秋花ちゃんから(イラスト&小説)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日は特別な日だ。なんといっても、私の誕生日なのだから。朝起きて、隣で眠る彼の寝顔をぼんやりと眺めていると急に実感が湧いた。今日で私はまた一つ歳を重ねたのだ。歳を取るのはいつもであればさして嬉しくはないのだが、彼、章吉と付き合いだしてからは違う。章吉は派手好きでイベント事も大好き。今日の私の誕生日にもスペシャルなデートプランを考えて用意してあるのだそうだ。昨夜ベッドの中で得意げに話していた。一体どんな一日になるのかドキドキしながら身支度を進めた。そのうちに章吉がのそのそと起きて来て、お誕生日おめでとうと言いながら頬に優しくキスをしてくる。幸せに溢れた朝が始まった。
章吉に連れられて訪れたのは、付き合って初めてのデートで来た水族館だった。大切な思い出が詰まったこの場所は素敵なチョイスだ。私は彼のこういうロマンティックな所がとても好きだ。アクセサリーショップや洋服屋や本屋など、私が喜びそうな所を他にもいくつか巡った後、豪華なホテルに連れられる。どうやらここでディナーにするようだ。こんな格式高い場所、なんだか私には不相応なのではないかと少々緊張してしまった。章吉が私の手を引きまるでエスコートするみたいに歩くので余計に胸が高鳴った。店内に入ってから章吉はずっとそわそわと落ち着きがなく、二人の間には会話が少なかった。彼はいつもうるさいくらいによく話すので、黙りこくる姿はあまり見たことがない。緊張が伝染して、私まで静かになってしまう。
運ばれてくるコース料理を次々と楽しみ、ふと窓の外に目を遣ると美しい夜景が広がっていた事に気付く。暫し見惚れていると、突然店内の灯りが消され、ロウソクの点いたケーキを持ったお店の人がハッピーバースデーの歌を歌いながらこちらに向かって歩いて来た。驚いて章吉の方を見ると、してやったりと言わんばかりの顔で笑っている。確かに、いかにも彼の好きそうなサプライズだった。私の前に大きなケーキが置かれる。
「ロウソクは一回で吹き消すと願い事が叶うんやで」
章吉が言う。真っ直ぐに、優しい眼差しで私を見ている。
私の願い事、それは一つしかなかった。彼とずっと一緒にいられますように。心の中で小さく呟いた。すぅ、と深く息を吸い込んで、一息に吹き消した。途端に拍手に包まれる店内。嬉しいやら少し恥ずかしいやらで笑ってしまう。そして章吉が突然私の手を取った。まるでお姫様の手を取る王子様のようだ。
「ナナちゃん、ナナちゃんとおったらワイは楽しい。幸せや。ずっと一緒におりたいんや。だからーー、ワイと結婚して下さい」
いつになく真面目な表情でそう言う章吉。声が少し震えていることに気付いて、胸がぎゅうっと締め付けられた。私の答えはとうの昔から決まっていた。嬉しさで声が詰まる。代わりに深く深く頷いた。それと同時に店内からは先ほどよりもより一層大きな拍手が響いた。
店を出て、二人で夜道を歩く。私はこの人と結婚をする。まだ実感は湧かない。手を繋いで歩いていると、何故だか急に学生時代の事を思い出した。長い間ずっと恋焦がれていた彼と人生を共にするなんて、当時は想像もしなかった。
「ねぇ、二人に報告しなくちゃね」
「あぁ、そうや思い出した!この前仕事帰りにアキに会うて、ナナにプレゼント預かってるんやった。家に帰ったら渡すわ」
「そうなの?何だろう、楽しみだな」
帰宅して、アキからのプレゼントの包みをいそいそと開けると中に入っていたのは夫婦茶碗だった。手にしっかりと馴染む、趣味の良い茶碗だ。結婚すると決めた日に貰うプレゼントが夫婦茶碗だなんて、なんだかタイミングが良くて笑ってしまう。中には小さなメッセージカードも一緒に添えられている。
「お誕生日おめでとうございます。靖友と二人で選びました。気に入って下さるか分かりませんが私達とお揃いです。離れていても、心はいつも繋がっています。」
Happy birthday!
18.12.14