主琵琶 (n)
家主のいなくなった部屋は静まり返っていた。
黙って押し掛けてやっても、文句を言ってくる相手はいない。
nは黙って部屋の中に踏み入った。
電気もつけずに、リビングの中心に置かれた、高級らしい革張りのソファに身を沈める。
部屋はひどく静かだった。静かだった。
誰も帰ってくる気配はない。
帰ってくるはずがないのだ。
この部屋に住んでいた男は死んだのだから。
どのくらい経ったのだろう。
ふと、何となく思い出したようにスマホを見る。
WIREの画面には、「何も聞かずに慰めてよ」と冗談混じりに送ってやった、メッセージの返答が残っていた。
「……はは、」
慰めて欲しいなんて思ってない。
何を、そんな、虫の良い。
俺のせいなのに。
俺が暴いたせいなのに。
俺が踏み込んだせいなのに。
(君には良心というものがないのかい?部長君)
そう笑われたことを思い出して、また一人笑いが零れた。
「……あんたよりは、あったみたいだぜ、センパイ……」
一人そう呟いて、nはWIREにメッセージを打ち込んでやる。
『なあ、あんた、幽霊って信じる?』
返事はなかった。
それだけだった。
ただそれだけだった。