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主鍵




金曜になると、俺も鍵介も互いにそわそわしてしまうのは、もう毎回のことだ。
早く「現実」に帰らなければと思う反面、恋人との時間は大切にしたいわけで。
1歩ずつ先に進んでいるご褒美、と言うことにしようと、自分には言い聞かせている。
今日は鈴奈ちゃんの家に泊まるというアリアを見送ったのち、俺は鍵介を伴って、自分の家に向かっていた。
今日も部活で張り切って大剣を振り回していたというのに、鍵介の足取りは軽く見える。
俺と過ごす夜を楽しみにしてくれていると言うのなら、嬉しいのだけど。
「先輩、夕ご飯どうします?」
鍵介に訊ねられて、俺は「んー」と、軽く首を傾げてみせる。
「何でかは分からないんだけど、カルボナーラの材料が揃ってるんだよなぁ、冷蔵庫に。俺、卵もベーコンも食べれないんだけど」
「わぁ、そりゃ不思議ですねえ。こないだカルボナーラ食べたいって言ったような気がしますよ、僕」
俺のとぼけた返事に、わざとらしく鍵介が乗ってくれる。
互いに顔を見合わせて、小さく笑い合ってから、「ねえ先輩」と、鍵介がこちらの顔を覗き込んでくる。
「僕、まだお腹すいてないんですよ」
俺はちょっと眉を上げてから、声を低く落として聞き返す。
「……先に鍵介を食べていいって?」
鍵介が途端に顔を赤くし、べしりと肩をはたいてきた。どうやら正解だったらしい。
遠回しな言葉と照れた表情が愛しくて、自然と頬が緩んだ。
「分かったよ、夕飯は後にしよう。先にシャワーだな」
「もう、それでいいですよ、早く帰りましょう」
足を早める鍵介を、俺は追い掛ける。
自宅はもう、すぐ目の前だった。
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