青八木一
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真っ直ぐな視線のその先に何があるのか、その走りを見ればわかる。
三年、最初で最期のインターハイ。そこに全てをかけているから私との時間がないのは仕方ない。そう頭では理解している。
彼の言葉には嘘がない。いつでも気持ちをそのまま表してくれるから言葉は少なくても伝わることが多い。さすがに手嶋くんのようにはいかないけど、私にだって少しはわかることもある。
だって真っ直ぐだから。
サラサラの髪は日を浴びて輝く。精悍さの増していく身体つきと大人の顔になっていくにしたがって青八木くんのことが気になると言う声を聞くようになった。
私は一年生の頃、彼と同じクラスになり、偶然にも隣の席になってからずっと好きだ。
私も彼も喋るのがあまり得意ではないから会話はほとんどなかった。
だけど青八木くんはイラストが上手くて。人並み以上に絵を描くのが好きな私たちは、どちらか示し合わせた訳じゃないけど、授業中ノートに絵だけで会話をしていた。
それは絵しりとりのこともあったし、昨日テレビでやっていた映画の感想のこともあったし、時にはゲームのキャラクターなんかも描いたりした。
ほとんど目も合わせないし会話もあまりなかったのだけど、それは幸せな時間で。私は青八木くんがそれからずっと好きだ。
2年になってクラスは変わり、青八木くんは手嶋くんといつも一緒にいたし、部活にも力を入れていたから関わりは減ってしまったが私は時間を見つけては自転車競技部の練習を見に行っていた。
見ていただけで何もないけど、それはそれで満足していた。
あれだけ自転車に打ち込んだにもかかわらずインターハイの選考から漏れた2年の夏以降、彼は変わった。
練習量を更に増やし、手嶋くんとの絆もますます強固なものとなり、より…その…かっこよくなった。
3年になって後輩もでき副主将となってからは口数も増え色気も男らしさも増して、そう、平たく言えば青八木くんが好きだという女の子の声をちらほら聞くようになったのだ。
私は内心穏やかではない。何せ一年の時から片想いをしているのだみんなとは年季が違う。
しかし恋とは想った期間はあまり関係ない。想いを伝えて、通じなければ意味を成さないのだ。
私は今日もひとり彼を見ていた。自転車に乗る彼の真摯な眼差しが好きだ。
「青八木くん…」
届くはずのない呟きを、風にのせた。
「どうした」
ん………。
気のせいかな、青八木くんの声がした。
「名前、呼んだか」
「あ、青八木くん…!」
気のせいじゃなかった。さっきまで手嶋くんたちとストレッチみたいなことしてた青八木くんが目の前にいた。
「あ、あの、久しぶり…」
恥ずかしくなって俯いてしまう。風になびく彼の髪がキラキラと光る。
「久しぶりじゃないのは知ってる。名前はよく見に来てくれてる」
正面から私を見つめて話す青八木くん。いつからこんな風になったのだろう。私の隣の席の青八木くんとは違う。
今の青八木くんは眩しくて、私の心臓なんて潰れてしまいそう。
「名前、手、貸して」
青八木くんは突然私の右手をとると、左手で支え、右の指先で私の手のひらに何か描いてくれた。
手のひらを走る指先がくすぐったくも気持ちいい。
なんだろう。
「鉛筆と、スケッチブック…?」
青八木くんの絵は良く知ってる、彼はこくりと頷く。正解だったみたいだ。
包んでくれた暖かく大きな手が離される。スースーして寂しい。
今更ながらに青八木くんと手を取り合ったことが恥ずかしくなって真っ赤になって、私はまた俯いた。
「名前、顔あげて。名前は小さいから下向くと何も見えない」
「ちいさいけど、そんなこと言わなくても…!」
確かに私は背が高くないけど体格のこと言われたくはなかった。
とっさに顔をあげると、青八木くんは優しく笑っていた。
「ごめん。ちがう。オレも大きくないから、可愛いんだ、名前が」
今度はそっと指先を絡めてくれた。恋人、みたいな仕草。
どくんと跳ね上がる心臓。
「あ、青八木くん…」
なんとか彼の名前だけを呼ぶ。
「名前、いつも見ていてくれてありがとう。オレは今年のインターハイ、純太たちと最高の走りをしてくる」
その視線の先は夏のインターハイのゴールだけを見てる。
「それが終わったらもう一度名前と絵が描きたい」
ふと流れる優しい空気に私の心臓の音だけが聞こえる。
「あ…だから鉛筆とスケッチブック…」
先ほど手のひらに描いてくれたもの。青八木くんも、私との時間を忘れてなかったんだ。胸の奥が熱くなる。
再びこくりと頷く青八木くん。
絡めた指を外すと少しだけ寂しそうに笑みを浮かべて手嶋くんたちのところへ戻るために、私に背中を向けた。
歩き出して遠くなる背中に声をかける。
「絵!描くから!今度はたくさん話したいし!約束だよ!」
半ば叫ぶような声になってしまい周りにも丸聞こえだ。恥ずかしくて消えたい。
今度は青八木くんも戸惑ったように赤くなって、手嶋くんたちにからかわれてるみたいだった。
真っ直ぐゴールだけ見て走る青八木くんの邪魔はしないから。
