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小池×峯沢

「ピアスホールを開けようと思う」
維弦が唐突に何か言い出すのは、もはや慣れっこだった。
智也は読んでいた雑誌を閉じて、「いいんじゃね?」とだけ答える。
理由を聞こうか少し迷ってから、止めた。
自分で何かを決める、ということに強いこだわりを持つ維弦のことだから、きっと何かしらの理由はあるのだろう。
だが、わざわざ聞かなくてもいい気がした。いちいち理由を聞き出すのは、何だか野暮なような気がしたのだ。
「自分で開けんのか?あ、俺がやってやろうか」
智也の申し出に、維弦は怪訝そうな顔をする。
「……? ……医者に処置してもらうつもりだったんだが、小池も出来るのか?」
医師免許なんてないだろうという維弦に、今度は智也が怪訝な顔をする。
「あ?そんなん安ピンでぶすーっとやればいいだけだろ?」
「あんぴん……?」
全く伝わっていない。
智也は苦笑混じりで、「安全ピンだよ」と答えた。
「ほら、仕事で使ったりするだろ」
「ああ……」
維弦は納得したような顔をした後、眉を顰めて見せた。
「……危ないんじゃないのか。素人が行うのは、感染症などの恐れがあると聞いた」
「お前そーいうことは調べてんのな……」
智也がスマホの使い方を教えてから、維弦は大概のことは自分で調べるようになった。以前から覚えたいと言っていた通販も習得したようで、先日の智也の誕生日には、サプライズのプレゼントなんてものが届けられたりもした。
きっと彼は、こうして徐々に独り立ちしていくのだろう。
いつか自分が必要じゃなくなる日も来るのだ、と、智也は何となく思っていた。
「……まあ、いいんじゃねえの。お前がそうしたいなら」
内心の寂しさを押し隠し、智也はぶっきらぼうにそう言った。
維弦は不思議そうな表情を浮かべるも、「ああ、そうする」と、いつもの調子で答えた。
「……それで、小池に頼みたいことがあるんだが」
「あん?」
再び雑誌を開こうとした智也は、維弦の申し出に改めて顔を上げる。
維弦は真面目な顔をして、
「ピアスホールを開けたら、一緒にピアスを買いに行って欲しい」
と、言い出した。
「よく分からないから、選ぶのを手伝ってくれないか……、……いや、」
ふと、維弦の表情が、柔らかく、照れ臭そうな色を浮かべる。
「あんたに選んで貰いたいんだ」
恋人だから、と呟く維弦に、思わず智也の口元が緩んだ。
「…………いいぜ」

お前が俺の手を離れても、忘れられなくなるような、

「とっておきのピアス、選んでやるよ」
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