鳴子章吉
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「クリスマスケーキのお受け取りはこちらですー!」
クリスマスイブ。鳴子も田所パンで予約したクリスマスケーキを受け取りに来ていた。
さすがに今日は忙しいだろうと受け取りだけして帰るつもりでいた。
そう、名字の姿を見るまでは。
「自分なんちゅーカッコしてるんすか!」
「え、サンタ?」
「こんなミニスカのサンタはおりません!ちょっとオッサンに文句言ってきます」
「いやいやいや、迅くん関係ないから!今忙しいし!これは私が用意したの!」
「せやかてそんなん冷えるし名字さんがしたらあきませんわ、ワイがトナカイでもして売ります!」
…………十分後、鳴子はトナカイの着ぐるみを被り田所パンの店先でクリスマスケーキの受け取りの臨時バイトをしていた。
人手が足りなかったのだろう、名字がサンタ姿のまま店内のレジに入ると、田所の母親は忙しそうに厨房へ向かう。
これはハニートラップだ、ご丁寧にトナカイまで用意して。
だが名字を寒空や通行人の視線から守れたことに鳴子は満足していた。
ケーキの受け渡しも忙しかったが、厨房の仕事が終わった田所が店先に来て声をかける。
「おう、悪かったな鳴子。バイト代はずむってよ、親父が」
「かまいませんけど。オッサンは名字さんにあんなカッコさせて平気なんすか」
「いやありゃあうちにはトナカイしかねーって言ったらサンタならあるって持ってくるからよ、まあ鳴子が止めに入ると思ったがな」
豪快に笑う田所に鳴子がかみつく。
「せやかてオッサン平気なんすか、好きな女が周りからジロジロ見られて!」
「いやオレは別に名字のことは好きじゃねーよ、大事な仲間だとは思うがな」
鳴子は田所を見ていられず目をそらす。だんだん顔に熱が集まってくる。
「髪みてーに赤い顔だな、可愛いとかマメツブとか言われたくなかったらしっかり決めてこいよ鳴子」
心底面白そうに笑う田所を横目に、鳴子はバイトを終えた。
「名字もあれで素直じゃねーからよ」
田所のひとり言は、街の喧騒に消える。
******
「鳴子お疲れ」
「お疲れっす」
あとは売り場だけなのでバイトは大丈夫と、二人は同時にあがることになった。
鳴子はケーキの受け取りがあったので今日は自転車ではなく歩きで来ていた。
それが幸いして、クリスマスの街を名字と並んで歩くことができたのでケーキに感謝していた。
「急にバイトになっちゃって大丈夫だった?」
「別に予定もないですし」
「ほら、ケーキ。ご家族が待ってるんじゃない」
「家では別にケーキ買ってますから。これはワイが食いたかったんす」
「ふうん」
歩きながら名字の横顔を見ると、向こうも鳴子の方を向いたので目が合った。
「なら一緒に食べようよ」
「ええですけど……名字さん、予定は」
「両親は仕事で遅いし、兄弟はいないよ」
「いやご家族もですが、か、カレシとか」
「いたら鳴子誘わないよ」
「そうっすよね」
しばらく名字の家まで並んで歩くが、落ち着かない様子の鳴子は突然足をとめる。
「どうしたの」
「いや、ケーキ食べる前にイルミネーション見に行きませんか、名字さん」
「いいけど、ケーキ荷物にならない?」
「大丈夫っす、どうせ告白するなら鳴子章吉、派手な場所で派手に決めたいっすから!!」
にかっと八重歯を見せて笑う鳴子。
「……!!声でかいし!イルミネーション見るだけだから!叫んだりしたら置いてくよ!」
照れを隠すように早足で名字は夜の街を抜ける。追いかける赤毛の彼と楽しそうに笑いながら。
田所は全部知ってたなと思うと悔しいが、まだまだあのオッサンにはかなわんな、と、鳴子は思いつつクマのサンタに感謝した。
END