捧げ物
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「名前!はようせんと、鳴子あっちにおったよ」
「え、ええよ、やっぱり…」
「よかない!鳴子千葉に越してまうんよ?もう会えんかもしれないのに!」
堺浜中卒業式。梅の香りがするよく晴れた日だった。私たちはみんな離れ離れになってそれぞれの道へ進む。
だけど進路が違ってもその気になればすぐに会える。と思っていた。まさか鳴子が千葉へ引っ越すなんて。
鳴子は友達が多い。男も女も関係ない。いつだってクラスの中心で笑いをとるムードメーカーで、人気者だった。
お調子者なだけじゃない、ひとたびロードバイクという細くて綺麗な自転車に跨がれば嘘見たいにカッコいい。嘘だと思うならあの走りと表情を見てみればいい。応援したくなるから。眩しくて直視できないくらいに、すごい。
中二の夏休み、鳴子があんまりうるさいからクラスの何人かとレースを見に行った。ひやかし程度の気持ちだったけど、とんでもない間違いで、ピリピリとしたスリル溢れる走りに私はあの日から鳴子のファンだ。
ファンであり、好きなひとだ。
一緒に行ったみんなはみんな鳴子が好きになったと思ったけどそんなこともなくて、わりと友達からは応援されている。
でも鳴子は人気があるからなかなか第二ボタンが貰えるかは難しいところだ。
そして恥ずかしいではないか。クラスメイトにボタンちょうだい、なんて言うの。
「はようはよう、鳴子行ってまうで!」
「女同士写真撮っとる場合ちゃう」
「名前!これが最後のチャンスやで」
「待ってや、大丈夫やて、やっぱりええよ」
友達に手をひかれ背中を押されて鳴子がいたという場所に連れていかれる。
ひとがたくさん集まっていて賑やかな話し声が聞こえる。輪の中心に鳴子はいた。肩を組んでどつきあって、大口開けて笑うから八重歯が見えた。
「入りづら……」
ぼそりと呟いたが友はウインクやらサムズアップやら返してきた。
「鳴子ー!!!!!名前が呼んどるー!!!」
「ちょ、かんにんして……」
とめる間もなく鳴子を呼ばれた。
「あかんて、ええよ」
「よかない!名前後悔すんで」
呼ばれて鳴子は周りの男子たちになんだか言われながらもこちらに来てくれた。
友達も遠巻きにしながらニコニコと離れていく。
恥ずかしい、しにそう。
「なんや名前どないしたん」
鳴子の声だ。
もう照れても仕方ないどうせ卒業だ、と靴ばかりみていたが意を決して顔を上げる。
「な、鳴子……え……っ」
びっくりした。
鳴子を見れば目当ての第二ボタンどころかボタンが全部ない。
学ランどころか中に着てるカッターシャツのボタンまでない。
「ないやん、ボタン……」
「んー、なんや名前ワイのボタン欲しかったんか」
カッカと鳴子特有の笑い方をする。
「式終わってすぐに毟られてもうたわ、いやー人気者はつらいなあ」
細められた目には、乾いているがうっすらと涙の跡。少しだけ腫れた瞼から、泣いたんだな、とわかった。
「鳴子、行っちゃうんだね」
「決まったことや。ワイは関東でも名を馳せたる、浪速のスピードマンは場所を選ばん」
視線の先ははるか先。私と向き合っているけど私を見てはいない。なんて眩しい。
「うん、応援……してる」
鳴子が動くとボタンのない学ランやシャツの合間から腹筋や胸板が見えてドキドキする、はやく閉じて欲しいなどと考えていたら、真逆のことが起こった。
「な、鳴子!!なんで脱いどるん!」
「名前が欲しい言うのにやれるモンないからな、これやるわ」
鳴子は脱ぎたてのボタンのないカッターシャツをくれた。
「学ランは流石にあとでオカンにぶちくさ文句言われても嫌やし」
「え……、だって、これ」
「朝洗濯したし臭ないで、汗もかいとらへんし!いらんかったらええけど」
「いる!!!!」
「お、おう」
私の勢いつき過ぎた返事に鳴子も若干引き気味な様子だったが笑顔を返してくれた。宝物にしよう。
学ランだけ羽織った鳴子は皆の輪に帰っていく。
