捧げ物
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夏期講習の帰り道、暗くなり始めた道すがら、たまたま寄ったコンビニで赤い髪を見かけた。
「鳴子くん」
クラスでも目立つ存在の男の子はアイスを選んでいた。
「部活?」
「おー、名前やん。どないしたん」
「ん、塾の帰りだよ」
「こんな遅くまで大変やな、ワイは自主練帰りや」
そういえば学校の名前を背負ったサイクルジャージではない。鳴子くんの頭みたいな、赤を基調にしたジャージだ。
身体のラインがよくわかるんだな、この格好。細いのにしっかりと筋肉質で脚とか凄く鍛えているのがわかる。
「なん?」
「え、なに?」
「そんな見られたらさすがに照れるわ」
「え?見てた?見てないよ、私もアイス買うんだよ」
いけないいけない、少し照れたような鳴子くんの顔につられて照れる。更にじっと見ていたことを指摘され恥ずかしくて顔に血がのぼる。
「なにワイのこと見て赤くなっとるんー、名前 スケベやわー」
「ちちち、違うし!見てないし!自意識過剰!」
「まあワイの走りに惚れるのはわかるで……っておーい聞かんかーい」
私は先にアイスを選んでレジに向かった。
有名なイガグリ頭のキャラクターがついた夏に恋しくなるカキ氷アイスバーを齧りながら私たちは並んで歩いていた。
鳴子くんは器用にアイス持ちながら片手で自転車を押している。
もう暗くなり始めたから送ってくれると言うのだ。鳴子くんのこういうさり気ない優しさが好きという女の子は実は多い。
「もうすぐ学校だけど、宿題終わった?」
「いや明日からやる、小野田くんたちと合宿や」
「自転車部仲いいよね」
「なんなら名前ちゃんが写させてくれたらやらんでもええし助かるのやけど」
鳴子くんは食べ切ったアイスの棒を背中のポケットみたいなところにしまった。こういう、ポイ捨てしないところも人気の秘訣に違いない。
「名前またワイのこと見とる」
「え、ごめ…」
「謝らんでもええけど。アイス溶けとるで」
ポタリとソーダのしずくが垂れて、夏のアスファルトにシミを作る。このままでは手も汚れるしこぼしたらもったいない。
「やば」
私が言うと同時くらいに、鳴子くんに手を掴まれ、アイスごと鳴子くんの口に運ばれた。下の溶け始めたところから食べて、あっという間に二口ほどで食べてしまった。
口を開けた時にはっきり見えた八重歯とか、滴を舐めとった赤い舌とか、そんなところに見惚れてぼんやりとしてた私に、鳴子くんはいたずらっ子のように笑いかける。
「ごちそーさん」
掴まれた手が離された。
鳴子くんの体温を、夜風が消してしまう。
もう少し、感じていたかったのに。
「8月28日」
「え」
鳴子くんは再び自転車を押し始める。
「ワイ今日誕生日やねん」
「……知ってる……」
「知っとる?なんや名前さてはワイのファンか!」
「違うし……鳴子くんが休み前に『いやーワイの誕生日8月28日やねんからいつもみんなから祝ってもらわれへんねん、プレゼントは新学期でも受け付けておりますー』って大きな声で言ってたからだし」
「ん、よぉ覚えとってくれたなー」
ニコニコと笑って褒めてもらった。
先程アイスを食べられた時の色気と違って、この邪気のない笑顔に落ち着いた。
「良かった、いつもの鳴子くんだ」
ドキドキしてしまってどうしようかと思った。これなら普通に喋れそうだと鳴子くんを見ると、不敵な笑みを浮かべていた。
「どうしたの」
「いや、名前ワイのこと好きやろ」
「……!!!!」
「大好きなワイにプレゼント用意出来なかったかて泣かんでええでー、さっきアイスもろたし」
「す、すきじゃないもん……」
泣きそうで真っ赤な顔になってるだろう私に鳴子くんは思いっきり顔を近づけてきた。
赤い髪の毛が私の額に触れる。大きな射抜くような目。よく喋る口と、目立つ八重歯。
好きだけど。
「名前の味がした」
「……!」
その至近距離から更に近づいた、唇が触れた気がする。軽く、ほんとにかすめたように触れただけ。
「ワイと付き合うて」
どくどくと心臓が脈打つ。早鐘を打つとはまさにこのこと。耳に心臓あったっけ。
「きす、した…」
「すまん、名前が可愛かったから」
脳の処理が追いつかない。
確かに私は無意識に鳴子くんを目で追ったり、たくさん話せた日は嬉しかったり、ふとした仕草にドキリとしたり、こっそり応援に行ったインターハイではその走りに魅せられてしまったけど。
好きってバレてた。
「好きだけど、好きじゃないもん」
私は走り出した。
恥ずかしい恥ずかしい。だだ漏れの感情。
「名前!返事ー!」
自転車を押しながら鳴子くんが追いかけてきた。
返事なんか決まっている。
ずっと好きだったよ鳴子くん。誕生日おめでとう。今日会えて良かった。
家の前に着いたらそう言おう。
夕暮れとはいえまだまだ暑い。走ると汗が気持ち悪いけど、鳴子くんと走った夏のこの日を、私はずっと忘れない。
