主鍵
「自分が痛い思いをしたからって、人に痛みを与えて紛らわせようとするのは良くないな」
「あんたに、あんたに何がわかるんだよ!」
僕のことなんて何も知らないくせにと叫んだ彼は、黒い刃をからりと落とした。
「わからないよ、君のことは」
紅朗はぽつりと呟く。
「わかる前に、いつも消えちゃうだろ」
放送室から出てきた紅朗に、鍵介は駆け寄った。
「先輩…!」
紅朗は顔を上げて、安心したように笑う。
「鍵介。どうしたんだ?」
「どうしたんだ、って、」
鍵介は酷く不安そうな表情を浮かべて、じっと紅朗を見つめた。
「……なに、してたんですか」
「ちょっとね」
紅朗は穏やかに笑ってみせる。が、鍵介は納得しないと言いたげに首を振った。
「……何してたんですか」
これは言わないと駄目だなと諦めて、紅朗は仕方なさそうに口にする。
「ちょっと彼に会いに行ってただけだよ」
「どうして!」
「どうして。って、言われても」
語気を強める鍵介に対し、紅朗は淡々としている。
「会っておきたかったんだ。もう一度。『カギP』に」
鍵介は何か言いたげに口をはくはくと動かしていたが、やがて溜め息と共にうつむいてしまう。
「……どうして、一人で行くんですか」
紅朗は、申し訳なさそうに眉の端を下げた。
「君が行きたくなさそうだったから」
「…………」
「鍵介」
「…………」
「ごめん。もう行かないよ」
「知りません…………」
「ごめんね」
「先輩なんか、もう知りません」
「ごめんって……」
泣き出してしまった恋人を抱き寄せて、紅朗は小さく息を吐く。
あれは、君のもうひとつの姿だから、よく知っておきたかっただけなんだ。
そう言っても、彼はきっと泣き止まないだろうと考えて、紅朗は黙って鍵介の背中を撫でていた。
「あんたに、あんたに何がわかるんだよ!」
僕のことなんて何も知らないくせにと叫んだ彼は、黒い刃をからりと落とした。
「わからないよ、君のことは」
紅朗はぽつりと呟く。
「わかる前に、いつも消えちゃうだろ」
放送室から出てきた紅朗に、鍵介は駆け寄った。
「先輩…!」
紅朗は顔を上げて、安心したように笑う。
「鍵介。どうしたんだ?」
「どうしたんだ、って、」
鍵介は酷く不安そうな表情を浮かべて、じっと紅朗を見つめた。
「……なに、してたんですか」
「ちょっとね」
紅朗は穏やかに笑ってみせる。が、鍵介は納得しないと言いたげに首を振った。
「……何してたんですか」
これは言わないと駄目だなと諦めて、紅朗は仕方なさそうに口にする。
「ちょっと彼に会いに行ってただけだよ」
「どうして!」
「どうして。って、言われても」
語気を強める鍵介に対し、紅朗は淡々としている。
「会っておきたかったんだ。もう一度。『カギP』に」
鍵介は何か言いたげに口をはくはくと動かしていたが、やがて溜め息と共にうつむいてしまう。
「……どうして、一人で行くんですか」
紅朗は、申し訳なさそうに眉の端を下げた。
「君が行きたくなさそうだったから」
「…………」
「鍵介」
「…………」
「ごめん。もう行かないよ」
「知りません…………」
「ごめんね」
「先輩なんか、もう知りません」
「ごめんって……」
泣き出してしまった恋人を抱き寄せて、紅朗は小さく息を吐く。
あれは、君のもうひとつの姿だから、よく知っておきたかっただけなんだ。
そう言っても、彼はきっと泣き止まないだろうと考えて、紅朗は黙って鍵介の背中を撫でていた。