主→棘
「愛されるのが嫌だ」
彼がぽつりと言ったのは、どこか子供じみた口調の、小さな小さな呟きだった。
少女は興味もなさそうに、そちらに目を向けることもなく、ただ黙っている。
「愛してるからとかなんとか言って、みんな俺のことを縛りつけようとする」
彼氏になって。
良い子でいなさい。
恋人でいて。
悪い子は要らない。
どいつもこいつもどいつもこいつも。
愛という名のもとに、身勝手な束縛を押し付けて、見返りを要求してくる。
「鬱陶しいんだよ」
呼吸が苦しくなる。
目の前が赤くなる。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いあいされるのがこわい。
愛が息の根を止める、
愛が罪を許そうとする、
愛は罰を与えない、
愛は束縛を良しとする。
だから、愛されるのが怖い。
「じゃあ、お前は、」
少女の唇が開く。
「自分が愛することは、良しとするのか」
訊ねられた少年の唇が、両端を持ち上げる。
「俺がしているのは恋だ」
恋は、縛れない。
「縛られるのはいつだって、愛した時と愛された時だろ?」
言葉遊びに、少女は溜め息を吐き、だが、それでも、
「そうかもしれないな」
と、答えた。
彼は彼女を愛している(ずっと)
彼は彼女を愛していた(今でも)