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主鍵

午前零時、日付が変わる境目。
僕らはソファーの上で、唇を触れ合わせるだけのキスをした。
僕がねだった誕生日プレゼントを、鍵介はしっかりと覚えてくれていて、「じゃあこうしましょっか」と提案してくれたのだ。
健気で優しい恋人が、愛しくて愛しくて仕方ない。
こんな気持ちをずっと持ち続けられているのは、本当に凄いことだと思う。
どちらからともなく唇を離すと、鍵介が閉じていた目を開けて、嬉しそうに微笑んでくれた。
「……誕生日おめでとうございます、先輩」
「ありがとう、鍵介」
僕も笑い返すと、鍵介は照れ臭そうに擦り寄ってきた。
「全く……『誕生日プレゼントは鍵介が欲しい』っていうアレ、やめてくれません?地味に困るんですよ、毎年」
「ごめんって……」
でも、何だかんだ応えてくれる君が、可愛くて仕方ないわけで。
そういう気持ちを込めて鍵介のつむじにキスを落とすと、「そっちでいいんですか」と悪戯っぽく笑われた。
「いや……キスしたいのは山々なんだけど、寝かせてあげられなくなりそうで」
「先輩って本当にそういうとこ変わんないですよねえ」
鍵介はそう言いながら立ち上がった、と思うと、僕の膝の間にすとんと腰を下ろし直した。さり気なく甘えるのが上手くなっている。
「……まあ先輩の誕生日なんですし、先輩の好きにしたらいいんじゃないですか」
鍵介はこちらを振り向いて、ちょっと頬を赤らめながらそう言ってくれた。
……本当に、何年経っても、可愛い恋人だ。
離したくなくて、鍵介の身体に腕を回し、ぎゅっと抱き締める。
僕と同じシャンプーの匂いが香るうなじに、そわそわする気持ちはあるけれど。
そこはぐっと、堪えて。
「……あのさ鍵介」
「はい?」
鍵介はくすぐったそうに身を捩りつつ、僕の方を向こうとする。
「欲しいものが、あるんだけどね」
言葉を選びながら僕が言うと、
「え」
と、鍵介は困ったような声を上げる。
「プレゼント、もう買っちゃってるんですけど……」
「大丈夫、鍵介が持ってるものだから」
僕の言葉に、鍵介はまるで分かっていないかのように、きょとんとしてみせた。
僕は、小さく息を吸って、




































「君の人生が欲しいんだ」



































だから、結婚してください。



―――何とか、そう言い切って。

僕は、鍵介の表情を伺った。
鍵介は、何を言われたのか分からないといった表情で、暫く呆然として―――やがて、
「……どのくらい、ですか?」
「え?」
鍵介は、赤くなった顔で、僕を睨むようにしながら、もう一度言った。
「どのくらい、欲しいんですか」
「……一生。全部欲しい」
「我儘だなぁ」
そう言ってから、鍵介は泣き出しそうな顔で、僕に向き直る。
それから、ぎゅっと抱き締めてくれた。
「……そんなの、もう……今更欲しがらなくたって、いいんですよ」
もうとっくに、一生一緒にいる覚悟、出来てますから。
……なんて。
嬉しいことを、鍵介は僕に言ってくれた。
「……結婚してくれる?」
「……当たり前じゃないですか……」
鍵介は、そう言うと、僕の肩に顔を埋めて、本当に泣き出してしまった。
「……ありがとう」
そんな鍵介の髪を撫でながら、僕は繰り返す。
「ありがとう、鍵介。大好きだよ」
「……僕もです……」
ぎゅう、と、鍵介が、痛いくらいに僕を抱き締める。
「僕も、大好きです。貴方のことが、ずっと」
「…………」
胸の中で、愛しさが溢れかえるようだった。

誰よりも。
誰よりも愛しい彼に。
誰よりも愛されている僕は、幸せだ。

何だか、僕まで泣けてきてしまって、僕らはお互いに抱き締め合って、小さくすすり泣いた。

……君が泣き止んだら、用意していた指輪を渡して、また触れるだけのキスをしよう。
それから二人でベッドで眠って、起きたらバスに乗って、皆の待つシーパライソに行こう。

きっと彼らは、僕らが現れるのを、今か今かと待っている。
『帰宅部』がまた集まることを、みんなきっと、楽しみに待っている。

「……幸せ過ぎて、ちょっと怖い、です」
鍵介が泣きながらそんなことを言うものだから、僕は苦笑いしてしまった。
「大丈夫だよ、鍵介。君には僕がいるし、僕には君がいる」
だから例え、此処が楽園じゃなくたって。
例え此処が現実地獄だって、生きていける。

生きていける。二人なら。

「……そう、ですね」
鍵介は、泣きながら笑ってみせた。
「先輩、僕がいないと、全然駄目ですもんね」
「そうなんだ」
僕もそんな恋人に、微笑んでみせる。
「だから、……これからもよろしくお願いします、鍵介」
「……よろしくお願いします、先輩」
































僕らは、優しいキスをした。


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