青八木一
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例えばオーダーをミスしてお客さんを怒らせてしまった時とか、お皿を落として割ってしまった時とか、さり気なくフォローしてくれて、さらに咎めるでなく私の心配をしてくれる人。
「ねえ、バイト何時に上がるの?この後暇でしょ、待ってるから」
「いえ、ちょっと何時になるかわからないので…」
「なわけないでしょ、オレ待ってるから」
こんな風によくわからない男性客に絡まれても安心してしまうのは
「すいませんね、お客さん、彼女は遠いのでオレが送っていくようにマスターから言われてるので」
手嶋さんが助けに来てくれるって知ってるから。
迷惑なお客は「彼氏もちかよ」と舌打ちをしながら帰って行った。彼氏ではないけど面倒になるだけだから誰も否定しない。
「すいません、いつも助けてもらってばかりで」
「気にすんなよ、だいぶバイトには慣れた?」
「はい!手嶋さんのおかげです!」
素直にお礼を言うと面食らったのか優しい目線でこちらを見ていた手嶋さんはそっぽを向いてしまった。
「オレのおかげじゃねーよ、名前がそれだけ頑張ったからだろ、いわば当然の結果だ」
でも口元は笑っている。
優しいバイト先の先輩は、大学の先輩でもある。
今年から晴れて女子大生となり、ひとり暮らしを始めた私の不安にあれこれ答えてくれ、公私共にとてもお世話になっている。
「マスターが休憩入っていいってさ、休もうぜ」
言いながら手嶋さんは器用に給仕までしてくれた。器用な人だ。高い位置から注がれる紅茶。茶葉が甘く香る。
「手嶋さん、欲しい本とかありますか」
休憩室、向かい合って座り、クッキーを齧りながら私は聞いた。
「あー、またあれか、本屋の」
「はい!!!」
手嶋さんと一緒に休憩に入るときはだいたい私の恋愛相談の時間となる。
もっとも大した話はない、だってただの私の片思いなのだから。
「いや頼んだよな、毎月買ってくれって」
「はい!自転車の雑誌ですよね、でももっと彼と話したいんです、私の欲しい本ももうなくて。あ、でもおかげで彼もロードバイク乗ってたことがわかりました!いつもより少し話せましたよ!」
「………」
手嶋さんから返事はなく、何か考えている様子だ。
「手嶋さん?」
「本屋の店員でロード乗ってる…?まさかな」
首を傾げてウェーブのかかった髪が揺れる。肘まで捲られた腕は細いのに筋肉質なのがわかって、男の人の腕だなあと少しドキリとした。決して変な意味はない。
「今度その本屋、オレも連れて行ってくんね?いや、舞台を見ておきたいだろ」
何故か手嶋さんと私の恋する相手に一緒に会いに行くことになってしまった。あまり話したこともないのに手嶋さんとの関係を誤解されたらどうしよう。
本屋の彼と知り合ったきっかけは、私の探していた本がなくて、取り寄せを頼んだことだ。彼は本のタイトルを告げた私に、業務的な事を聞く前に「その本は良かった…」とぽつりともらした。
私はそれがなんだか嬉しくて、本が届き読んだ後に「とても面白かったです!特に〜…」と求められてもいないのに感想を語っていた。
彼も私を覚えていてくれたみたいで、こんな変なやつの話を聞いてくれ、最後に「よかった…」とだけ言ってくれた。
明るい髪色から片方だけ覗く不思議な色の瞳に吸い込まれる様に、私は恋に落ちた。
それから本をたくさん買いに行っては少しずつ会話をして彼のことを知って行った。近くの美大に通っていること。現代文学や美術史に明るいのにスポーツもやっていそうな身体つきは高校時代競技自転車をやっていたからということ。
彼女はいないこと。
「あ、あの人です、あそこで雑誌並べ…」
書店に着き、私が彼の事をこっそり紹介しようとしたのに、手嶋さんはすでに彼の元へ歩いていた。
「よー、青八木ぃ」
手嶋さんは人好きのするいつもの笑顔だったが何か違う、彼に対しての特別な空気があった。
そして顔をあげた彼の表情を私は忘れないだろう。
「純太…!」
花開くとでも言うのか、それは嬉しそうに笑ったのだ。私は、そんな表情、見た事ない…。
「買い物か?」
彼の声に手嶋さんは私を手招きした。
「名前ちゃんがお前と出かけたいって」
「て、てしまさ…!!」
とっさのことに私は金魚みたいにぱくぱくとしてしまう、心臓はうるさいのに言葉が出ない。
そしてその後に続く言葉に、私の心臓はさらに悲鳴をあげることとなる。
「だってお前も言ってたろ、最近本屋にくる小柄な女の子と話すのが楽しいってな」
イタズラっぽく笑みを浮かべる手嶋さんに、彼は真っ赤になりながら「純太!」と咎める様に言ったのだった。
その表情もまた初めて見るものだった。
ああどうか、小柄な女の子のことが私で間違いありませんように。
