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主鍵

『好みのタイプはどんな方なんですか?』
『何も言わずとも分かってくれる人ですかね』
音楽雑誌のインタビュー記事を眺めながら、鍵介は何とも言えない顔をする。
"蜂蜜色のショートボブに、鴉の濡れ羽色の瞳をした涼やかな美青年"にこんなことを言われてしまったら、インタビュアーも立つ瀬がないだろう。
その"美青年"とやらは、今現在は鍵介と共にソファに座り、鍵介の肩に擦り寄って甘えてきているわけだが。
「……先輩」
「ん?」
「これ、本当は何て言ったんです?」
鍵介がインタビュー記事の一角をとんとんと指で叩くと、ラティカは興味なさげに視線を向けて、「ああ」とどうでも良さげな声を出す。
「そもそも質問がおかしいんだよ」
ラティカは鍵介の肩に額を擦り付ける。
「『好みのタイプはどんな女性ですか?』って聞かれたから、『女性とは限らないかもしれませんよ』って返してやったんだ」
「……………」

可哀想に。
インタビュアーの表情が凍りつくのが目に浮かぶようだ。

「そういうのって、リップサービスとかするもんじゃないんですか?」
「『貴方みたいな人ですね』って?」
ラティカは片眉を上げてみせる。
「嘘でも嫌だよ気持ち悪い。本気にされたらどうするの。僕は、どうでも良い相手に気を持たせる気はないよ」
「はぁ、なるほどね……」
冷たく言い放つラティカに、鍵介は納得したような、していないような声を出す。
彼は、他人にはそう優しくない。
代わりに、仲間や友人にはとても優しいのだが、ちょっと優し過ぎるんじゃないですかね、と鍵介は思わなくもない。
妬いているわけではなく。決して。決して。
続くインタビュー内容も大体似たような調子で、インタビュアーの苦労が忍ばれた。記事を見る限り、ラティカは終始笑顔だったらしい。
自分だったら、怖くて胃を痛めてるなぁなどと鍵介が考えていると、脇腹の当たりに違和感を覚える。
見れば、ラティカが鍵介の服をちょいちょいと引っ張っていた。
「何です?」
ラティカは鍵介の服を引っ張ったり離したりを繰り返していた。
「ねえ、それ、面白い?」
「ええ、まあ、割と」
外で格好をつけているラティカを見るのが、鍵介は結構好きだった。
メビウスで帰宅部部長として活動していた彼も、こんな風に凛としていた………と、鍵介は(いやいや……)と思い直す。
よく考えたら、『紅朗』も二人きりの時は、かなりの甘えたがりだった。今もそうだが。
と、ラティカはつまらなそうな顔をしながら、鍵介の肩に頭を載せてきた。
「……今ここにいる僕とどっちが面白い?」
ラティカのよくわからない質問に、鍵介は何と答えるか暫く迷う。
「…………暇なんです?」
「いや、鍵介に構われたい……」
正直にも程がある。
鍵介は思わず笑い出しながら、「しょうがないなぁ」と雑誌をテーブルに放る。
「仕方が無いですね、構ってあげましょう」
ラティカは嬉しそうに鍵介に抱き着いた。
「ふふ。やっぱり休日は鍵介日和だ」
「何ですか、それ」
メビウスで触れていた硬い黒髪とは違う、柔らかな金髪を指で梳きながら、鍵介はぎゅっと恋人を抱き締める。
甘えたがりで正直な彼は、いつだって自分のものだ。
『恋人を作りたいとか、今はそういうのないですね。十分満たされてるので』
インタビューの一節を思い出し、鍵介はこっそり笑う。

このまま、正直な嘘つきでいてくださいね。先輩。

「他に何かしたいこととかあります?」
「ベッドに行きたい」
「正直にも程がある……」

……ほどほどにで、構いませんから。
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