鳴子章吉
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「何渡すか決めたんか、スカシ」
「何をだ」
「せやからホワイトデーのお返し言うやつや、ぎょうさんもろてたやろ」
ああ……と興味なさそうにスカシは今日もスカシて着替えながらも口にしたのは聞いたこともないブランド名。なんでもベルギー王室ご用達の製菓メーカーだとか。
義理でそれやで。ワイには縁のない話や。きっとコイツにチョコあげる女子の半数はお返し目当てやな。でないとワイの方がチョコ少なかったんがおかしい。
いやワイかてスカシに届かないまでも数はかなりのもんやった。チロルとかチロルとかチロルうるさいわ!くらいもろた。彼女らへのお返しは悩んどらん。ありがとうーの念を込めた菓子を配らせてもらう。
問題は一つだけもらったどう見ても特別なやつのお返しや。
隣の席やから義理でくれたんやろ思うとったけど。帰って赤いラッピングをほどけばかわいらしい手作りのマドレーヌがでてきたんで驚いた。
うっかり居間で店開きしてもうたからおかんにひやかされながらマドレーヌもチロルもほぼ弟妹に食われてしもたがなんとかひとつは死守したもんや。
フワフワで甘すぎなくて、なんやめちゃウマかった。
名前は料理部やから部活で作ったのをただくれた可能性もあるが、他のヤツらへの聞き込みで、部で作ったんはラップにくるんだだけで配っていたらしい。
つまりきちんと包装してあったワイのは特別なんやろう。ええやろそう思ても。
やけどバレンタイン後の名前の態度が変わったかちゅうとそんなこともなく、いつものように授業中にコソコソ雑談したりよく笑うところが可愛かったり、部活帰りに偶然会えばよく甘い匂いがした。そんな日は自転車を押してバス停まで話したりした。
たまに部活で作ったものもくれて、それもやはりラップに包んだだけだったから、あの日のあれはやはり特別なもんやったんや。
「よっしゃー!鳴子章吉、男みせたるで!!」
「ど、どうしたの鳴子くん」
「明日のホワイトデー決めたるでワイは!見とれよ小野田くん」
「なんだかわからないけど鳴子くんはすごいね!」
「なんでもいいから早く着替えろよ」
天使のように目をキラキラさせる小野田くんには彼女ができたら報告するけど、このスカシたヤローには教えたらんわ。言われんでも着替えるっちゅーねん。
ペダルを漕いでる間はお返しのことはすっかり頭から消えとった。
というか帰り道名前に会うまで忘れとった。自転車いうんはホンマ罪なやっちゃて。
「鳴子くん」
「名前ちゃん」
今日も少し甘い匂いがする。ワイはきっと汗くさいで、えらい違いや。
「小野田くん先行っててや、ワイバス停まで歩いてくわ」
「う、うん、鳴子くん、頑張ってねっ」
小野田くんは嫌な顔もせず何故か赤くなって動揺しながら、慌ててママチャリとも思えん速さで居なくなった。
「なんやろ、小野田くんがあんな慌てんでもええのに」
「平気?鳴子くん、小野田くんと帰るんじゃなかったの」
風になびく髪、こちらを見る視線、漂う香り。全てが甘い。おかしくなりそうや。
「ええんや小野田くんは知っとるから」
「なに?ヒミツのこと?」
「いや、ワイが名前ちゃん好きなこと」
風がやむ。髪もスカートも静かに降りる。ただ甘い匂いだけが漂っていた。
名前ちゃんの顔は真っ赤になって、耳まで赤くて、そりゃあ可愛かったけどうつむいてしまって見えなくなった。
「うそ……」
「うそやないで」
「だって鳴子くんバレンタインの後も何も言ってくれなかったから」
「いやあれが本命かわからんくて」
「わかってよ……」
「言ってくれんとわからんわ名前ちゃん」