真っ直ぐ見つめてくれた彼の視線に、幸せな感情が、じわじわと溢れて私を満たしていった。
END
「ねえ、バイト何時に上がるの?この後暇でしょ、待ってるから」
「いえ、ちょっと何時になるかわからないので…」
「なわけないでしょ、オレ待ってるから」
こんな風によくわからない男性客に絡まれても安心してしまうのは
「すいませんね、お客さん、彼女は遠いのでオレが送っていくようにマスターから言われてるので」
手嶋さんが助けに来てくれるって知ってるから。
迷惑なお客は「彼氏もちかよ」と舌打ちをしながら帰って行った。彼氏ではないけど面倒になるだけだから誰も否定しない。
「すいません、いつも助けてもらってばかりで」
「気にすんなよ、だいぶバイトには慣れた?」
「はい!手嶋さんのおかげです!」
素直にお礼を言うと面食らったのか優しい目線でこちらを見ていた手嶋さんはそっぽを向いてしまった。
「オレのおかげじゃねーよ、名前がそれだけ頑張ったからだろ、いわば当然の結果だ」
でも口元は笑っている。
優しいバイト先の先輩は、大学の先輩でもある。
今年から晴れて女子大生となり、ひとり暮らしを始めた私の不安にあれこれ答えてくれ、公私共にとてもお世話になっている。
「マスターが休憩入っていいってさ、休もうぜ」
言いながら手嶋さんは器用に給仕までしてくれた。器用な人だ。高い位置から注がれる紅茶。茶葉が甘く香る。
「手嶋さん、欲しい本とかありますか」
休憩室、向かい合って座り、クッキーを齧りながら私は聞いた。
「あー、またあれか、本屋の」
「はい!!!」
手嶋さんと一緒に休憩に入るときはだいたい私の恋愛相談の時間となる。
もっとも大した話はない、だってただの私の片思いなのだから。
「いや頼んだよな、毎月買ってくれって」
「はい!自転車の雑誌ですよね、でももっと彼と話したいんです、私の欲しい本ももうなくて。あ、でもおかげで彼もロードバイク乗ってたことがわかりました!いつもより少し話せましたよ!」
「………」
手嶋さんから返事はなく、何か考えている様子だ。
「手嶋さん?」
「本屋の店員でロード乗ってる…?まさかな」
首を傾げてウェーブのかかった髪が揺れる。肘まで捲られた腕は細いのに筋肉質なのがわかって、男の人の腕だなあと少しドキリとした。決して変な意味はない。
「今度その本屋、オレも連れて行ってくんね?いや、舞台を見ておきたいだろ」
何故か手嶋さんと私の恋する相手に一緒に会いに行くことになってしまった。あまり話したこともないのに手嶋さんとの関係を誤解されたらどうしよう。
本屋の彼と知り合ったきっかけは、私の探していた本がなくて、取り寄せを頼んだことだ。彼は本のタイトルを告げた私に、業務的な事を聞く前に「その本は良かった…」とぽつりともらした。
私はそれがなんだか嬉しくて、本が届き読んだ後に「とても面白かったです!特に〜…」と求められてもいないのに感想を語っていた。
彼も私を覚えていてくれたみたいで、こんな変なやつの話を聞いてくれ、最後に「よかった…」とだけ言ってくれた。
明るい髪色から片方だけ覗く不思議な色の瞳に吸い込まれる様に、私は恋に落ちた。
それから本をたくさん買いに行っては少しずつ会話をして彼のことを知って行った。近くの美大に通っていること。現代文学や美術史に明るいのにスポーツもやっていそうな身体つきは高校時代競技自転車をやっていたからということ。
彼女はいないこと。
「あ、あの人です、あそこで雑誌並べ…」
書店に着き、私が彼の事をこっそり紹介しようとしたのに、手嶋さんはすでに彼の元へ歩いていた。
「よー、青八木ぃ」
手嶋さんは人好きのするいつもの笑顔だったが何か違う、彼に対しての特別な空気があった。
そして顔をあげた彼の表情を私は忘れないだろう。
「純太…!」
花開くとでも言うのか、それは嬉しそうに笑ったのだ。私は、そんな表情、見た事ない…。
「買い物か?」
彼の声に手嶋さんは私を手招きした。
「名前ちゃんがお前と出かけたいって」
「て、てしまさ…!!」
とっさのことに私は金魚みたいにぱくぱくとしてしまう、心臓はうるさいのに言葉が出ない。
そしてその後に続く言葉に、私の心臓はさらに悲鳴をあげることとなる。
「だってお前も言ってたろ、最近本屋にくる小柄な女の子と話すのが楽しいってな」
イタズラっぽく笑みを浮かべる手嶋さんに、彼は真っ赤になりながら「純太!」と咎める様に言ったのだった。
その表情もまた初めて見るものだった。
ああどうか、小柄な女の子のことが私で間違いありませんように。
真っ直ぐ見つめてくれた彼の視線に、幸せな感情が、じわじわと溢れて私を満たしていった。
END
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