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主笙

「なぁ、俺が先に死んだらどうする」
一緒に寝ようと浅葱が持ち掛け、二人で入った布団の中で、笙悟がぽつりと問い掛けた。
浅葱は丸い目をぱちくりさせながら、笙悟の肩にくっついて擦り寄る。
「どしたの。急に」
「…………いや。悪い。忘れてくれ」
そう言って笙悟は寝返りを打ち、浅葱に背を向けてしまう。
浅葱はむくりと起き上がった。
「笙悟、違う。そっちじゃない」
「んぁ?」
「こっち向いて」
浅葱は笙悟の身体をべしべしと叩き、笙悟は仕方なさげに浅葱の方へ向き直る。
浅葱は笙悟に抱きつき直した。
「うん。これでよし」
「お前なぁ……まあ、いいけどよ」
笙悟は照れ臭いのか、浅葱の髪をくしゃくしゃと撫でてから、彼の身体を抱き締め返した。
「…………俺はねえ、笙悟」
浅葱は笙悟の胸元に、額を押し付ける。
心臓の音が、よく聞こえた。
「先のこととかよくわかんないな。起きてみないとわかんないし、起きたときにきっとわかる」
「………………」
「でも、そうだなぁ。強いて言うなら」
きっと自分は、泣くのだろう。
行かないでと。置いて行かないでと。
笙悟無しでは、生きられないから。
「…………きっと俺は泣く。それだけはわかる」
浅葱はそれだけ言った。
笙悟は目を細めて、おもむろに浅葱の額にキスをする。
「ん。なに?」
「いや………悪い。変なこと言ったな」
「別にいいけど」
笙悟が死について想うのは、これが初めてではなかった。
浅葱からしてみれば、一人で抱え込まれない方が安心する。
少し、嫉妬もするけれど。
「……浅葱。明日、暇か?」
「んえ?そーだな、午後から塾あるけど」
「……俺もバイト、午後からなんだ」
「ふーん?」
笙悟の唐突な話題に、浅葱は眠くなってきた頭を働かせる。
午前中はのんびりできると言いたいのだろうけど、急にどうしたのだろう。
何か行きたいところがあるわけではなさそうだし。何より笙悟は、それだけ言って黙ってしまった。
「………………あ」
浅葱は漸く気付く。
薄暗い部屋の中で、笙悟の顔が、やや赤い。
「……笙悟ちゃん、誘うんならもうちょい分かりやすくして……」
「うるせえ、言えるか」
そう言って、笙悟はまた浅葱に背を向けるようにして寝返りを打ってしまった。
しょうがない恋人だなぁと笑いながら、浅葱は身体を起こして、笙悟の耳に齧り付く。
なるべく優しくしてあげよう。彼が息をしやすいように。明日も生きていきやすいように。
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