END
「鳴子くん」
クラスでも目立つ存在の男の子はアイスを選んでいた。
「部活?」
「おー、名前やん。どないしたん」
「ん、塾の帰りだよ」
「こんな遅くまで大変やな、ワイは自主練帰りや」
そういえば学校の名前を背負ったサイクルジャージではない。鳴子くんの頭みたいな、赤を基調にしたジャージだ。
身体のラインがよくわかるんだな、この格好。細いのにしっかりと筋肉質で脚とか凄く鍛えているのがわかる。
「なん?」
「え、なに?」
「そんな見られたらさすがに照れるわ」
「え?見てた?見てないよ、私もアイス買うんだよ」
いけないいけない、少し照れたような鳴子くんの顔につられて照れる。更にじっと見ていたことを指摘され恥ずかしくて顔に血がのぼる。
「なにワイのこと見て赤くなっとるんー、名前 スケベやわー」
「ちちち、違うし!見てないし!自意識過剰!」
「まあワイの走りに惚れるのはわかるで……っておーい聞かんかーい」
私は先にアイスを選んでレジに向かった。
有名なイガグリ頭のキャラクターがついた夏に恋しくなるカキ氷アイスバーを齧りながら私たちは並んで歩いていた。
鳴子くんは器用にアイス持ちながら片手で自転車を押している。
もう暗くなり始めたから送ってくれると言うのだ。鳴子くんのこういうさり気ない優しさが好きという女の子は実は多い。
「もうすぐ学校だけど、宿題終わった?」
「いや明日からやる、小野田くんたちと合宿や」
「自転車部仲いいよね」
「なんなら名前ちゃんが写させてくれたらやらんでもええし助かるのやけど」
鳴子くんは食べ切ったアイスの棒を背中のポケットみたいなところにしまった。こういう、ポイ捨てしないところも人気の秘訣に違いない。
「名前またワイのこと見とる」
「え、ごめ…」
「謝らんでもええけど。アイス溶けとるで」
ポタリとソーダのしずくが垂れて、夏のアスファルトにシミを作る。このままでは手も汚れるしこぼしたらもったいない。
「やば」
私が言うと同時くらいに、鳴子くんに手を掴まれ、アイスごと鳴子くんの口に運ばれた。下の溶け始めたところから食べて、あっという間に二口ほどで食べてしまった。
口を開けた時にはっきり見えた八重歯とか、滴を舐めとった赤い舌とか、そんなところに見惚れてぼんやりとしてた私に、鳴子くんはいたずらっ子のように笑いかける。
「ごちそーさん」
掴まれた手が離された。
鳴子くんの体温を、夜風が消してしまう。
もう少し、感じていたかったのに。
「8月28日」
「え」
鳴子くんは再び自転車を押し始める。
「ワイ今日誕生日やねん」
「……知ってる……」
「知っとる?なんや名前さてはワイのファンか!」
「違うし……鳴子くんが休み前に『いやーワイの誕生日8月28日やねんからいつもみんなから祝ってもらわれへんねん、プレゼントは新学期でも受け付けておりますー』って大きな声で言ってたからだし」
「ん、よぉ覚えとってくれたなー」
ニコニコと笑って褒めてもらった。
先程アイスを食べられた時の色気と違って、この邪気のない笑顔に落ち着いた。
「良かった、いつもの鳴子くんだ」
ドキドキしてしまってどうしようかと思った。これなら普通に喋れそうだと鳴子くんを見ると、不敵な笑みを浮かべていた。
「どうしたの」
「いや、名前ワイのこと好きやろ」
「……!!!!」
「大好きなワイにプレゼント用意出来なかったかて泣かんでええでー、さっきアイスもろたし」
「す、すきじゃないもん……」
泣きそうで真っ赤な顔になってるだろう私に鳴子くんは思いっきり顔を近づけてきた。
赤い髪の毛が私の額に触れる。大きな射抜くような目。よく喋る口と、目立つ八重歯。
好きだけど。
「名前の味がした」
「……!」
その至近距離から更に近づいた、唇が触れた気がする。軽く、ほんとにかすめたように触れただけ。
「ワイと付き合うて」
どくどくと心臓が脈打つ。早鐘を打つとはまさにこのこと。耳に心臓あったっけ。
「きす、した…」
「すまん、名前が可愛かったから」
脳の処理が追いつかない。
確かに私は無意識に鳴子くんを目で追ったり、たくさん話せた日は嬉しかったり、ふとした仕草にドキリとしたり、こっそり応援に行ったインターハイではその走りに魅せられてしまったけど。
好きってバレてた。
「好きだけど、好きじゃないもん」
私は走り出した。
恥ずかしい恥ずかしい。だだ漏れの感情。
「名前!返事ー!」
自転車を押しながら鳴子くんが追いかけてきた。
返事なんか決まっている。
ずっと好きだったよ鳴子くん。誕生日おめでとう。今日会えて良かった。
家の前に着いたらそう言おう。
夕暮れとはいえまだまだ暑い。走ると汗が気持ち悪いけど、鳴子くんと走った夏のこの日を、私はずっと忘れない。
END
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