ワイは名前ちゃんの肩に手を置いた。片手はピナレロから離すわけにはいかんからもうひとつの手でそっと触れた。
「ワイは言うたで」
うつ向いた顔を覗きこむ。
真っ赤な顔はさらに赤く。甘い匂いは更に強く。
「名前ちゃん」
「鳴子くん……」
「言うてや」
寄ればそれだけ甘さが増してくる。
甘い、甘い、食べてしまいたい。
「好きやで」
耐えきれず唇をそっと合わせると、頭がクラクラするくらい甘くて倒れそうになった。
「鳴子、くん……」
名前ちゃんはピナレロの車体くらい赤い顔をして目には涙までためていたが、怒っている風ではない。
「ええな、ワイの好きな色や」
肩から可愛い頬に手を伸ばす。
「赤くて」
名前ちゃんはようやくワイを見てくれた。
「鳴子くん、何も言ってくれないから諦めてた。友だちでいようって」
「おん」
「でも、伝わってなかったんだね」
「せやで、言うて」
「鳴子くん」
風が吹く。甘い香りが風とともに運ばれてくる。
「大好き、ずっと、好きだった」
片腕で名前を抱きしめた。甘くて甘くて、溶けそうや。
***
「なんやバス行ってもうたやん」
ワイと名前が無事付き合うことになった代わりにバスは無情にも発車してしまったようだ。
「まあええわ、駅まで送ったるわ」
「鳴子くん、自転車なら一瞬なのに、ごめんね」
「ごめんやないわ!か、かの、彼女送るんは当たり前のことやろ!」
ワイが照れながら言うと、名前は嬉しそうに「ありがとう」笑った。
それが見たかったんや。
坂を歩いて下りながら、道中ホワイトデーのお返しは何がいいか聞こう。一緒に選びに行ってもええ。
お返しの特集を読んでも他の女子に聞いても仕方ない。名前の喜ぶもんが知りたいんや。
甘い甘い美味しそうな匂いが広がる。
手を繋げば暖かくてそこから蕩けた。
「マドレーヌ、めっちゃうまかったで」
ワイも言えなかったことを一ヶ月遅れでようやっと伝えることができた。
END
「何をだ」
「せやからホワイトデーのお返し言うやつや、ぎょうさんもろてたやろ」
ああ……と興味なさそうにスカシは今日もスカシて着替えながらも口にしたのは聞いたこともないブランド名。なんでもベルギー王室ご用達の製菓メーカーだとか。
義理でそれやで。ワイには縁のない話や。きっとコイツにチョコあげる女子の半数はお返し目当てやな。でないとワイの方がチョコ少なかったんがおかしい。
いやワイかてスカシに届かないまでも数はかなりのもんやった。チロルとかチロルとかチロルうるさいわ!くらいもろた。彼女らへのお返しは悩んどらん。ありがとうーの念を込めた菓子を配らせてもらう。
問題は一つだけもらったどう見ても特別なやつのお返しや。
隣の席やから義理でくれたんやろ思うとったけど。帰って赤いラッピングをほどけばかわいらしい手作りのマドレーヌがでてきたんで驚いた。
うっかり居間で店開きしてもうたからおかんにひやかされながらマドレーヌもチロルもほぼ弟妹に食われてしもたがなんとかひとつは死守したもんや。
フワフワで甘すぎなくて、なんやめちゃウマかった。
名前は料理部やから部活で作ったのをただくれた可能性もあるが、他のヤツらへの聞き込みで、部で作ったんはラップにくるんだだけで配っていたらしい。
つまりきちんと包装してあったワイのは特別なんやろう。ええやろそう思ても。
やけどバレンタイン後の名前の態度が変わったかちゅうとそんなこともなく、いつものように授業中にコソコソ雑談したりよく笑うところが可愛かったり、部活帰りに偶然会えばよく甘い匂いがした。そんな日は自転車を押してバス停まで話したりした。
たまに部活で作ったものもくれて、それもやはりラップに包んだだけだったから、あの日のあれはやはり特別なもんやったんや。