そのゴールの先で、あなたを待っていてもいいですか………
END
三年、最初で最期のインターハイ。そこに全てをかけているから私との時間がないのは仕方ない。そう頭では理解している。
彼の言葉には嘘がない。いつでも気持ちをそのまま表してくれるから言葉は少なくても伝わることが多い。さすがに手嶋くんのようにはいかないけど、私にだって少しはわかることもある。
だって真っ直ぐだから。
サラサラの髪は日を浴びて輝く。精悍さの増していく身体つきと大人の顔になっていくにしたがって青八木くんのことが気になると言う声を聞くようになった。
私は一年生の頃、彼と同じクラスになり、偶然にも隣の席になってからずっと好きだ。
私も彼も喋るのがあまり得意ではないから会話はほとんどなかった。
だけど青八木くんはイラストが上手くて。人並み以上に絵を描くのが好きな私たちは、どちらか示し合わせた訳じゃないけど、授業中ノートに絵だけで会話をしていた。
それは絵しりとりのこともあったし、昨日テレビでやっていた映画の感想のこともあったし、時にはゲームのキャラクターなんかも描いたりした。
ほとんど目も合わせないし会話もあまりなかったのだけど、それは幸せな時間で。私は青八木くんがそれからずっと好きだ。
2年になってクラスは変わり、青八木くんは手嶋くんといつも一緒にいたし、部活にも力を入れていたから関わりは減ってしまったが私は時間を見つけては自転車競技部の練習を見に行っていた。
見ていただけで何もないけど、それはそれで満足していた。
あれだけ自転車に打ち込んだにもかかわらずインターハイの選考から漏れた2年の夏以降、彼は変わった。
練習量を更に増やし、手嶋くんとの絆もますます強固なものとなり、より…その…かっこよくなった。
3年になって後輩もでき副主将となってからは口数も増え色気も男らしさも増して、そう、平たく言えば青八木くんが好きだという女の子の声をちらほら聞くようになったのだ。
私は内心穏やかではない。何せ一年の時から片想いをしているのだみんなとは年季が違う。
しかし恋とは想った期間はあまり関係ない。想いを伝えて、通じなければ意味を成さないのだ。
私は今日もひとり彼を見ていた。自転車に乗る彼の真摯な眼差しが好きだ。
「青八木くん…」
届くはずのない呟きを、風にのせた。
「どうした」
ん………。
気のせいかな、青八木くんの声がした。
「名前、呼んだか」
「あ、青八木くん…!」
気のせいじゃなかった。さっきまで手嶋くんたちとストレッチみたいなことしてた青八木くんが目の前にいた。
「あ、あの、久しぶり…」
恥ずかしくなって俯いてしまう。風になびく彼の髪がキラキラと光る。
「久しぶりじゃないのは知ってる。名前はよく見に来てくれてる」
正面から私を見つめて話す青八木くん。いつからこんな風になったのだろう。私の隣の席の青八木くんとは違う。
今の青八木くんは眩しくて、私の心臓なんて潰れてしまいそう。
「名前、手、貸して」
青八木くんは突然私の右手をとると、左手で支え、右の指先で私の手のひらに何か描いてくれた。
手のひらを走る指先がくすぐったくも気持ちいい。
なんだろう。
「鉛筆と、スケッチブック…?」
青八木くんの絵は良く知ってる、彼はこくりと頷く。正解だったみたいだ。
包んでくれた暖かく大きな手が離される。スースーして寂しい。
今更ながらに青八木くんと手を取り合ったことが恥ずかしくなって真っ赤になって、私はまた俯いた。
「名前、顔あげて。名前は小さいから下向くと何も見えない」
「ちいさいけど、そんなこと言わなくても…!」
確かに私は背が高くないけど体格のこと言われたくはなかった。
とっさに顔をあげると、青八木くんは優しく笑っていた。
「ごめん。ちがう。オレも大きくないから、可愛いんだ、名前が」
今度はそっと指先を絡めてくれた。恋人、みたいな仕草。
どくんと跳ね上がる心臓。
「あ、青八木くん…」
なんとか彼の名前だけを呼ぶ。
「名前、いつも見ていてくれてありがとう。オレは今年のインターハイ、純太たちと最高の走りをしてくる」
その視線の先は夏のインターハイのゴールだけを見てる。
「それが終わったらもう一度名前と絵が描きたい」
ふと流れる優しい空気に私の心臓の音だけが聞こえる。
「あ…だから鉛筆とスケッチブック…」
先ほど手のひらに描いてくれたもの。青八木くんも、私との時間を忘れてなかったんだ。胸の奥が熱くなる。
再びこくりと頷く青八木くん。
絡めた指を外すと少しだけ寂しそうに笑みを浮かべて手嶋くんたちのところへ戻るために、私に背中を向けた。
歩き出して遠くなる背中に声をかける。
「絵!描くから!今度はたくさん話したいし!約束だよ!」
半ば叫ぶような声になってしまい周りにも丸聞こえだ。恥ずかしくて消えたい。
今度は青八木くんも戸惑ったように赤くなって、手嶋くんたちにからかわれてるみたいだった。
真っ直ぐゴールだけ見て走る青八木くんの邪魔はしないから。
そのゴールの先で、あなたを待っていてもいいですか………
END