梅の花びらが舞って鳴子の顔にかかる。くっつきもせず目元から離れていく。彼の涙の跡は、もうわからない。先だけを、見てる。
END
「え、ええよ、やっぱり…」
「よかない!鳴子千葉に越してまうんよ?もう会えんかもしれないのに!」
堺浜中卒業式。梅の香りがするよく晴れた日だった。私たちはみんな離れ離れになってそれぞれの道へ進む。
だけど進路が違ってもその気になればすぐに会える。と思っていた。まさか鳴子が千葉へ引っ越すなんて。
鳴子は友達が多い。男も女も関係ない。いつだってクラスの中心で笑いをとるムードメーカーで、人気者だった。
お調子者なだけじゃない、ひとたびロードバイクという細くて綺麗な自転車に跨がれば嘘見たいにカッコいい。嘘だと思うならあの走りと表情を見てみればいい。応援したくなるから。眩しくて直視できないくらいに、すごい。
中二の夏休み、鳴子があんまりうるさいからクラスの何人かとレースを見に行った。ひやかし程度の気持ちだったけど、とんでもない間違いで、ピリピリとしたスリル溢れる走りに私はあの日から鳴子のファンだ。
ファンであり、好きなひとだ。
一緒に行ったみんなはみんな鳴子が好きになったと思ったけどそんなこともなくて、わりと友達からは応援されている。
でも鳴子は人気があるからなかなか第二ボタンが貰えるかは難しいところだ。
そして恥ずかしいではないか。クラスメイトにボタンちょうだい、なんて言うの。
「はようはよう、鳴子行ってまうで!」
「女同士写真撮っとる場合ちゃう」
「名前!これが最後のチャンスやで」
「待ってや、大丈夫やて、やっぱりええよ」
友達に手をひかれ背中を押されて鳴子がいたという場所に連れていかれる。
ひとがたくさん集まっていて賑やかな話し声が聞こえる。輪の中心に鳴子はいた。肩を組んでどつきあって、大口開けて笑うから八重歯が見えた。
「入りづら……」
ぼそりと呟いたが友はウインクやらサムズアップやら返してきた。
「鳴子ー!!!!!名前が呼んどるー!!!」
「ちょ、かんにんして……」
とめる間もなく鳴子を呼ばれた。
「あかんて、ええよ」
「よかない!名前後悔すんで」
呼ばれて鳴子は周りの男子たちになんだか言われながらもこちらに来てくれた。
友達も遠巻きにしながらニコニコと離れていく。
恥ずかしい、しにそう。
「なんや名前どないしたん」
鳴子の声だ。
もう照れても仕方ないどうせ卒業だ、と靴ばかりみていたが意を決して顔を上げる。
「な、鳴子……え……っ」
びっくりした。
鳴子を見れば目当ての第二ボタンどころかボタンが全部ない。
学ランどころか中に着てるカッターシャツのボタンまでない。
「ないやん、ボタン……」
「んー、なんや名前ワイのボタン欲しかったんか」
カッカと鳴子特有の笑い方をする。
「式終わってすぐに毟られてもうたわ、いやー人気者はつらいなあ」
細められた目には、乾いているがうっすらと涙の跡。少しだけ腫れた瞼から、泣いたんだな、とわかった。
「鳴子、行っちゃうんだね」
「決まったことや。ワイは関東でも名を馳せたる、浪速のスピードマンは場所を選ばん」
視線の先ははるか先。私と向き合っているけど私を見てはいない。なんて眩しい。
「うん、応援……してる」
鳴子が動くとボタンのない学ランやシャツの合間から腹筋や胸板が見えてドキドキする、はやく閉じて欲しいなどと考えていたら、真逆のことが起こった。
「な、鳴子!!なんで脱いどるん!」
「名前が欲しい言うのにやれるモンないからな、これやるわ」
鳴子は脱ぎたてのボタンのないカッターシャツをくれた。
「学ランは流石にあとでオカンにぶちくさ文句言われても嫌やし」
「え……、だって、これ」
「朝洗濯したし臭ないで、汗もかいとらへんし!いらんかったらええけど」
「いる!!!!」
「お、おう」
私の勢いつき過ぎた返事に鳴子も若干引き気味な様子だったが笑顔を返してくれた。宝物にしよう。
学ランだけ羽織った鳴子は皆の輪に帰っていく。
梅の花びらが舞って鳴子の顔にかかる。くっつきもせず目元から離れていく。彼の涙の跡は、もうわからない。先だけを、見てる。
END
1/3ページ