主鍵
午前の授業を終えた昼休み。
紅朗は校内の中庭を歩きつつ、今日のお昼ご飯はどうしようかとぼんやり考えていた。
アリアは何やら琴乃と約束があるらしく、先程ポケットの中から勢い良く飛び出して行った(「唐揚げ唐揚げ〜!」と食欲丸出しの呟きが聞こえたのは、聞こえなかったことにしておこう)。
毎回野菜ばかりの食事に付き合わせるのも悪いと思っていたところだったので、それ自体は全く構わないのだが、どうにも食欲が湧かない。
どこかで時間でも潰そうかと思いつつ、何気無く周囲を見渡すと、見慣れた薄い髪の色が目に入る。
「鍵介」
近づいて声をかけると、鍵介がサンドイッチを片手に、こちらを振り返る。
「あ、先輩」
「一人か?」
「そうですよー、友達いないもんで」
彼はそう言いながら、座っていたベンチの横を空けてくれる。
紅朗は勧められるまま隣に腰掛けた。
「先輩も今日は一人ですか?」
「そうだな、アリアがいないから」
ふぅん、と鍵介は相槌を打ってから、
「……もしかして、先輩も友達いないとか?」
紅朗はちょっと笑ってから、少し答えを考える。
「そうだな……この世界、メビウスにはいないんだと思う」
「……どういうことです?」
怪訝そうな鍵介に、紅朗は目を細める。
「『卒業』する前、よくつるんでたクラスメイトがいたんだ。朝に顔を合わせれば雑談して、昼は一緒に食べて、夕方は下らないことで盛り上がって……そんな感じ」
「……………」
「『卒業』した後は、真っ黒なノイズまみれになってた」
声を掛けられても、最初は誰かわからなかった。
適当な相槌を打つ内に、『何なのか』わかってしまった。
「現実では友達だったのかもしれないんだけどな」
苦笑いしながら鍵介の方を見れば、酷く申し訳なさそうな顔をして俯いていた。
「…………あの」
「ん?」
「……すみませんでした」
呟くように謝る鍵介に、紅朗は笑って、彼の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「いいよ、ちょっと鍵介をいじめたくなっただけだから」
「えっ……ええ?酷くないですか、先輩」
「お前が小生意気だったからつい」
悪戯っぽく笑う紅朗に、鍵介は唇を尖らせる。
と、不意にどこからか、ぐぅ、と押し殺したような音が聞こえた。
「………先輩、お昼食べてないんですか?」
「ああ、うん。さっきまで食欲なかったんだけど、鍵介と話してたら空いてきたみたいだ」
売店にでも行こうかな、と立ち上がる紅朗を見て、鍵介が慌てて包みを片付ける。
「僕もついていっていいですか?」
「良いけど、もう食べたんじゃないのか?」
「いや、ちょっと物足りなくて……」
もごもごとそう言う鍵介に、紅朗はそれ以上追求しないでおくことにした。
「じゃ、行くか」
「………先輩。先輩」
「ん?」
「明日からは、僕が一緒にお昼ご飯食べてあげてもいいですよ」
小生意気な調子を取り戻してそう言う鍵介に、紅朗は一瞬目を丸くしてから、思わず笑って「ありがとう」と答えたのだった。
紅朗は校内の中庭を歩きつつ、今日のお昼ご飯はどうしようかとぼんやり考えていた。
アリアは何やら琴乃と約束があるらしく、先程ポケットの中から勢い良く飛び出して行った(「唐揚げ唐揚げ〜!」と食欲丸出しの呟きが聞こえたのは、聞こえなかったことにしておこう)。
毎回野菜ばかりの食事に付き合わせるのも悪いと思っていたところだったので、それ自体は全く構わないのだが、どうにも食欲が湧かない。
どこかで時間でも潰そうかと思いつつ、何気無く周囲を見渡すと、見慣れた薄い髪の色が目に入る。
「鍵介」
近づいて声をかけると、鍵介がサンドイッチを片手に、こちらを振り返る。
「あ、先輩」
「一人か?」
「そうですよー、友達いないもんで」
彼はそう言いながら、座っていたベンチの横を空けてくれる。
紅朗は勧められるまま隣に腰掛けた。
「先輩も今日は一人ですか?」
「そうだな、アリアがいないから」
ふぅん、と鍵介は相槌を打ってから、
「……もしかして、先輩も友達いないとか?」
紅朗はちょっと笑ってから、少し答えを考える。
「そうだな……この世界、メビウスにはいないんだと思う」
「……どういうことです?」
怪訝そうな鍵介に、紅朗は目を細める。
「『卒業』する前、よくつるんでたクラスメイトがいたんだ。朝に顔を合わせれば雑談して、昼は一緒に食べて、夕方は下らないことで盛り上がって……そんな感じ」
「……………」
「『卒業』した後は、真っ黒なノイズまみれになってた」
声を掛けられても、最初は誰かわからなかった。
適当な相槌を打つ内に、『何なのか』わかってしまった。
「現実では友達だったのかもしれないんだけどな」
苦笑いしながら鍵介の方を見れば、酷く申し訳なさそうな顔をして俯いていた。
「…………あの」
「ん?」
「……すみませんでした」
呟くように謝る鍵介に、紅朗は笑って、彼の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「いいよ、ちょっと鍵介をいじめたくなっただけだから」
「えっ……ええ?酷くないですか、先輩」
「お前が小生意気だったからつい」
悪戯っぽく笑う紅朗に、鍵介は唇を尖らせる。
と、不意にどこからか、ぐぅ、と押し殺したような音が聞こえた。
「………先輩、お昼食べてないんですか?」
「ああ、うん。さっきまで食欲なかったんだけど、鍵介と話してたら空いてきたみたいだ」
売店にでも行こうかな、と立ち上がる紅朗を見て、鍵介が慌てて包みを片付ける。
「僕もついていっていいですか?」
「良いけど、もう食べたんじゃないのか?」
「いや、ちょっと物足りなくて……」
もごもごとそう言う鍵介に、紅朗はそれ以上追求しないでおくことにした。
「じゃ、行くか」
「………先輩。先輩」
「ん?」
「明日からは、僕が一緒にお昼ご飯食べてあげてもいいですよ」
小生意気な調子を取り戻してそう言う鍵介に、紅朗は一瞬目を丸くしてから、思わず笑って「ありがとう」と答えたのだった。