社会人メロンパンズ(荒北 鳴子 )長編 完結
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金曜の夜といえば他の日よりも飲み歩く人が多くなるのは自然だろう。忙しい社会人が、翌朝を気にせず飲める日。
急ぎの案件がない時に限るが、己の裁量一つで多少勤務時間をコントロールできる荒北と、ほぼ定時あがりの名字は先に席をとっておくことにした。
鳴子は取引先に呼ばれ、すぐには帰ってこれないらしい。ご苦労なこってと店を選ぶも、本日はチェーンの居酒屋にした。
あまり名字とふたりで雰囲気のある店もどうかと思ったのだ。
適当に注文を済ませると、向かいに座る名字はまだ酒も入ってないのに上機嫌なのがわかる。
「本日はお誘い下さってありがとうございます」
「あー、別にィ」
荒北自身何故名字を誘ってしまったか疑問に思っているところなので曖昧な返事をする。
「名字よくオレのことわかったナ」
女は首を傾げる。
「あー、ホラ、二次会ンとき。福チャンの。部署も違ぇのに」
「私、会社関係で一度話した方、だいたいは顔と名前覚えてますよ」
荒北は細い目を丸くした。
彼らの勤務先は世間に一流企業と認められる場所だ。本社は西にあるが、支社であるここにも何千と人がいる。
荒北の表情を見て名字は手を振って否定する。
「さすがに全員は無理ですし、関わりの多い部署が優先ですけど!」
「あー、それでもホントならスゲェよ」
荒北自身人の名前を覚えるのが苦手であるし、あまり他人に好んで関わろうというタイプでもないので、それは一種の特技であると思う。
さすがに真波より覚える方だと自分では思うが、それも怪しいものだ。
「荒北さんのように誇れる技術もないし、鳴子くんみたいに喋りが上手くもないから営業もできないし」
名字は真っ直ぐ荒北に尊敬の念を向ける。
キラキラと眩しい程の瞳の輝き。
(荒北さんはすごいです)
ああこれはなんだか。
「総務に配属決まって、やっぱりなって思ったんですけど。でもそんな中でも私にできることをやりたくて。皆さんに気持ち良く働いてもらうのが私の仕事なんですから!」
「ハッ、なるほど小野田ちゃんね、鳴子のやつ酔ってなかったなアイツ」
ボソっと名字に聞こえないように呟く。
「なんですか?」
「なんでもねー、嫌いじゃねーヨ。お前みたいな謙虚ちゃんもね」
「……えっ」
驚いて荒北を見上げる名字。これは彼に何かを認められたと思っていいのだろうか。でも何を。
「悪くねーって言ってンの。好きなの頼めよ名前チャン」
普段笑わない人が笑うと破壊力がすごいって本当だ。名字は初めての名前呼びと、荒北から向けられる空気が柔らかくなったことにつられたように、自然と笑みがこぼれた。
そこから先はアルコールの力もあってか会話も弾み、楽しい酒であった。鳴子から今から向かうと連絡があったとき舌打ちしてしまうほどに。
「いやー、すんません、鳴子章吉ただいま到着ですわー」
社会人になって落ち着いたとはいえ、それでもやはり目立つ赤い髪の男は、二人の間に流れる空気が今までと違う事を感じ取る。
「名字さん今日もかわええなー、隣ええか」
言いながら許可は待たずに座る。
名字に会えて嬉しいことを微塵も隠さず全身で表す鳴子。
荒北にまた未知の感情が灯る。
「もー、鳴子くんはそればっかり」
「だって好きなんやもん、名字さんが」
メニューを見ながら向かいの荒北と目が合う。
ああ、そうだナ、捕食者だオマエも。
オレも降りねェヨ名前をかっ喰らうまでナ。
今宵、野獣と虎の狩りが始まった。
急ぎの案件がない時に限るが、己の裁量一つで多少勤務時間をコントロールできる荒北と、ほぼ定時あがりの名字は先に席をとっておくことにした。
鳴子は取引先に呼ばれ、すぐには帰ってこれないらしい。ご苦労なこってと店を選ぶも、本日はチェーンの居酒屋にした。
あまり名字とふたりで雰囲気のある店もどうかと思ったのだ。
適当に注文を済ませると、向かいに座る名字はまだ酒も入ってないのに上機嫌なのがわかる。
「本日はお誘い下さってありがとうございます」
「あー、別にィ」
荒北自身何故名字を誘ってしまったか疑問に思っているところなので曖昧な返事をする。
「名字よくオレのことわかったナ」
女は首を傾げる。
「あー、ホラ、二次会ンとき。福チャンの。部署も違ぇのに」
「私、会社関係で一度話した方、だいたいは顔と名前覚えてますよ」
荒北は細い目を丸くした。
彼らの勤務先は世間に一流企業と認められる場所だ。本社は西にあるが、支社であるここにも何千と人がいる。
荒北の表情を見て名字は手を振って否定する。
「さすがに全員は無理ですし、関わりの多い部署が優先ですけど!」
「あー、それでもホントならスゲェよ」
荒北自身人の名前を覚えるのが苦手であるし、あまり他人に好んで関わろうというタイプでもないので、それは一種の特技であると思う。
さすがに真波より覚える方だと自分では思うが、それも怪しいものだ。
「荒北さんのように誇れる技術もないし、鳴子くんみたいに喋りが上手くもないから営業もできないし」
名字は真っ直ぐ荒北に尊敬の念を向ける。
キラキラと眩しい程の瞳の輝き。
(荒北さんはすごいです)
ああこれはなんだか。
「総務に配属決まって、やっぱりなって思ったんですけど。でもそんな中でも私にできることをやりたくて。皆さんに気持ち良く働いてもらうのが私の仕事なんですから!」
「ハッ、なるほど小野田ちゃんね、鳴子のやつ酔ってなかったなアイツ」
ボソっと名字に聞こえないように呟く。
「なんですか?」
「なんでもねー、嫌いじゃねーヨ。お前みたいな謙虚ちゃんもね」
「……えっ」
驚いて荒北を見上げる名字。これは彼に何かを認められたと思っていいのだろうか。でも何を。
「悪くねーって言ってンの。好きなの頼めよ名前チャン」
普段笑わない人が笑うと破壊力がすごいって本当だ。名字は初めての名前呼びと、荒北から向けられる空気が柔らかくなったことにつられたように、自然と笑みがこぼれた。
そこから先はアルコールの力もあってか会話も弾み、楽しい酒であった。鳴子から今から向かうと連絡があったとき舌打ちしてしまうほどに。
「いやー、すんません、鳴子章吉ただいま到着ですわー」
社会人になって落ち着いたとはいえ、それでもやはり目立つ赤い髪の男は、二人の間に流れる空気が今までと違う事を感じ取る。
「名字さん今日もかわええなー、隣ええか」
言いながら許可は待たずに座る。
名字に会えて嬉しいことを微塵も隠さず全身で表す鳴子。
荒北にまた未知の感情が灯る。
「もー、鳴子くんはそればっかり」
「だって好きなんやもん、名字さんが」
メニューを見ながら向かいの荒北と目が合う。
ああ、そうだナ、捕食者だオマエも。
オレも降りねェヨ名前をかっ喰らうまでナ。
今宵、野獣と虎の狩りが始まった。