主鍵
「響くんのこと、好きなんです」
ふんわりしたボブカットの、可愛らしい女の子だった。
「周りとは、違うっていうか。ちゃんとした自分を持ってる人だな、と、思ってて」
くりっとした目と小さな口がバランス良く整っていて、小動物のような愛らしさがあった。
「だから、その……お付き合い、して、貰えないかなって」
ほんのり染まった頬と、緊張で潤んだ瞳が、彼女の可愛らしさを引き立てていた。
「は、はぁ……」
すみません。
付き合ってる人がいるんです。
と、一言、言えば済む話なのに。
鍵介はその一言が出てこなくて、なぜだか口ごもってしまった。
*****
鍵介が見当たらない。
放課後は、大抵彼の方から紅朗の教室に顔を出してくれるか、そうでなくとも彼のクラスまで行けば会えるのだが。
部室に顔を出してみてもやっぱりいなくて、紅朗は何となく不安になった。
「いないね、鍵介」
アリアがきょろりと部室を見回す。
「先に部室に来たのかと思ったんだけど……」
「……そうだな」
不安を押し殺すようにして、紅朗は頷く。
「鍵介くんですか?」
と、美笛が首を傾げた。
「確か、さっき体育館裏の方に行くの見ましたけど…………」
「体育館裏?」
そんなところに、何かあっただろうか。
紅朗は少し考えて、
「……ちょっと探してくる」
と、部室から廊下に出ていく。
「あっ、待ってよYou!アタシも行くってば!」
アリアが慌てたように紅朗へと着いて言った。
「体育館裏って、なんかあったっけ?」
「何も無いと思う。んだけど」
紅朗はそう言いながら、足早に廊下を歩いて行く。
入り組んだ迷路みたいな校舎の内部構造が、酷く鬱陶しく感じられる。
何事も無いといい。
鍵介が無事ならそれで。
自分にそう言い聞かせながら、階段を駆け下りて、玄関から校舎の外に出ていく。
鍵介が向かったのは、体育館裏だったか。
まさか誰かに呼び出された、なんてことはないだろうと思いつつ、再び不安が蘇る。
彼を『カギP』だったと認識している人間が、多少なりともいることはわかっている。
だとすれば。
だとすればまさか。
紅朗が駆け出そうとした、その時だった。
「響くんのこと、好きなんです
耳に飛び込んできた言葉に、紅朗は思わず足を止める。
「周りとは、違うっていうか。ちゃんとした自分を持ってる人だな、と、思ってて」
少女の可愛らしい声だった。
紅朗は思わず真顔になりながら、歩を進める。
「だから、その……お付き合い、して、貰えないかなって」
体育館裏。
人気の無い場所。
制服を着た少女と、鍵介が、向かい合うように立っていた。
ふんわりしたボブカットの、可愛らしい女の子だった。
くりっとした目と小さな口がバランス良く整っていて、小動物のような愛らしさがあった。
ほんのり染まった頬と、緊張で潤んだ瞳が、彼女の可愛らしさを引き立てていた。
そんなことはどうだっていい。
こいつは一体、何を言ってるんだ?
「は、はぁ……」
鍵介が曖昧な返事だけをして、俯いたのが見えた。
と。
少女が紅朗の姿に気付き、「きゃっ」と小さく声を上げる。
「ご、ごめんなさい!お返事、いつでもいいです……!」
慌てたように駆け出す少女の姿にぽかんとしてから、鍵介がゆっくりと振り返る。
そして、ようやく紅朗の姿に気が付いた。
「え、あ」
鍵介は紅朗の表情に、気圧されたように後ずさる。
「せ、せんぱい……」
「……鍵介」
紅朗は、自分でも驚くくらいに、冷え切った声で訊ねる。
「今の子は?」
鍵介が、小さく息を呑んだ。
続...
ふんわりしたボブカットの、可愛らしい女の子だった。
「周りとは、違うっていうか。ちゃんとした自分を持ってる人だな、と、思ってて」
くりっとした目と小さな口がバランス良く整っていて、小動物のような愛らしさがあった。
「だから、その……お付き合い、して、貰えないかなって」
ほんのり染まった頬と、緊張で潤んだ瞳が、彼女の可愛らしさを引き立てていた。
「は、はぁ……」
すみません。
付き合ってる人がいるんです。
と、一言、言えば済む話なのに。
鍵介はその一言が出てこなくて、なぜだか口ごもってしまった。
*****
鍵介が見当たらない。
放課後は、大抵彼の方から紅朗の教室に顔を出してくれるか、そうでなくとも彼のクラスまで行けば会えるのだが。
部室に顔を出してみてもやっぱりいなくて、紅朗は何となく不安になった。
「いないね、鍵介」
アリアがきょろりと部室を見回す。
「先に部室に来たのかと思ったんだけど……」
「……そうだな」
不安を押し殺すようにして、紅朗は頷く。
「鍵介くんですか?」
と、美笛が首を傾げた。
「確か、さっき体育館裏の方に行くの見ましたけど…………」
「体育館裏?」
そんなところに、何かあっただろうか。
紅朗は少し考えて、
「……ちょっと探してくる」
と、部室から廊下に出ていく。
「あっ、待ってよYou!アタシも行くってば!」
アリアが慌てたように紅朗へと着いて言った。
「体育館裏って、なんかあったっけ?」
「何も無いと思う。んだけど」
紅朗はそう言いながら、足早に廊下を歩いて行く。
入り組んだ迷路みたいな校舎の内部構造が、酷く鬱陶しく感じられる。
何事も無いといい。
鍵介が無事ならそれで。
自分にそう言い聞かせながら、階段を駆け下りて、玄関から校舎の外に出ていく。
鍵介が向かったのは、体育館裏だったか。
まさか誰かに呼び出された、なんてことはないだろうと思いつつ、再び不安が蘇る。
彼を『カギP』だったと認識している人間が、多少なりともいることはわかっている。
だとすれば。
だとすればまさか。
紅朗が駆け出そうとした、その時だった。
「響くんのこと、好きなんです
耳に飛び込んできた言葉に、紅朗は思わず足を止める。
「周りとは、違うっていうか。ちゃんとした自分を持ってる人だな、と、思ってて」
少女の可愛らしい声だった。
紅朗は思わず真顔になりながら、歩を進める。
「だから、その……お付き合い、して、貰えないかなって」
体育館裏。
人気の無い場所。
制服を着た少女と、鍵介が、向かい合うように立っていた。
ふんわりしたボブカットの、可愛らしい女の子だった。
くりっとした目と小さな口がバランス良く整っていて、小動物のような愛らしさがあった。
ほんのり染まった頬と、緊張で潤んだ瞳が、彼女の可愛らしさを引き立てていた。
そんなことはどうだっていい。
こいつは一体、何を言ってるんだ?
「は、はぁ……」
鍵介が曖昧な返事だけをして、俯いたのが見えた。
と。
少女が紅朗の姿に気付き、「きゃっ」と小さく声を上げる。
「ご、ごめんなさい!お返事、いつでもいいです……!」
慌てたように駆け出す少女の姿にぽかんとしてから、鍵介がゆっくりと振り返る。
そして、ようやく紅朗の姿に気が付いた。
「え、あ」
鍵介は紅朗の表情に、気圧されたように後ずさる。
「せ、せんぱい……」
「……鍵介」
紅朗は、自分でも驚くくらいに、冷え切った声で訊ねる。
「今の子は?」
鍵介が、小さく息を呑んだ。
続...