「いい」

永至は小夜香の手を払い除けると、笑いながら肩を抱き寄せ、唇を重ねてきた。

まるで恋人みたいな真似事に、冷静さが保てなくなる自分を感じ、小夜香は怖くなる。
猟犬の真似事を忘れて、一人の女として、彼に恋をしてしまいそうで。

そんな小夜香の動揺を見抜いたかのように、永至は小さく嘲笑って、



「小夜香」



名前を呼ばれるたびに、

いつも正解が、

分からなくなる。

どうすれば彼の機嫌を損ねず、彼の役に立てる『犬』でいられるのか。
何時もそれしか、考えたくないのに。

「……琵琶坂、先輩……」

好きです、と、小夜香が小さく呟いた。

彼女が『普段の自分犬の姿』を忘れて見せる『少女かお』に、永至は緩やかに口元を歪めた。


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