「よっしゃー!鳴子章吉、男みせたるで!!」
「ど、どうしたの鳴子くん」
「明日のホワイトデー決めたるでワイは!見とれよ小野田くん」
「なんだかわからないけど鳴子くんはすごいね!」
「なんでもいいから早く着替えろよ」
天使のように目をキラキラさせる小野田くんには彼女ができたら報告するけど、このスカシたヤローには教えたらんわ。言われんでも着替えるっちゅーねん。
ペダルを漕いでる間はお返しのことはすっかり頭から消えとった。
というか帰り道名前に会うまで忘れとった。自転車いうんはホンマ罪なやっちゃて。
「鳴子くん」
「名前ちゃん」
今日も少し甘い匂いがする。ワイはきっと汗くさいで、えらい違いや。
「小野田くん先行っててや、ワイバス停まで歩いてくわ」
「う、うん、鳴子くん、頑張ってねっ」
小野田くんは嫌な顔もせず何故か赤くなって動揺しながら、慌ててママチャリとも思えん速さで居なくなった。
「なんやろ、小野田くんがあんな慌てんでもええのに」
「平気?鳴子くん、小野田くんと帰るんじゃなかったの」
風になびく髪、こちらを見る視線、漂う香り。全てが甘い。おかしくなりそうや。
「ええんや小野田くんは知っとるから」
「なに?ヒミツのこと?」
「いや、ワイが名前ちゃん好きなこと」
風がやむ。髪もスカートも静かに降りる。ただ甘い匂いだけが漂っていた。
名前ちゃんの顔は真っ赤になって、耳まで赤くて、そりゃあ可愛かったけどうつむいてしまって見えなくなった。
「うそ……」
「うそやないで」
「だって鳴子くんバレンタインの後も何も言ってくれなかったから」
「いやあれが本命かわからんくて」
「わかってよ……」
「言ってくれんとわからんわ名前ちゃん」
ワイは名前ちゃんの肩に手を置いた。片手はピナレロから離すわけにはいかんからもうひとつの手でそっと触れた。
「ワイは言うたで」
うつ向いた顔を覗きこむ。
真っ赤な顔はさらに赤く。甘い匂いは更に強く。
「名前ちゃん」
「鳴子くん……」
「言うてや」
寄ればそれだけ甘さが増してくる。
甘い、甘い、食べてしまいたい。
「好きやで」
耐えきれず唇をそっと合わせると、頭がクラクラするくらい甘くて倒れそうになった。
「鳴子、くん……」
名前ちゃんはピナレロの車体くらい赤い顔をして目には涙までためていたが、怒っている風ではない。
「ええな、ワイの好きな色や」
肩から可愛い頬に手を伸ばす。
「赤くて」
名前ちゃんはようやくワイを見てくれた。
「鳴子くん、何も言ってくれないから諦めてた。友だちでいようって」
「おん」
「でも、伝わってなかったんだね」
「せやで、言うて」
「鳴子くん」
風が吹く。甘い香りが風とともに運ばれてくる。
「大好き、ずっと、好きだった」
片腕で名前を抱きしめた。甘くて甘くて、溶けそうや。
***
「なんやバス行ってもうたやん」
ワイと名前が無事付き合うことになった代わりにバスは無情にも発車してしまったようだ。
「まあええわ、駅まで送ったるわ」
「鳴子くん、自転車なら一瞬なのに、ごめんね」
「ごめんやないわ!か、かの、彼女送るんは当たり前のことやろ!」
ワイが照れながら言うと、名前は嬉しそうに「ありがとう」笑った。
それが見たかったんや。
坂を歩いて下りながら、道中ホワイトデーのお返しは何がいいか聞こう。一緒に選びに行ってもええ。
お返しの特集を読んでも他の女子に聞いても仕方ない。名前の喜ぶもんが知りたいんや。
甘い甘い美味しそうな匂いが広がる。
手を繋げば暖かくてそこから蕩けた。
「マドレーヌ、めっちゃうまかったで」
ワイも言えなかったことを一ヶ月遅れでようやっと伝えることができた。
END